第118話 思い出した記憶
ハルマ達の連撃に加え、外からのフェミナの攻撃でようやく氷壁に穴が空いた。
「ご無事ですか、お嬢様、ディルク様! 早く外へ!」
「あなた、フェミナ!?」
「疑問は後ですお嬢様。早く外へ、少しずつ塞がっています!」
「っ! みんな急いで!」
飛び込むようにして穴から出るハルマ達。最後にラゼンが建物を出た直後に氷壁は再生し、再び閉ざされてしまった。
「あ、あぶなー……ギリギリだったぞ今の。後少しでも遅れたら俺だけ閉じ込められるとこだった」
「あれだけ攻撃してもまだ再生できるなんて。どんな能力なのよホントに」
「お嬢様、この氷壁はもしかしてレイハが? 彼女、戻ってきているんですか?」
「いいえ、違うわ。大きな括りで言えば同じなのかもしれないけど。でも、とにかく助かったわフェミナ。どうしてここに?」
「お嬢様とディルク様を探していたんです。今はもうどこもかしこも混乱状態です。魔獣の群れに天使に、何がなにやらもう訳がわからなくて。ですがきっとお二人ならば無事なはずだと信じて探していました」
「そう。ありがとうフェミナ。おかげで助かったわ。そういえばあなた、学園の外から来たのよね。外の状況を教えてもらえるかしら?」
「わかりました。私もお嬢様方がどうして閉じ込められていたのか気になりますし。互いに情報交換いたしましょう」
ハルマ達とフェミナは互いに何があったのかということを伝え合った。
ハルマ達が閉じ込められていた経緯を知って驚いていたフェミナだったが、それ以上に衝撃を受けたのはハルマ達の方だった。
「まさか、王都にまで魔獣と天使が溢れてるなんて」
「軍と冒険者達はそっちの対処で手一杯。だからこちらに人員を割いてる余裕がないと」
フェミナが伝えたのは王都の惨状。至る所で魔獣の咆哮が響き、天使が破壊行為を行う。ギリギリの一線を保てているのは軍の存在が大きい。
もし《
「あたし達以外の生徒も怪我をしたくらいで、避難は済んでるっていうのは良い情報ね。先生達のおかげかしら」
「そうですね。ここに来る間にも何名かすれ違いました。そういえば、アンバー様がディルク様達のことを探しておられましたよ。わたしの生徒は見なかったかと、ずいぶん慌てておられる様子でした」
「そういえば先生のことすっかり忘れてた。建物からすごい勢いで飛んでくのは見たんだけど。無事だったんだ、先生。さすがドワーフ族。頑丈だね」
「先生無事だったんだ。良かった……」
ザナトシュの攻撃からハルマ達のことを庇い飛ばされたアンバーはその後、生徒達を助けながらハルマ達のことを探していたのだ。そして大半の生徒を助けた今も必死にハルマ達を探して学園中を走り回っていたのだ。
「ともかく、お嬢様も寮へ向かいましょう。そこならひとまずは安全です。後のことは私達に任せて」
「断るわ」
「お嬢様!? 何を仰っているんですか!」
「あたし達はミレイの後を追うわ。そう決めたの。言われっぱなしじゃいられないもの」
「めんどーだけど、ハルマ達がそうしたいなら付き合ってあげる」
「乗りかかった船だしな」
「ふんっ、他所のメイドに指図されるいわれはねぇよ」
「ごめんなさいフェミナさん。でももう決めたんです。ボクも行きます」
「ディルク様まで……あぁもうっ、何かあったらレイハに殺されるのは私なんですからね!」
「フェミナ、それじゃあ……」
「私も一緒に行きます。絶対に無茶なことはさせませんからね!」
「ありがとうフェミナさん!」
この状況でフェミナが助力してくれるというのは願ってもないことだった。力になってくれる人は一人でも多い方が良い。
「ま、問題はここからなんだけど」
「ミレイさんがどこに行ったのかってことだよね。でもそれなら大丈夫だと思う。なんとなくだけど、このペンダントからミレイさんを感じるんだ」
ペンダントとミレイは繋がっている。このペンダントを通じてハルマはミレイに魔力を送り込んでいるからだ。集中すればミレイの位置を探ることもできる。
「……こっち!」
ハルマはペンダントから僅かに感じるミレイの気配を追って走り出す。
「この方向、まさか時計塔の。なるほど、確かにあの位置ならこの学園全体を俯瞰することができる」
急いで時計塔へと向かうハルマ達。その時だった。凄まじい衝撃がハルマ達の元まで届いたのは。
「っ! 今の、もしかして!」
「えぇ、この冷気……確実に彼女は時計塔にいるわね」
「急ごうみんな!」
明らかに尋常ではない力と力のぶつかり合い。ミレイが戦っていることは誰の目にも明らかだった。
そしてそれはつまり、この先に魔人族がいるということでもある。
ハルマがザナトシュと対峙したのは僅かな時間だけ。それでもその実力を感じることはできた。
(はっきり言うなら怖い。絶対に勝てないことがわかってるから。でも、それでもボクは行くんだ。ここで動かなきゃボクはきっと変われない。これから先も守られるだけの存在になる。そんなのは嫌なんだ。ボクは……ボクはっ!)
湧き上がる強い感情。
その瞬間のことだった。ハルマの脳裏にとある光景が蘇ったのは。
『大丈夫……大丈夫です、坊ちゃま。坊ちゃまのことは何があっても私が絶対に守りますから……』
そう言ってハルマを抱きしめるレイハ。だけど、レイハの体は少しだけ震えていて。それはハルマが初めて見たレイハの姿だった。
(あぁそうだ。だからボクはあの時――)
「ハルマ! ボーッとしないで! 魔獣来るわよ!」
「う、うんっ!」
ハルマの目前に迫っていた魔獣をエリカが吹き飛ばす。そこでようやくハルマは我に返った。
気付けばハルマ達は魔獣に囲まれていた。上を見れば天使もいる。まさに四面楚歌だった。
ハルマの周囲ではすでにエリカやフェミナ達が戦っている。
「ごめん、戦うよ!」
刀を手に戦い始めたハルマはエリカ達と共に魔獣の群れを切り抜ける。
そして時計塔へとたどり着いたハルマが目にしたのは――。
『主……さま……』
ザナトシュの剣で刺し貫かれるミレイの姿だった。
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