第72話 つながりの力
炎の竜巻とサラの魔法が衝突する。
接触面では一際激しい炎が光る。衝突で供給された酸素により塵が一瞬で燃え上がっているのだ。
「っく」
自然の気流が生み出す無尽蔵のパワーに対して、人ひとりの魔力などたかが知れている。サラは己の風が竜巻に呑まれつつあるのを感じた。
「お姉ちゃん!負けないで!」
秘密基地からエミルの声が聞こえた。続いて他の子供達の応援も耳に届く。
「負けてらんねえよなぁぁ!」
サラは全魔力を超短時間で使いきる事で、瞬間的に竜巻の規模を凌駕する事に成功した。炎の竜巻はかき消え、辺りは束の間の静寂に包まれた。
魔力を使いきったサラは倒れ込み、転がるように秘密基地内部に落下する。かろうじて受け身をとったが、疲労困憊の身には響いた。
不安な顔をしたエミル達が駆け寄ってくる。
「大丈夫?死なないで」
「安心しろって。こんくらい問題ねーよ」
サラは平静を装い立ち上がる。炎の竜巻はなんとかしたものの依然ここは火事場のど真ん中だ。いつここまで延焼するかもわからない。サラの魔力も尽きてしまった今、籠城するのもままならない。もう猶予はない。
「仕方ねえ。お前ら、ここから出て避難所に行くぞ。その子は私がおぶってく。エミル、歩けるな?」
エミルが力強く頷いた。まったく、出会った時は半べそかいてたのにな。男の子め。
「よし、行くぞ!」
だが、秘密基地から外に出たサラ達を待っていたのは絶望だった。
避難所へと続く道には先ほどと同規模の炎の竜巻が三つ発生しており、反対方向は激しい火災で煙の海となっていた。先ほどサラが竜巻を打ち消したタイミングが唯一のチャンスだったのだ。
袋小路にサラの思考が真っ白になる。守れない、この子達を。もう、どうしようも......。
「お姉ちゃん!また光ってるよ!」
エミルの声で我に返ったサラはモバイルを取り出して中身を確認する。応援が叶ったのだろうか。だとしても、あの火事と竜巻を突破して来れる奴なんてうちには居ないはずだ。
《応援は間に合いそうもありません。ですが、その場所の近くに炎とハンマーのマークが描かれた鍛冶屋はありませんか?》
サラは「炎とハンマーの鍛冶屋?」と呟きながら通りを見回した。
「それならあそこだよ!私知ってる!」
サラが背負ったリリーが指を差した方を見ると、確かにその店はあった。サラと子供達は店へ駆け込む。
《そのお店の床に地下へと降りる為の跳ね上げ戸があるので、そこに避難してください。そこは昔の地下水採取に用いられた地下室で、結構な深さがあるので地上の火事も届かないはずです》
子供達がいっせいに捜索したおかげで、扉は直ぐに見つかった。跳ね上げ戸は重かったが、鍛えぬかれたサラの筋力で難なく開いた。地下への階段は暗く、子供達が怯えたものの、エミルの兄が光属性の魔法を使えた事で明かりの心配は要らなくなった。
下へ下へ、古い石の階段を降りていく。
ほどなく広い空間に出た。足音や声が反響して響く。地上の熱気とは無縁のひんやりとした空気が心地よく、皆はその場に座り込んだ。かすかな水音も聞こえる。
《地下水は少量ですが今も生きているそうです。複数ある地下道は入り組んでいて人は通れませんが、地上と繋がっているらしいので空気の心配も要りません》
それにしても、ヒルダはよくこんな場所を知っていたものだ。サラは無事避難出来た事と、感謝のメッセージを送った。すると直ぐに返事が返ってきた。
《私が知ってた訳じゃありませんよ。秘密基地の件で聞き込みをした際に、隊長がピンチだと聞いて大勢の方が集まってきてくれたんです。その中に、その界隈に詳しいご老人が居て教えてくれたんです。その方はこうも言っていました》
「儂らには武力も魔法もない。けれど、いつも街を守ってくれるあなた達の為に、微力でも力を貸させてほしい」
モバイルの画面を見つめるサラの瞳が揺れる。
私が守る、だけじゃなかったんだな。
私も皆に、みんなとの繋がりに守られている。
エミルの声援。リリーが店を見つけ、エミルの兄の光魔法に、老人の知識。
これまで築いてきた繋がりが大きな力となって、私と子供達の誰一人欠ける事なくこの大災害から生き残ろうとしている。
繋がりこそが、僕らを生かすんだ。
繋ぎ手としてネットワークを構築する旅のあいだ、レイフが何度も口にした言葉を思い出す。
「まったく、敵わねえなぁ」
サラはそう言うとその場に大の字で寝転がった。唐突なサラの行動に子供達は一様にきょとんとした表情となり、どうしたのかと不安にのぞき込む。けれどそれは要らぬ心配だと直ぐにわかった。
寝ころんだサラが、清々しい顔で笑っていたからだ。
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