第123話 使いこなせない【才能】

 【才能ギフト】を持っていなかたはずのハルマの【才能ギフト】の目覚め。

 思いもよらぬ状況に一番混乱しているのは突然【才能ギフト】が目覚めたハルマ自身だ。なぜ自分の手に先ほどまでなかったはずの刀が握られているのか、まるで理解できていなかった。

 エリカがハルマの武器として作った刀はまだ地面に転がっている。離れた位置にいるエリカが刀を作ってハルマに渡せるわけもない。ならばこの刀を作りだしたのはハルマ自身という結論しかない。だが、どうやって作ったのか、そもそも何をしたのかがわからない。


「今の……ボクが?」

「くぅっ! 話が違うぞ。まだ目覚めないんじゃなかったのか!」


 全員が混乱するなかで、ソノマンだけは何かを知っているようだったがそれを問い詰めることができる雰囲気でもない。戦いはまだ終わったわけではないのだから。


「ハルマ! 油断しないで!」

「っ!」

「【才能ギフト】が目覚めたならば話は別だ。貴様はここで殺す。どのみち必要なのは貴様の肉体だけだ!」


 右腕の肘から先が切り落とされたというのに、ソノマンは怯むことなくハルマに向かって飛びかかってきた。

 それにいち早く気付いたフィオナがハルマに声を飛ばすが、混乱していたハルマは反応が僅かに遅れてしまう。


「あがっ!」

「このまま殺してやる!」


 ソノマンに首を絞められるハルマ。先ほどまでのソノマンは生け捕りにしようとどこか理性が働いている様子だったが、今はもう殺意しかない。

 首を絞めるのではなく、ハルマの首を折ろうとしていた。


(ここに来て一番の力……くっ、振りほどけない。だったら!)


 先ほどまでとは違い、刀はまだハルマの手の中にある。右腕に続いて左腕を切り落とそうとするハルマ。しかしその一刀はソノマンの腕を斬ることはなく、止められてしまった。

 掴まれたままで力が刀に伝わりきらなかったということもある。しかしそれ以上にソノマンの脅威的な身体強化が刀を阻んだ。今のソノマンの左腕は鉄よりも硬かった。

 刀が通らない。その事実は限界にあったハルマをさらに絶望の淵へと叩き落とすものだった。


(死ぬ……ここで死ぬ。嫌だ……そんなの、嫌だっっ!!)


 ハルマが死を強く拒絶し、ソノマンに対抗する手段を強く求めたその瞬間のことだった。ソノマンとハルマの間の床が隆起し、土が槍のようになってソノマンに向かっていく。

 

「なにっ!?」


 土の槍がソノマンに命中する前にハルマは投げられ、壁に叩きつけられてしまった。


「ゲホッ、ゲホッ……っ、はぁはぁ……」

「残念だったな。左腕までくれてやるほど私は優しくない」

「そうみたいだね……」


 もし土の槍が出現しなければハルマは確実に死んでいた。今も痛みを訴えているハルマの首がそれを何より証明している。


(いきなり【才能ギフト】が目覚めたなんて言われても、どうやって使ったらいいかなんてわかんないよ!)


 【才能ギフト】の有無は幼少期に検査を受けることで調べることができる。そこで自身がどんな【才能ギフト】を持っているかを知るのだ。

 でなければ、【才能ギフト】の使い方も能力も知ることができないのだから。しかし突然目覚めた状態のハルマは【才能ギフト】の使い方を知らないどころか、自身に備わっているのがどんな【才能ギフト】なのかすらわかっていなかった。

 だが、ここでハルマは一つ大きな間違いを犯してしまった。


「二度も使えたならもう一度使えるはずだ。そしたらきっと」


才能ギフト】の目覚めによってソノマンに一矢報いることができたという事実、そして【才能ギフト】が目覚めたという高揚。それがハルマの判断を鈍らせてしまった。

 十分に使えるわけではない【才能ギフト】に頼ってしまったのだ。だが今のハルマは突然翼を与えられたも同然。無かった物を突然与えられて使いこなせるはずがなかった。


「はぁああああああっっ!!」

「ダメ、ハルマ!」


 無策にもソノマンに向かって突っ込むハルマ。しかしそんな甘い行動が通用するはずもなく、ハルマはソノマンに殴り飛ばされる。幸いだったのは、ハルマと同じくソノマンも三度目を警戒して軽い反撃だけで終わったことだ。


「クソッ、なんで!」


 【才能ギフト】を使おうと必死に念じるハルマ。しかし、どれだけ願っても【才能ギフト】は使えない。あるはずのものが使えない。その焦りがさらにハルマから余裕を奪う。


「いい加減落ち着きなさいハルマ!」

「っ!」


 そんなハルマを一喝したのがエリカだった。再び突っ込もうとしたハルマの捕まえて戒める。


「【才能ギフト】頼りに無茶な真似しないで! 死にたいの!?」

「……ごめん」


 その一言に冷静さを取り戻すハルマ。そして同時に自分がどれだけ愚かなことをしていたのかを悟る。


「だいじょうぶ。ハルマは【才能ギフト】が無くても戦える。わたしだって【才能ギフト】なんて無いし」

「そうだね。ごめん、ボクどうかしてたみたいだ」

「ハルマ。【才能ギフト】だって剣術と同じ。練習しないと使えない。今は【才能ギフト】のことなんて考えないで」

「わかった」


 ハルマとエリカ達が話している間、ソノマンが手出しをすることはなかった。しかしそれはただ傍観していたからではない。準備を進めていたからだ。


「悠長に話して居てくれて助かった。おかげで私も準備を進めることができた。彼を呼ぶ準備を」

「彼って……まさか!」

「頭に血が昇ってすっかり冷静さを失っていた。そもそも戦いは私の領分ではない。戦いは、戦える者に任せれば良い――『開門』!」


 ソノマンが床に手を突くと、床が隆起し門が出現する。その門がどこと繋がっているのか、ソノマンが誰を呼び出そうとしているのか。それを悟ったハルマ達の顔色が変わる。


「すまない、遅くなったな」


 門が開き、そこから姿を現したのはザナトシュだった。ミレイとの戦いのダメージからも回復したのか、大きく負傷した様子もない。


「さぁ、勤めを果たせザナトシュ。ここにいる者達を全員殺せ」


 冷酷に、無慈悲にソノマンが宣告する。


「いいんだな?」

「あぁ、【才能ギフト】に目覚めてしまった以上そいつは『勇者』以上の危険因子となる可能性がある。万が一にも逃がすわけにはいかない。ここで殺す。持ち帰るのは屍だけで良い」

「わかった。そういうことだ。そこの勇者の息子を除いて他の二人には恨みはないが、死んでもらうとしよう」


 その言葉と共に剣を抜くザナトシュ。ハルマ達にとって絶望の戦いが始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る