第41話 再会と勝負の約束
魔王教団による襲撃が行われた日の夜。
ディアベルとの戦いによって負傷したハルマは聖ソフィア学園の医務室で目を覚ました。
「ここは……」
「坊ちゃま! 目を覚まされたんですね! はぁ、良かったです本当に。もし今日中に目を覚まさなければあの医者をヤブ医者として始末するところでした」
「いやいやダメですよレイハさん! さっきからレイハさんが何度も脅すからあのお医者さんすっかり部屋の隅で縮こまっちゃってるじゃないですか! 冗談、冗談ですから。あぁでもホントに良かったです坊ちゃま! わたしもう急いで駆けつけて来たんですから。坊ちゃま、わたし達のことちゃんとわかりますか?」
「レイハさん……それに、カレンさん。あれ? でもどうしてカレンさんがここに……実家に帰ってたはずじゃ」
「そうだったんですけどね。でも学園で騒ぎが起きてるって聞いて、居ても立ってもいられなくて慌てて駆けつけたんです!」
「もう全部終わった後でしたけど」
「だからそれは謝ったじゃないですかぁ。一生懸命準備してたんですよ!」
「ふふっ。あのフライパンを武器に、鍋やらなにやらで急造の鎧を作ったような格好が、ですか?」
「だってウチには鎧なんてありませんし。でも何も持たずに行くのも不安で」
そんなある意味いつものやり取りを聞いてハルマはようやく体から緊張が抜けるのを感じた。しかし同時に痛みが走る。ディアベルから受けた傷は治療されたものの、完全に治ったわけでは無かった。
「大丈夫ですか坊ちゃま。あまり無理に動かないでください。私が治癒の能力でもあれば坊ちゃまをこんなに苦しめることは無かったのに。申し訳ありません」
「なんでレイハさんが謝るの。これは僕が弱かったせいだし。それより、あの後どうなったの? エリカさん達は? それから、それから――っぅ!」
焦って無理に動いたせいで傷口が痛み、顔を顰めるハルマ。レイハはそんなハルマをゆっくりベッドに寝かせる。
「焦らないでください。一つずつしっかりと説明しますから」
レイハはハルマが眠ってしまった後のことを説明した。
アデルや魔獣、それからあの魔人族ディアベルがどうなったのかについてを。
アデルは別室で治療中。魔獣や魔物はミーナが処理したこと。そしてディアベルとワルプには逃げられたが、レイハが対処したことを。
送り込んだのはあくまでレイハのコピーでしかないので、確実に仕留めたとは言い切れないのが不安ではあったが、腐ってもレイハのコピー。最低限の仕事はこなしているだろうと信じていた。
「そっか……そんなことになってたんだ。結局最後にみんなに迷惑かけちゃって」
「坊ちゃまの責任ではありません。むしろ私がついていながら坊ちゃまにこんなケガを負わせて。本当に自分が不甲斐なくて」
ケガをしたハルマの姿を見てレイハは何よりも自分自身に怒りを抱いた。『氷牢雪獄』などという技を使ったのも半ば八つ当たりだったのかもしれない。
「レイハさんのせいじゃないよ。あんなの誰にも予想できなかったし。それに、レイハさんがくれたペンダントのおかげで僕、助かったんだよ。ミレイさんがいなかったらどうなってたか」
「えっと……そのミレイというのは『氷の鏡像』で生み出した私のコピーのことですか?」
「うん。レイハさんのミラーだからミレイ、なんて安直だけど。なんていうかレイハさんとはちょっと雰囲気が違ったからレイハさん、って呼ぶのも違う気がしちゃって」
「私とは雰囲気が違った? いえ、それはともかく少しでもお役に立ったならば良かったです」
「えっと、それでエリカさん達は? 確か、僕が気を失う直前までは一緒に居たと思うんだけど」
「そうですね。大した怪我もしなかったようですし、もう帰ったのではないでしょうか」
「ちょっと、勝手なこと言わないでくれるかしら」
「夜分遅くに失礼いたします」
先ほどまでとは明らかに違う、いかにも興味無さ気に言うレイハ。しかし、その場にやって来たのはそのエリカだった。後ろには当然フェミナもいる。
「……チッ」
「あなた今舌打ちした? 確実に舌打ちしたわよね。もはや嫌みを隠そうともしなくなってるわよね」
「なんのことでしょうドラグニール様。舌打ちだなんてそんなことするはずがありません。する理由もないですし。それよりどうされたんですか?」
「どうも何も。ハルマの様子を見に来たに決まってるでしょ。本当はもっと早くに来るつもりだったんだけど、実家方面への連絡やら何やらで時間が取られて。でもちょうど良かったみたいね」
「わざわざ来てくれてありがとうエリカさん、それからフェミナさんも」
「無理に起きなくていいわよ。怪我してるでしょう。楽な姿勢で居て。怪我してる張本人に気を遣わせてたらお見舞いの意味がないもの。私達もすぐに帰るから」
「えっと、ありがとう。それじゃあお言葉に甘えて」
「でも本当に良かった。あの時はもうダメだと思ったものあなたのメイドがギリギリで駆けつけてくれたおかげで助かったけど。あの魔人族を相手にしても一歩も引いて無かったし。本当にただのメイドなの?」
「えぇ、もちろん。ただ少し戦うのが得意なだけのメイドですよ」
「絶対少しじゃないと思うんですけど。というかわたし以外みんなそうだと思うんですけどー。特にレイハさんなんて一番物騒じゃないですかぁ」
「何か言ったかしらカレン?」
「ひぃぃ、言ってません言ってません! レイハさんは世界一素敵なメイドですぅ!」
「あら、いきなりそんな褒められても。ありがとうカレン」
「今なんだか凄まじいパワハラを見た気がするわ」
「お嬢様、それは気にされてはいけないことかと。他家には他家のルールというものがございますので」
「そ、そういうものなのね……」
なお、一連のやり取りの最中ハルマは怖くて口が挟めずにいた。
エリカとしては言いたいことは色々あったのだが、それを一つ一つ指摘していたらキリがないと諦め混じりの息を吐いてからハルマに目を向ける。
「まぁいいわ。とりあえずハルマの無事な姿も見られたし。これで心おきなく帰れそうだわ」
「え? 帰るって。エリカさんもう帰るの?」
「さすがに今日はもう遅いから明日の朝一番になるけどね。さっき言ったでしょ、実家に連絡してたって。そしたらお母様が心配だから早く帰って来なさいって。本当はもう何日かこっちに居る予定だったんだけど。またいつ襲撃があるからわからないから。さすがに明日の朝になってここに挨拶に来る時間は無かったからこうして今来たの。ちょうどハルマが目を覚ましたタイミングで良かったわ」
「そっか……」
せっかくできた新しい友達との別れに少しだけ暗い顔をするハルマ。エリカはそんなハルマを元気づけるように明るい声で言う。
「そんな顔しないで。別に一生会えないってわけじゃないんだから。だってそうでしょ。私達、この学園に通うことになるのよ? また入学の時に会えるわ」
そもそも今回は入学前の見学会。もう少しすればハルマもエリカも正式にこの学園の生徒になる。ならばこの別れも一時的なものでしかないのだ。
「そっか……そうだよね。また会えるもんね」
「そうよ。だからハルマ。今度会った時こそ互いの剣術を使って勝負をしましょう。約束よ」
「うん、約束! 僕、きっとそれまでにもっと色々な型を教えてもらって強くなって見せるよ」
「言うじゃない。なら私もあなたに負けないための技と力を身につけてみせるから。さてと、怪我人をこれ以上無茶させるわけにはいかないわね。それじゃあこの二日間、色々あったけど楽しかったわ。ちゃんと怪我治すのよ。またね」
「うん。また!」
こうして互いに再会と勝負の約束を交わし、レイハとエリカは別れたのだった。
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