第3章 TSメイド、ハルマの学園生活を支える
第50話 入学式前日、新たな友人との出会い
聖ソフィア学園入学前日。ハルマとレイハは再び王都へとやってきていた。
いよいよ入学を目前に控えたハルマは誰の目に見てもわかるほどにソワソワとしていた。
「ふふ、坊ちゃま。少しは落ち着いてください。まるで小さな子供のようですよ」
「っ、ごめんレイハさん。でもどうしても落ち着かなくて」
ハルマは幼少の頃からほとんどの時間を屋敷で過ごし続けてきた。たまに外に出ることはあったが、それも稀な話。そんなハルマがこれからはこの王都で過ごすことになるのだ。浮き足立つなという方が無理だろう。
「前に来た時はなんていうか、まだ現実感が無かったけど……今はやっと気持ちが現実に追いついたっていうか。これから僕は王都で生活するんだなって思って。それに同年代の人と一緒に勉強するなんて初めてだし。仲良くなれるのかな、とか色々考えて想像しちゃって」
「坊ちゃまなら大丈夫です。前回来た時もドラグニール家のご令嬢と仲良くなれたんですから」
「あれはエリカさんのおかげだよ。僕から話しかけたわけじゃないし。うぅ、なんかそう考えたら不安になってきた。どうしよう。常識知らずの田舎者とかって言われたら。いやまぁ事実なんだけど。もしクラスで友達できなかったりしたら……そしたら二人組作ってくださいとか言われた時にあぶれて、じゃあ君は先生と一緒になんてことに……」
「坊ちゃま……それはいくらなんでもネガティブが過ぎるかと。というかなんでそんなこと知ってるんですか。誰に吹き込まれたんですか」
「えっと、この間カレンさんに、メイドになるための学校に通ってる時にそういう人がいたって話を聞いて。他にも色々と教えてくれたんだけど」
「またあの子ですか……これはまた次に会った時に折檻が必要ですね」
坊ちゃまに余計なことを吹き込みやがって、と内心で怒りを募らせるレイハ。
しかしそうして不安になってしまうのもこれまでレイハ達がハルマのことを屋敷から出さなかったせいだ。
今更過去を悔いても仕方がないと気持ちを切り替えるレイハ。今すべきことはこの場にいないカレンに対して怒りを飛ばすことではなく、ハルマの不安を取り除くことなのだから。
「もう一度言いますが坊ちゃまなら大丈夫です。これはなにも根拠無しに言っていることではありません。坊ちゃまの優しさも強さも私はよく知っています。不安になるお気持ちもわかりますが、それは今考えても仕方のないことです。まずは動くこと。そして怖がらないこと。大事なのはそれだけなのですから」
「レイハさん……」
「私の言葉は信用できませんか?」
優しくそっとハルマの手を握るレイハ。その優しい眼差しは緊張と不安で押しつぶされそうになっていたハルマの心を解きほぐす。
「ううん。レイハさんの言うことなら信じられるよ。なんだか自信が出てきたよ!」
「その調子です坊ちゃま。それに、ツキヨやミソラの鍛錬に耐えてきた坊ちゃまにとってはお友達を作るなんて簡単なことですよ」
「あははっ、確かにそうかも」
それからも他愛のない雑談をしているうちに二人は聖ソフィア学園の学生寮が建ち並ぶ区画へとたどり着いたのだった。
学生寮にたどり着いたハルマとレイハ。
新生活をする場所に心を弾ませていたハルマだったが、そこで思いも寄らぬ引き留めにあっていた。
「……本当に大丈夫ですか?」
「うん。ここから先の生活でもレイハさんに頼るわけにはいかないし。頑張ってみるよ」
「ですが……いえ、私も坊ちゃまのことを信じていないわけではないのです。ですがやはりどうしても心配でして。先ほどは坊ちゃまならば友達を作ることなど簡単だと言いましたし、それは紛れもなく本音ではありますが、それとこれとは話が別と言いますか。頑張られるのは良いことですが何も最初から全てを一人で背負う必要は無いと思うのです。もう少し私を頼ってくださっても――」
「だ、大丈夫だから!!」
心配事の尽きないレイハに苦笑しながらもハルマは強く断言する。
今ハルマがいるのは生徒専用の学生寮。そしてその隣に立つのが使用人達の住む寮だ。つまり、ハルマとレイハは住む場所が別だったのだ。
もちろんレイハは断固として反対したが、他のメイド達の説得や、ハルマの他の生徒達と同じように生活したいという言葉を受けて渋々了承した。
「……わかりました。そこまで言うならば。ですがどうかそのペンダントだけは外さないように。何かあればすぐに心の中でレイハと呼んでください。そうすればすぐに駆けつけますので」
「うん。わかった。荷物はもう届けられてるんだよね」
「はい。坊ちゃまが生活するために用意した荷物は先に送りましたから。すでに部屋へと搬入されているはずです。部屋の場所は覚えていますか?」
「うん。三階の四号室だったよね」
「その通りです。では荷ほどきの時間も考えて……そうですね、十八時にまたここで会いましょう。カレンに良い食事処を教えてもらっていますから、そこで夕食にいたしましょう」
「わかった。それじゃあまた後で」
そう言ってハルマは学生寮の中へと向かい、レイハと別れた。
学生寮の中へと入ったハルマを最初に迎えたのは広いエントランスだった。
貴族達の集まる寮であるだけにその作りかなり豪奢だった。本当に自分が居て良いのかと若干気後れしながら、ハルマは階段を昇って自分の部屋へと向かった。
「三階の四号室……あ、ここだ」
ここがこれから自分が住む部屋になるのだと、若干緊張しながら部屋の扉を開くハルマ。
しかしその部屋の中には先客がいた。
「お! もしかしてお前が同室の奴か?」
「えっと……君は?」
「あぁ悪い悪い。俺はラゼン。ラゼン・ノーリアスだ。これでも一応貴族、男爵家の長男なんだが……まぁ地方の下級貴族だからほとんど平民みたいなもんだ。よろしくな!」
そう言って赤茶髪の少年――ラゼンは笑みを浮かべて自己紹介した。
「あ、そっか。同室……部屋って二人で一部屋なんだっけ」
「あぁ。俺と同室ってことはお前も似たようなもんなんだろ」
ここは貴族寮。とはいえ、貴族も千差万別だ。
ハーマッドのような大貴族もいればハルマ達のような下級貴族も大勢いる。そして、この聖ソフィア学園に来ている生徒の中には下級貴族の方が多い。
そのため、貴族寮も一人一室などということはなく、共同生活を学ばせるという名目で二人一部屋にされているのだ。
とはいえ、公爵や伯爵クラスともなれば話は別だが。
「うん。僕の家も男爵家だよ。あ、ごめん。まだ自己紹介して無かったよね。僕はハルマ・ディルクだよ」
ハルマがそう名乗るとラゼンは驚いた様子で目を見開いた。
「ディルクって、もしかしてアルバ・ディルク! お前、あの【勇者】の息子なのか!?」
「う、うん。そうだけど……父さんのことを知ってるの?」
「当たり前だろ! むしろなんで知らないと思ったんだよ。いやぁ、そっかそっか。今年は【勇者】の息子が入学するなんて噂は聞いてたけど。お前がそうだったんだな! 色々と話は聞いてるぜ。ハーマッド家の三男に喧嘩売ったんだろ?」
「喧嘩を売ったというか……その言い方だとちょっと語弊がありそうなんだけど。でも戦ったのは事実だよ」
「あははっ! やっぱ本当なんだな! すげぇよお前! あ、そうだ。せっかくだしハルマって呼んでいいか?」
「もちろん。えっと……君は?」
「俺もラゼンでいいよ。これからよろしくなハルマ!」
「うん、よろしくラゼン!」
差し出された手を握るハルマ。
こうしてハルマは同室となる少年、ラゼンと出会ったのだった。
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