第42話 魔王教団の残党狩り
深夜。ハルマが寝静まった頃。レイハの姿は聖ソフィア学園の時計塔の上にあった。
「とりあえず七人は捕まえたけど……後は西に二人。北に三人。東にはいなくて南に五人固まってる……はぁ、ミーナも相変わらず人使いが荒いというか。いやまぁ今回は自業自得なんだけど」
今レイハは魔王教団の残党の捕縛を行っていた。どうやら魔王教団が送り込んできていたのはワルプやグルドラ、ディアベルだけでは無かったらしい。
見つけたのはレイハではなくミーナだ。事後処理をしている間に精霊達を使って探したらしい。捕まえる役目をレイハが担うことになったのは修練場での一件の罰だ。
具体的には『
そんな危険な技を軽々しく使うなと、先ほどまでミーナに絞られ続けていたレイハは説教を短くしてもらう代わりに罰として捕縛を命じられたというわけだ。レイハもやり過ぎたという自覚はあるため断ることはしなかった。というかできなかった。
「明日には絶対コルドに向けて帰らないといけないから、なんとしても今日中に捕まえないと。フェンリル、案内してくれる?」
『……ッ……♪』
今レイハはミーナから氷の妖精フェンリルを借りていた。相変わらず何を言っているのかはわからないが、それでもなんとなく雰囲気で通じ合っていた。
フェンリルの力も借りながら魔王教団の残党を一人、また一人と捕まえていくレイハ。そして一時間とかからないうちに残り一人というところまでやってきた。
残った一人は学園から離れ、王都へと逃げ込んでいた。裏路地を利用してレイハを撹乱しようとしたが、それで撒けるほどレイハは甘くない。
「クソッ、クソォッ!!」
「はいはい。悔しいのはわかったからさっさと捕まってくれる。もう夜も遅いから寝たいの」
「うわぁっ!? な、なんだ!? 足が動かない!」
あっさりと氷で足を拘束された魔王教団の男はレイハの姿を見て目を見開く。
「お、女!? しかもメイドだと!? 何者なんだ貴様は!」
「初対面の女性に向かっていきなりずいぶんな物言いですが。まぁそれは大目に見ましょう。どちらかと言えばこちらが何者なんだ、と言いたい気分ですが。一応確認しておきます。あなたも魔王教団の一員で間違いありませんね」
「ふん、だったらなんだ。お前には関係ないだろ」
「いや関係は大ありなのですが。こうして魔王教団の方々を捕まえる任を負っていますので。というかそれにしてもあなた……」
「っ、や、やめろ! ボクに触るな!」
レイハは半ば無理矢理男が被っていたフードを剥ぎ取る。そしてその下の顔を見てやっぱり、と小さく息を吐いた。
「どうにもあなただけ逃げ方が稚拙でおかしいと思えば。やはりまだ子供でしたか」
「ボクはもう十五歳だ! 子供じゃない!」
「自分でそういうことを言っているうちはまだまだ子供ですよ。まぁ確かに年齢的には成人ではありますが。残念でしたね、少年」
「だからボクは少年じゃない! それにボクにはダグラスっていう名前があるんだ!」
煽るようなレイハの言葉にあっさりと乗せられる少年――ダグラスの姿にレイハは内心ほくそ笑む。
このバカは乗せやすい、と。
「それは失礼しました。ではダグラス君。あなたの目的はなんですか?」
「ふん、そんなの話すわけないだろ。ふざけてるのか!」
「そうですか。では何か話せないような後ろ暗いことを企んでいたと。魔王教団とはそんなに残念な組織なのですね。他者に言うことはできないような目的を持った、惨めな組織であると覚えておきます」
「なんだと! ボク達をバカにするな! ボク達は別に後ろ暗いことをしてたわけじゃない! ボク達は崇高な目的のもと動いているだけだ!」
「崇高な目的? それはいったいなんなんですか? それだけ誇らしいことならば隠すことはないでしょう」
「決まってるだろ! 魔王様を復活させることだ! かの大戦で憎き勇者によって封じられた魔王様を復活させる。それこそがボク達の目的だ!」
「封じられた?」
魔王教団の目的が魔王の復活であることはレイハも知っていた。しかしどうやって復活させるのか。それがレイハ達には掴めていなかった。そして今まさにダグラスが語った魔王は封じられている、という言葉。
それはレイハの知る事実とは異なるものだった。魔王は討たれた。それがレイハや大衆の知る事実。しかし魔王教団には魔王は封じられたという異なる事実が伝わっていたということだ。
ダグラスの言葉をあり得ないと一笑に付すのは簡単だ。しかしそうできない理由があった。人魔大戦の最後の戦い。魔王と戦ったのはアルバとシアだけ。レイハ達他のメンバーは四災厄と闘っていた。
そしてアルバ達と再会したのは戦いの後。全てが終わってからだった。つまり見ていないのだ。魔王との戦いを。そして魔王の死体を。魔王を討った、そう言ったアルバの言葉を信じたからこそわざわざ死体を探すようなこともしなかった。
つまり、真実を知っているのはアルバとシアだけなのだ。
「おかしいですね。魔王は討たれたはずですが」
「ふんっ、そんなのあのクソッタレな勇者が勝手に言ってるだけだろ。魔王様は討たれたりなんかしてない」
「では勇者が嘘を吐いたと。そう言っているんですか?」
「っ、な、なんだよ。怒ってるのか?」
「……いえ、そういうわけでは。申し訳ありません」
レイハは自分でも思った以上に冷たい声が出たことに驚いていた。これではダグラスのことを笑えないと内心自嘲しながらも話の続きを促す。
「では魔王が封印されているのだとして、どうやって封印を解除するつもりなんですか?」
「ボクが聞いたのは勇者の血が必要だとかなんとか。それ以上の詳しいことはボクも聞かされてない。だから今回こうしてここまで来たんだ。勇者の息子を捕まえるためにな」
「なるほど。そうでしたか。そういうことだったんですね。まさかとは思いましたが、本当にそんなふざけた理由だったとは。ですがようやく合点がいきました」
なぜディアベルがハルマのことを連れて行こうとしていたのか。ようはハルマの血が必要だったのだ。
「さてと、私が聞きたいことは聞けたのでここまでにしましょうか。喋っていただいてありがとうございました。お返しというわけではありませんが一つ忠告を。そういった事情はあまりペラペラと話すものではありませんよ。だから子供だ、なんて思われるんです」
「え? ――がっ!」
氷で思いっきり殴りダグラスのことを昏倒させるレイハ。これ以上の情報収集はレイハの仕事では無い。もうレイハの知りたいことは知れたのだからそれで十分だった。
「さてフェンリル、最後の一人を捕まえたのでミーナ伝えてきてくれる?」
『……♪』
フェンリルの気配が消える。レイハがお願いした通りミーナのところに向かったのだろう。何はともあれ、これでミーナからの依頼は完遂だった。
一仕事終えたと思い切り伸びをするレイハ。そうなると考えてしまうのはやはり先ほどのダグラスの言葉だった。
魔王が討伐ではなく封印されているという言葉。もしそれが本当だったならと考え込みそうになったところでレイハは頭を振って思考を止める。
「真偽はどうあれ、魔王教団にとってそれが真実として伝わっているならばこれからも坊ちゃまは狙われる……だとしたら私のすることは変わらない。坊ちゃまを守る。敵は叩き潰す。例え相手が誰であったとしても」
それからレイハは捕まえた魔王教団の残党を連れてミーナの元へと戻ったのだった。
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