第111話 もしまたハルマの命を危険に晒したら
ミレイとの勝負に勝利したハルマ達はホッと胸をなで下ろした。
作戦勝ちと言えば聞こえはいいものの、その実は行き当たりばったりの運任せの作戦。ミレイならば絶対にハルマを守るという、自分達ではなくミレイを信じた結果の勝利だ。
特に魔獣の前に身を晒し、文字通り命を張ったハルマからすれば二度とごめんだと言いたくなるような作戦だった。
ミレイのことを信じてはいたが、目前まで迫った魔獣の爪牙の恐怖は本物だったからだ。
「ハルマ、大丈夫!? 怪我はない?!」
「思ったより魔獣の数が多かった」
「それは俺のせいじゃないだろ。魔獣を連れて来いって言ったのはお前だからな」
「うわ、すっげぇ……マジで凍り付いてるな。っていうか下手したら俺らがこうなってたのかよ……こえぇ……」
ハルマのもとへと駆け寄ってくるエリカ達。ハルマの無事を確認した彼女達の視線は、目の前にそびえ立つ氷壁へと向けられた。ハルマ達の身長よりもはるかに高くそびえ立つその氷壁の中にはアデルが連れて来た魔獣の群れが物言わぬ骸となって閉じ込められている。
もしミレイが最初から本気で攻撃してきていたら魔獣ではなく自分達がこうなっていたかもしれない。その事実にエリカ達は思わずゾッとする。
今回勝てたのは奇跡だったのだと、そう痛感したからだ。
『今回の勝負はペンダントを奪うことが勝利条件。その一点のみを考えて作戦を立案、実行したその胆力は褒めてあげましょう。ですが、主様が体を張った結果であるということは忘れずに。そしてもし次に同じようなこと、主様の命を危険に晒すような真似をしたら……あなた達はこの魔獣共と同じ結末を迎えることになるということを努々忘れぬように』
「「「は、はい……」」」
「ふぁ……ねむ」
『主様も、このようなことは二度としないでください』
「ごめん。心配かけるのはわかってたんだ。でも、どうしても勝ちたかったから。負けちゃいけない勝負だと思ったんだ」
ここでミレイに敗北し、無理矢理王都から離されれば確かにハルマの命は助かったかもしれない。しかしそれだけだ。学園に残されるエリカやフィオナ達が助かるとは限らない。そうなればきっと後悔などという言葉では表現できないほどの痛苦に苛まれるであろうことはわかっていた。だからこそハルマは残ると決めたのだ。
何ができるかなどわからずとも、みんなを助けたいという自分自身の想いに従って。
『……それが勝者である主様の決断であると言うならば私はこれ以上何も言いません。主様の命に従いましょう。ですが、私にも守るべき一線はございます。もし主様の身を守れない。命の危機だと判断した場合は今度こそ連れていきますので』
ミレイはハルマを守るために生み出された存在。ハルマの命を聞いた結果ハルマの守れませんでしたなど、笑い話にもならない。
「うん、わかった」
「でも大丈夫だろ。これだけの力あって負けるなんて想像もできないし」
呑気なことを言うのはラゼンだ。圧倒的なミレイの力を目にしてラゼンは完全に油断していた。しかし、他の誰からも同意の意見は返ってこなかった。
「もしかして……違うのか?」
『……主様、やはり付き合う友人は考えるべきでは? このような馬鹿が傍にいては主様が毒されてしまいます』
「ば、馬鹿!? いやだってこんな力があったら大丈夫だって思うだろ!」
「そうとは言い切れないでしょ。忘れたのラゼン。彼女はさっきまで魔人族と戦っていて、取り逃がしたのよ。それも回復が必要なほどに傷ついて」
「あ……」
言われてラゼンは思い出す。背後にある氷漬けになった建物。それはミレイとザナトシュの戦いの結果であり、ミレイはザナトシュを仕留めきることができなかった。
「……ミレイさん、もしもう一度さっきの魔人族と出会ったとして勝てる?」
『もちろんです――と、言いたいところですが、主様やそこの彼らを守りながらでは厳しいでしょう。いえ、そうでなくても勝てるかどうかは賭けになるかもしれません』
「それほどの使い手だったの? 確かに彼は強そうに見えたけど」
『純粋な実力で言えば私が負ける道理はないわ。けれど、そこに別の要素が加われば話が変わる』
「別の要素?」
『…………』
ミレイはハルマに視線を向ける。
この事実を告げるべきかどうか悩んだからだ。しかし、黙っていてもいずれわかることだと判断し、ミレイは口を開いた。
『あの男は『勇者』の力を……アルバ・ディルク様の力を使ったの』
「……え?」
「『勇者』の力って、どういうこと?!」
『そのままの意味よ。あの男は戦いの最中で『勇者』の力を使い、そしてあの場から逃げた。『勇者』の力は【
【
後を追おうとしたミレイだったが、ザナトシュが扉を閉めると同時に扉は消えてしまった。
「なんで、どうして魔人族が父さんの力を持ってるの?」
この場で一番混乱しているのはハルマだ。突然敵が、それも魔王教団が『勇者』の力を使ってきたなどと言われて受け入れられるはずがない。その混乱は当然とも言えるだろう。
『申し訳ありません主様。私にもわかりません。私自身初めてのことでしたので。ですが、きっとあの男が身につけていた腕輪が関係しているのかと。あの腕輪が光を放った途端、あの男は『勇者』の力を使った。なぜそんなものを持っているのかはわかりませんが』
「…………」
「『勇者』の力を使うなんて、そんなの反則過ぎるだろ!」
今の時代を生きる者ならば知らぬ者の方が少ないであろうアルバ・ディルクの武勇。その力を敵が持っているなど、考えたくもなかった。
『とはいえ、あの男自身も『勇者』の力を使いこなしてるようには見えませんでした。もし本当に使いこなしていたら私はこの場にはいられなかったでしょう。そこが隙となるかもしれませんが』
「うん……」
『主様、気になるのはわかりますが今は考えても仕方ありません。考えるのは後です』
「……そうだね。ごめん、今は気にしないことにするよ。それよりこれからどうするかを考えないと。何か良い案はある?」
「そうね。先生達を助けた後のことは考えてなかったけど」
「手当たり次第に助ける、とか? あんまり現実的じゃないか」
「おい、何も考えてなかったのかよ」
『……主様、あまり悠長にしている時間はなさそうです。魔獣の群れが迫っています。どうやらまだまだ魔獣はいるようですね。それにこの気配は……』
「ミレイさん?」
『いえ、なんでもありません。この状況では話し合うこともできませんね。まずは安全圏を確保します。主様、それからついでにお前達も、離れずについて来てくださいね』
氷で短剣を生み出し、臨戦態勢に入るミレイ。
『この私が主様に刃向かう愚か者共を蹂躙して差し上げましょう』
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