第1話 英雄達の物語

 それは後の世に『人魔戦争』と呼ばれる戦い。

 始まりは【魔王】を名乗る魔人族の男が出現したことだった。彼はバラバラだった魔人族を纏め上げて魔王軍を作った。そして世界を征服せんと大陸に存在する全ての国へ宣戦布告したのだ。

 最初は誰にも相手にされなかった。しかし、魔王軍が一国を攻め滅ぼしたことで状況が変わった。魔王軍が本気であることが伝わったのだ。そこから魔王軍は破竹の勢いで侵略を進めた。魔王軍の力は各国の想像を超え、気付けば手が付けられないほどに大きくなっていた。

 しかし、他の国々も黙ってはいなかった。魔王軍に対抗するために国も種族の違いすらも越えて一つの軍を作り上げたのだ。

 国を、世界を守らんとする人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族の連合軍と世界を破壊し、支配しようとする魔人族の戦い。

 数で圧倒する連合軍だったが、魔人族はそれを個の力で跳ね返す。結果として戦況は一進一退の攻防を繰り返していた。

 大陸各地で起こる戦い、終わりの見えない戦争に人々が疲弊してくなか連合軍の中に立ち上がった者がいた。

 人族で魔法の天才、【天魔姫】シア・ミルスティン。

 エルフ族の精霊使い、【精霊王】ミーナ・スピリア。

 ドワーフ族で鍛冶においては右に出る者が居ない、【鉄心】アルト・ラトール。

 獣人で武を極めし者、【不沈要塞】ハーマッド・シェリン。

 そして――世界の希望を託されし者、【勇者】アルバ・ディルク。

 それぞれの種族から現れた英雄達が一つのチームとなり、魔人族に支配された地域を次々と開放していった。

 しかし魔王が率いる魔王軍も黙ってはいない。魔王軍も四大幹部を繰り出し反撃に出たのだ。

 そうして戦争が激化していく中、アルバをリーダーとする勇者パーティは止まることなく進み続た。

 そして最終決戦の時がやってきた。

 勇者パーティと魔王、そして四大幹部が激突。その戦いは地が裂け、空が割れるほど激しい戦いだった。

 魔王城で行われた最後の戦いの詳細を知る者は勇者パーティの面々だけ。しかし確かなことは、勝者が勇者パーティであるということだけだ。

 勇者が魔王を討ったという話は瞬く間に大陸各地に広がり、士気を上げた連合軍からは次々と勝利報告が上がるようになった。逆に魔王や四大幹部を失った魔王軍は勢いを失い、『人魔戦争』は連合軍の勝利という形で幕を閉じることになった。

 これが多くの人が知る『人魔戦争』の流れ。

 魔王に勝利した勇者パーティは『五英雄』として讃えられ、今もなお絶大な人気を誇っている。

 しかし多くの者は知らなかった。勇者パーティにはもう一人仲間が居たことを。歴史に名を刻まれることが無かった影の英雄の存在を。

 



 これは、勇者が魔王に倒された後の物語。

 神の気まぐれにより異世界にTS転生してしまった少年と、勇者の息子の物語である。

 

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