花束を食す

てをん

葛藤

明転――舞台上で明るい状態のまま場面転換すること


暗転――舞台上の照明を落とし真っ暗な状態で場面転換すること


幕引き――芝居で幕を引くこと、終わり


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  ◆明転


 九歳の雪落貴百合 ゆきおち きゆりと十九歳のヤクザである市居都いちい みやこが出会ったのは、都が所属している組織の事務所であった。

 『ヤクザ』と自分達で名乗ってはいるが都が所属する東組は、昔こそ警察に手を焼かせるほどやんちゃばかりしていたが、都が入る前には既に更生し――たまに暴力沙汰はあれ――警察の監視下でごくありふれた会社をいくつか経営しており、更には法人も設立し医療機関や介護施設、児童福祉施設も運営している。

 東組は大まかに、経営している会社に所属する『労働者』と、都が所属しており経営管理や書類仕事をする『事務員』、そして東組の本体とも言える『組員』の三つで構成されている。労働者は東組と直接的な関りはなく実質、東組は事務員と組員で組織されている。

 そして組員とはヤクザだった頃の人員で構成されており主にヤクザ関係の物事を処理している人たちである。


 その日夕方まで寝ていた都は、兄貴分である梅田からの電話で叩き起こされた。

 まだ寝足りないのに……と寝ぼけながら出ると鼓膜が破れそうなほどの大声で「今すぐ事務所に来い!」と言われ電話は切られてしまった。キーンとした耳を押さえながら突然のことで驚いたが、梅田は身寄りのなかった自分を引き取ってくれた恩人でもある。その恩人に何かあったのかと、都は慌てて長い金髪を束ね、スーツに着替えてから家を出た。


 息を切らしながら事務所のドアを開けると、珍しく混み合っており何やら騒がしかった。

 都は人の隙間を縫いながら電話の主を探すと丁度、白いスーツに身を包んだ梅田が見えた。恩人が無事なことに安堵しつつ、何かがあったことは明確なので都は急いで梅田に話しかけた。


「何かあったんすか?」

「おお! 市居、思ってたより早く来たな!」


 しかし梅田は電話の時とは違い、ニカッと豪快に笑いながら都の背中を思いっ切り叩いた。彼なりのコミュニケーションだが曲がりなりにもヤクザ、その力は強く背骨が折れるのではないかと心配になる程、痛かった。


「った……! 来いって言ったのは兄貴でしょうが……」

「はは、そうだな! 休みに悪ぃな……まぁ大したことじゃねえが街で北組に見つかっちまってよ。うちのもんに喧嘩吹っ掛けられちまってな」

「何だいつものことじゃないっすか。なのに何でこんなに騒がしいんすか」


 北組は東組と違い正真正銘のヤクザと言える。都が聞いたのは昔、東組と北組は友好的な関係を築いていたが、東組が更生を決めたときに手を切ったのがきっかけで逆上し攻撃するようになってしまった。街で北組に見つかり一方的に喧嘩を仕掛けられることなど、日常茶飯事である。

 多少、警察の世話になっても皆慣れており事務所に人がひしめき合うのは滅多になく、目の前の光景に疑問を感じていた都だったがふと、廊下にこの場所に本来はいないであろう子供がぽつん、と立っているのが見えた。


 よくいる小学生くらいの女の子で暗い顔をして俯いていることから、この騒ぎに関係していることは分かった。


「兄貴あの子供は?」

「あぁ……そこが厄介なとこでな、喧嘩に一般人カタギが巻き込まれちまったらしいんだ」


 あぁそういうことね、と都は何となく察しがついてしまった。


「東と北で特に死者も怪我人もいないんだが、あの子の親がただの喧嘩と勘違いして止めに入ったらな、タイミング悪く向こうが獲物、構えた時でさ」

「ふーん。両方すっか?」

「いや父親だけだ。……目の前でそんなことが起きたんだ。母親も精神的にやられちまってよ。とても生活できる状態じゃねえんだと。そんでもってうちの運営に病院と児童施設があるだろ? そこで引き取るらしい」

「ヤクザが運営してる病院と施設って知られたらまぁまぁやばいっすよね」

「はっは、そりゃそうだろ。……まぁうちが起こした問題だしな。もちろん監視はあるさ。ま、上が決めることだから俺はあんま知らねぇけどな」

「そっすか。んで、何であんなところに子供置いてるままなんですか」


 梅田の話を聞く限り施設に引き取られるみたいだが、それならばどうして一人で廊下に立っているのか。迎えがまだにせよ誰かしら付き添いがいなくていいものか。仮にもここはヤクザの事務所である。

 しかし都の予想を裏切る言葉が梅田の口から出た。


「あぁ、お前が引き取れ。お前を呼んだ理由はそれだ」

「……は?」


 何かの聞き間違いだろうと都は思った。たった今、施設に引き取られると言ったはず。


「兄貴もう一回いいっすか」

「聞こえなかったか? お前があの子供を引き取るんだよ。お前、家族欲しがってたろ! 丁度いいと思ってな」


 聞き間違いではなかった。何がどうなってそういう話になったのか。

 前にたまたま「将来的には嫁さんとか出来たらいいっすね」と軽い気持ちで言ったことが本当になるとは誰も予想しなかっただろう。笑っている梅田とは反対に都は頭を抱えた。


「ハハ冗談キツ……てか冗談で言ったこと真に受けて、本当に連れて来る奴がいるかよ……ましてや子供って。それなら、ちゃんとした嫁さん連れて来てほしかった。……いや、ちゃんとした嫁ってのもおかしいっすけど……とにかく事情が複雑すぎる」

「嫁にすればいいだろ?」


 都は呆れた。どうしてそうなるのか。


「相手の気持ちガン無視じゃないっすか……。そんな理由で嫁にしませんよ。というかヤクザが引き取るなんてサツも上も許さないでしょ」

「俺が話つけてきたから安心しな。まぁ時々、様子は見に来るらしいけどな」

「いや冗談キツ……」


 都は両親を幼いころに亡くし身寄りもなく街を彷徨っていた時に、梅田に拾われ組織に入った。家族がいなくても寂しさなど感じない程に皆、優しくしてくれたが、家に帰った時に誰かがいてくれるのに憧れが無いと言えば嘘になる。自分に務めが果たせるのか分からないが、もしあの子供を引き取って『家族』になれたらそれも悪くないと都は思ってしまった。


「まぁお前が嫌だったら大人しく施設に入れるよ」

「いや、やってみます」


(親代わりになれなくても、せめて兄妹とか友達みたいな関係にになってあの子が安心できる場所を作れたら……)


 都は自分にも分からなかったが、なぜか名も知らぬ少女を放っておけなかった。

 梅田は少し驚いた顔をしたがすぐに戻って「そうかそうか」と都の背中をバシッと叩いた。


「俺も時々見に行くからな!そうだ、うちが持ってるマンションの一部屋かっぱらったからよ。明日からあの子の荷物も持って来て一緒に住め!お前の部屋じゃ狭いだろう」

「ハッ、まったく選択肢与えといて逃げ道無かったじゃないっすか……」

「堪忍な!」


 梅田は手をひらひらさせガハハハッと笑いながら去って行った。


「まったく兄貴の冗談も程々にしてほしいよ。……さて」


 都は梅田への悪態をついた後に気持ちを締めるため、ネクタイを結び直しゆっくりと廊下の端で俯いている女の子に近づいた。

 自分に気付いているのか、いないのか分からないが女の子は顔を上げなかった。

 都は怖がらせないために、同じ目線になるようにしゃがむと優しく話しかけた。


「お嬢さん初めまして。オレは市居都、今日から君の面倒を見るよ。……あぁえっと、君の名前は?」

「……」


 女の子の口は堅く閉じられたままだった。


「あー……それともヤクザには教えたくない?」


 女の子の顔が少しだけ動き前髪の隙間からこちらを睨んでいるのが見えた。まだ泣いていた方がマシだったなと都は思った。

 きっとこの子は今『悲しい』という感情よりも強い感情に支配されてしまっている。それは多分いいことではないだろうと感じたが生憎、適当な言葉を都は持ち合わせていなかった。

 都はどうしたものかと考えていたが先に女の子の口が開かれた。


「人殺しは嫌い」

(『人殺し』ね。こりゃ相当だ)


 都は自嘲しながら女の子を肯定した。


「ハハそりゃ誰だってそうだよな。……んじゃあさオレと約束しようよ」

「……約束?」


 都は優しく微笑みかけると左手の小指を差し出した。


「そう。オレまだ誰も殺したことないんだ。君がずっと一緒にいてくれたらオレは絶対に人を殺さない。だからオレが誰も殺さないように見張っててほしい。オレ誰も殺したくないんだ」


 女の子は顔を上げた。


「……本当に? ならあなたは側にいてくれるの?」


 そう言って女の子は恐る恐る都の小指に自分の小指をそっと絡ませた。

 なぜこんなことを言ったのかは分からないしあまりにも脈拍が無さすぎる。しかし突飛な提案だったなと思いつつ女の子に何かしらの変化をもたらしたことに都は安堵する。


「本当だし側にいるよ。その代わり君も誰かを殺しちゃダメだよ。あっ間違ってもオレのこと殺さないでね……ハハ冗談」


 都は「指切りげんまん」と言って約束すると女の子の頭をクシャクシャと撫でた。この子に道を踏み外させないことが自分の役目だと固く心に刻みながら。


「……ゆきおちきゆり」


 僅かに聞こえたその声を都は聞き逃さなかった。


「そうか、雪落貴百合……いい名前だな。オレのことは都って呼んでいいよ。んじゃ貴百合ちゃん帰ろうか」


 都が差し出した手を何も言わず貴百合は握った。

 どうして貴百合が素直に自分の手を取ったのか、それが悪い方向に行かないように都は祈ることしかできなかった。


  ◆明転


 それから都との奇妙な家族ごっこを続けて私は大学生になった。


 都は身分を隠しながら私の親代わりになろうと彼なりに頑張っていた。悪いことはしていないらしいが『ヤクザ』というのは少なくともいい目で見られないからだ。

 家が変わり少し遠くなっても同じ小学校に通い続けることが出来たのは毎日、都が車で送り迎えをしてくれたおかげだし大学に入った今でもそれは変わらない。


 周りはいきなり現れた都を訝しんだが、私の親がとても生活できる状態ではなく私の世話をする人が必要だったというのもあり〝親戚のお兄さんが来た〟ということで納得した。

 都は小中高と家族も参加する行事には必ず来てくれたしどこの親よりも頑張っていたようにも見えた。運動会では親が参加する種目、例えば徒競走とか綱引きも都だけ命を懸けたのかと思うほど本気だったし、いつも金髪の都が授業参観の日のためだけに黒髪にしてきたときは驚いたけど、急に親がいなくなった私に恥をかかせないようにしていたのかもしれない。


 高校ではお弁当が必要になり、もちろん都は頑張って毎日作ってくれた。料理などまともにしていなかったらしく、最初白飯だけ詰められたお弁当――と言っていいものか――を渡された時は皆と一緒に食べるのが恥ずかしかったけど、いつの間にか上達して一時期キャラ弁にはまってしまった時は、別の意味でお弁当を食べるのがちょっと恥ずかしくなってしまった。

 都はもちろん入学式も卒業式も欠かさずに来てくれたし、高校と大学の合格発表で自分の番号を見つけて喜んだ時は私の頭を優しく撫でてくれた。


 それから都に頼るのは嫌なので大学は頑張って勉強して国立に入った。高校では禁止されていたアルバイトも大学に入ってから始めた。都から学費とかは貰っているけど受けとるだけで使っていない。ここまでお金で不自由と感じたことは無く高校も大学も私立を選ぶことはできたけど私が嫌だったから両方公立を選んだ。


 まぁ都がヤクザだということを考えれば納得はするけど複雑である。都曰く「うちの組は真っ当な仕事しかしてないしオレは事務仕事だからちゃんと綺麗な金だよ」とのことらしいけど……こう、何と言うか……。まぁいいや。ここまで育ててくれたのも都が頑張って働いたおかげだ。そこは感謝してる。


 本音を言うと都といるときの方がいい暮らしができていたし、都と本当の家族のようになれたら、どんなにいいか考えることが無かったと言えば嘘になる。それにいつも都は私のことを、一番に優先してくれたし、それはとても満たされた。 


 でも私は都のことが好きじゃない。

 私はヤクザが嫌いだ。


 都と一緒にいるのもいつかお父さんを殺し、お母さんをあんな状態にしたヤクザに復讐できると幼いながらに思ったからだ。……それ以外の理由に、事件の日に唯一、私を見てくれたのが都だけだったから、というのもあるかもしれない。

 だけど都はヤクザだ。親以上に優しくしてくれた都を『家族』として好きになってしまいそうになるけどヤクザである以上、都がいつ約束を破るか分からない。だから気を許してはいけないし、『家族』になんてなれない。


 だって都を好きになったら私はヤクザを許してしまうから。

 だからこの気持ちは固く自分の奥底に封じ込めて、それを悟られないように私はいつまで続くか分からないこの舞台で『家族』を演じなければいけない。


  ◆暗転


 梅雨に入り始めた大学二年生の六月

 今日は珍しく雨は降っていないが空は曇っているうえ、暗い色なので重く感じるし空気はこれでもかっていうくらい水分を含み、じめっとしているから少し息苦しさも感じる

 いつも通り授業を終え家に帰る。今日は珍しく都に予定があるみたいで迎えはなく一人で帰った。


 ファミリー向けのマンションで二人だけだと少し広いが私にとってはありがたい。家に入り都に「家に着いたよ」と連絡を入れると「無事でよかった」と返事が来た。あまり時間が遅いわけではないが一緒に帰れない日は連絡するのが決まりだ。

 都は過保護過ぎる。もうすぐワタシは成人するというのにまだ子供扱いしていることに納得がいかない。


 だけど冷蔵庫に作り置きがあることは喜ばしい。都の料理はワタシが女である自信を無くすくらいには美味しい。

 ご飯を食べ部屋干しされた洗濯物を畳んでからお風呂に入りテレビを付けて一息つく。

 都の仕事はとっくに終わっているはずなのに今日はやけに帰りが遅い。


 ……ワタシだって都の心配くらい少しはする。


 けど仕事柄、何かあって事後処理に追われているのかもしれない。そう思い夜も遅くなって来たのでそろそろ寝よう、と思ったところで都が帰って来た。

 玄関まで出迎えれば都は喜ぶ。こういう小さな積み重ねが家族ごっこでは大事だ。


「おかえり都。遅かったから心配したよ」

「あぁ貴百合ちゃん起きてたの、ただいま。はいこれ、お土産ね~」


 そう言って渡されたのはポイントセチアの花束だった。この時期に珍しいと思ったけどすぐに造花だと気付く。

 だけど血のように鮮やかな赤色や、花びらにも見える苞がやけに現実味を帯びてワタシの手の中に存在するのが気持ち悪くて、気付かれないようにそっとゴミ箱に捨てた。


 都はネクタイとスーツの上着を廊下に脱ぎ捨ててからソファに腰かけると煙草に火をつけた。いつもは換気扇の前まで行くのに、ここで吸うということは相当疲れているのだろう。そして決まってそういう時は飲み会の後だ。都は今酔っている。

 酔った都はいつも以上にワタシを子供扱いするしお酒臭いから嫌いだ。ワタシはネクタイと上着をハンガーにかけてから都の隣に座った。


「ふぅ、疲れた。……ん、貴百合ちゃん隣、座ったら煙草の煙吸っちゃうよ。知ってる? 煙草は副流煙の方が体に悪いんだよ」


 そう言って都はワタシとは反対の向きに煙を吐き持っている煙草を遠ざけた。そうするくらいなら吸わなければいいのに。


「知ってる、それ何回も聞いたよ。煙草ってそんなに美味しいの?」

「んー? 大人になったら分かるよ」


 そうやって子供扱いする。やっぱり嫌いだ。


「ふーん……。というかまた飲み会だったんでしょ。そんなに楽しいの?」


 都は大きく息を吐いて、


「はぁ……冗談キツ~、楽しくなんかないよ。でも行かないと指の一本や二本飛ぶこともあるからな……。貴百合ちゃんも学校でそういうことあるでしょ」


と言った。本職が言うとシャレにならない。


「あるけどワタシはまだ未成年だから飲めませーん。それにあんまり楽しいって思わないかな」


 人は肯定や共感をすれば簡単に心を開く。だから都の言うことは全部肯定する。自分がどう思うかなんて二の次だ。だけど実際、そういう催しものに興味がないのも事実だ。

 都はくしゃと笑ってからワタシの頭をわしゃわしゃと撫でた。力が強すぎて頭が取れそうなくらい。


「ハハそうだな。ちゃんと守ってて貴百合ちゃん偉い偉い」

「もう子供扱いしないでよ! それに『ちゃん』付けもやめてって言ってるのに!」


 時々、呼び捨てで呼ぶことがあるけど、それは都にとってか、真剣に何かを伝える時だけだ。

 梅田さんが都を名字で呼ぶように都はワタシに敬称を付けて呼ぶ。きっとヤクザの世界に近付かせないために壁を作っているのだろうけど、家族なのにおかしいじゃないか。彼なりの優しさなのだろうけど、それでワタシが心の距離を感じるのは矛盾してる。

 抗議しても都は笑ってるだけで本当にムカつく。


「ワタシだってもうすぐ成人するんだからね! その時は都と同じことするんだから!」

「ハハそうかそうか、まっ冗談だよ。飲み会は嫌いだけど貴百合ちゃんと一緒に飲めるようになるのは楽しみだね。あー……でも煙草は体に悪いからあんまり吸ってほしくないな」

「毎日吸ってる人がよく言う……。まぁ仕方ないから一緒に飲んであげるし煙草も都と一緒に吸うよ」


 あくまで仕方なく。

 お酒も煙草も興味ないけどそれがワタシの役目だし都が望んでること。


「じゃあオレもそろそろ禁煙しないとな。まっそん時が来たらいい店連れてってやるよ」

「約束だよ!」


 都はまだ吸い終わっていない煙草を灰皿にぐしゃっと潰すと少し悲しそうな顔で立ち上がった。結局今回もちゃん付けはやめてくれなかった。こんなにもワタシがやめてほしいと言ってるのにそういうところも嫌いだ。


「約束、約束。んじゃオレは風呂に入るよ。貴百合ちゃん明日も学校でしょ? もう寝る時間だよ」

「本当だ。あっ明日はバイトあるから迎えは大丈夫だよ!」


 都の眉毛は無いに等しいが眉尻が下がっていることは分かった。


「お金必要ならあげるよ?」

「そういうわけじゃないけど……ほらいざってときのために貯金は必要でしょ!」


 都は少しだけ何かを考えたようでもう一度、隣に座り直すとワタシの肩に頭を乗せた。背筋がぞわっとするけど黙って我慢する。……酔っているせいか少し子供っぽくなって甘えているように見える。


「もしかして一人暮らし、したいとか……? それとも別のこと? ……貴百合はずっと一緒にいてくれるって約束したのにな」


 段々声の力が抜けていき目も虚ろなとこを見るにもうすぐ寝るかもしれない。これを聞くのは何回目だろう。都は決まって眠くなると約束の事を言うのでいい加減うんざりする。


「ずっと一緒にいるよ。けど都に頼ってばかりじゃダメでしょ。ワタシ都のこと大好きだから安心して」


 嘘。大好きって言う度、息苦しくなるくらい大嫌いだけど。


「ハハそうか……でもオレ、ヤクザだけどいいの……?」

「関係ないよ」


 返事はない。完全に寝てしまったようだ。……さすがに成人男性を抱えてベッドに連れて行けるほどワタシは屈強ではない。

 都を起こさないようにソファに寝かせ〝優しい〟ワタシは毛布をかけてあげた。

 本当は今すぐにでもこの家を出て行ってしまいたいがそれではワタシの目的は果たせない。


「おやすみ都」


 そのまま永眠すればいいよと思いつつ電気を消し、自室のベッドでワタシも眠りについた。


  ◆暗転


 梅雨はまだ終わらないようで相変わらず気持ち悪い空気がべったりと纏わりついてくる七月。

 授業が少なく大学が早く終わる日はいつもバイトがあるけど今日は違う。これから月に一度のお母さんのお見舞いへ行く。

 校門に行くと都は既にいて、身長も高く金髪な彼は遠くからでもすぐ分かるくらいに目立っていた。


「貴百合ちゃんお疲れ様」


 周りから「あのスーツの人ちょっとカッコよくない!?」と聞こえてくる。きっと都のことだろう。……都ってかっこいいんだ、と思ってジッと顔を見てみる。確かに顔の造形は悪くないのかもしれない……眉毛は無いけど。


「? 貴百合ちゃんどうかした? オレの顔に何かついてる?」

「ううん。わざわざ校門の前まで来なくていいのに。てか煙草吸ってないんだね」

「いや冗談っ――オレだって場所は弁えるよ……」


 悲しそうな顔をする都を無視して近くに止まっていた車に乗り込む。車内は都がいつも吸っている煙草の匂いで満ちていた。ワタシが煙草の匂いが嫌いなことを都は知っているので、何も言わず車に乗ると窓を少し開けて走り出した。ワタシが乗る前は吸わなければいいのに……。

 いつもの送り迎えであれば他愛ない世間話をするがお見舞いとなると二人共、何を話せばいいか分からず病院まで沈黙が続く。都はいつも何を考えているんだろうか。


「……今日寒くない?」


 毎回、沈黙が続く事には慣れているのだが今日だけは何だか気まずくて当たり障りないことを呟いてしまった。

 都はいつもと変りなく返事をしてくれた。


「そぅ……窓閉める? それとも暖房つけようか?」

「……いや大丈夫。学校で冷房に当たり過ぎたのかも」


 そうか、都は寒くないんだ。何だか寂しいな。……寂しいって何だ?


「後ろにブランケットあるから使いな」


 都に言われた通り後部座席に綺麗に畳まれて置かれているブランケットを取り膝にかけた。昔、寒がりだったワタシのために都がずっと常備してくれている。最近はあまり使っていなかったがそういえばそうだったと久しぶりに思い出した。……都は優し過ぎるのだ。


 優しさは行き過ぎれば人を傷付ける。だから優し過ぎる都は嫌いだ。


  ◆暗転


 病院に着き受付の人に挨拶をしてからお母さんの病室に向かう。病室に向かうときはいつも一人で都は大抵、喫煙所とか待合室で待っている。きっと彼なりの気遣いなのだろうけど、こういう時こそ一緒にいるべきではないのか……まったく気が利かない。

 お母さんはお父さんが死んでからずっと病院にいる。ワタシが会ったところで元気になるわけでもないし話しかけても返答がないのが当たり前だ。


 本当ならこんなことにはならなかったはずなのに、どうしてお母さんじゃないといけなかったのか。普通に生きてしまっている自分に胸が締め付けられる程、嫌になる。どうせならワタシも心を壊してしまいたかった。

 改めて思えば嫌いなヤクザに育てられたというのは何とも皮肉が効いてる。まぁでも都は……やめよう。

 病室のドアを開けるとお母さんはベッドに腰かけ、開けた窓から吹く風に当たり外を眺めていた。あんまりその姿を見たくなくて無意識のうちに視線を外していた。


「お母さん久しぶり。窓開けてたら寒くない? この後、雨降るかもよ」

「……」


 分かってはいたけど返事が来ないのはとても居たたまれない気持ちになる。ワタシを見てくれないお母さんに空虚感を噛み砕いた。

 ベッド横にある小さな棚の上にある花瓶の水を取り換えようとした時、久しぶりにお母さんの声を聞いた。


「貴百合は今幸せ?」

「えっ……?」


 お母さんが何かを話すこと自体珍しいけど大抵は天気の話とかそういう『何てことない』話だ。だからいきなり突拍子もない質問を投げかけられて驚いてしまった。


「うん、幸せだよ。心配しなくて大丈夫」


 本当は「幸せじゃない」と言ってしまいそうになったけど余計な事を言ったところで意味はないしお母さんを困らせたくないのでグッと堪えて笑顔でそう言った。


「そっか。貴百合が幸せならそれでいいの」


 お母さんは静かに笑ったけどすぐに元の顔に戻ってそれ以降、何かを言うことはなかった。けど久しぶりにお母さんの笑顔を見れたのが嬉しくて少しだけ視界がぼやけてしまった。

 しばらく嬉しさの余韻に浸りながらワタシは花瓶の水を取り替えて病室を出た。


 都はどこにいるのだろうか。いつも通り最初に喫煙所に行くもそこにはいなくて、待合室に行ってみるも都はいなかった。それなりに大きい病院なので人は割といるが、目立つ見た目の都が分からないということはないはずだ。

 入れ違いになってしまったのかと思いもう一度、喫煙所に行ってみる事にした。この時、無自覚だったけど少し早歩きになっていたのはきっと、都がいなくなってしまうことに恐怖を感じていたのかもしれない。そんなことはありえないしそう思う自分が嫌だったけどなぜか凄く不安になった。


 だけどやっぱりそこに都はいなくてワタシは途方に暮れてしまった。自然と口が彼の名前を紡いだ時、


「貴百合ちゃんここにいたんだね。もしかしてオレのこと探してた?」


 後ろから声をかけられて振り向くとそこにはワタシが探していた人物がいた。


「都……」


 少しだけ安心している自分がいたけどそれが何だが花を食べてもあまり味がしなくてまるで存在しているのに虚無を噛んでいるような感覚で気持ち悪く、そんな自分の気持ちを見たくなくて何も無いように振舞った。


「もぉ! 都どこにいたの、探したんだから!」

「わりぃ、梅田さんから電話来ちまってな。というか連絡入れて待合室で待ってればよかったのに」


 都の言葉を拗ねた顔で無視する。


「……。他に用事が無かったら帰るけどその前に一服していい?」

「仕方ないからいいよ」

「……ありがとうね」


 都は煙草に火を付けて味わうようにゆっくりと吸った。煙草は嫌いだ。

 煙草を吸っている間、都はワタシを見ないから。だから煙草を吸う都は嫌い。


 少し離れたところでボーっと都を眺めていたけど、スラッっとした線の彼は煙草を吸う姿がよく似合う。悔しいけど煙草が似合う都は少しだけ……好きなのかもしれない。


「そんなにジッとオレのこと見てどうしたの?」

「別にー。……そういえばこの病院って都の組織が運営してるんでしょ?」

「んー? まぁな。他にも色々やってるぞ」

「例えば?」


 興味はないけど話を続ければ都はワタシを見てくれるから聞いてみる。


「そうだな……児童施設とか介護施設、後は何だっけ……? 結構色々な事業とか展開してたんだけど忘れちまった」

「ふーん、意外と凄いんだね。てかヤクザが病院とか児童施設とか世間が聞いたら大変なことになるでしょ」

「それはそうだな。……まぁ昔ヤクザだった名残なだけで今は違うらしいけどな。組長が『社会貢献』を理に掲げてるからそういう福祉施設とかいっぱいあるらしい」


 都は自慢げに言うけどヤクザが社会貢献とか馬鹿げてる。今は違うと言われても所詮ヤクザはヤクザだ。今更いい子ぶったところで……というかヤクザより不良では? とも思ったが飲み込む。


「うちの組が運営、経営してるってだけでそこで働いてる奴はうちとは関係ないしな。それにいいこともあるんだぞ」

「そうなの?」

「例えば厄介な奴がいるとするだろ? うちのガタイがいい組員を連れて行けば大抵は大人しくなる。もちろん暴力沙汰はご法度だけどな。後は身寄りがないやつに働き口を紹介してやれる。オレもそのおかげでここにいるしな……けどやっぱ貴百合ちゃんはヤクザなオレは嫌だ?」


 都が悲しそうな顔でワタシを見る。嫌だしヤクザは大嫌いだけど都が悲しむ姿を何となく見たくなくて、いつも通りの嘘をつく。


「ううん、ワタシはどんな都も大好きだよ」


 その言葉を聞くと都は煙草を灰皿に捨て嬉しそうにワタシの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

 ……悪い気はしない。


「さっ、帰るか」


 歩き出した都を見てふと思ってしまった。


「都っていつもスーツだよね」

「……? 仕事着だからな」


 思えば家では部屋着だが外でスーツ以外の都の姿を見たことがない。せっかく見た目が整っているのにもったいないと思ってしまう。だからそんなつもりはなくても提案してしまった。


「今から服見に行こうよ!」

「……え?」


 都も驚いていたがワタシも内心、驚いていた。


  ◆暗転


 病院近くの駅前に少し大きめのショッピングモールがあることは知っていたが、来たことはなかった。思えば都はいつもどこかに行こうか、と気遣ってくれていたがワタシは興味が無い振りしていつも断わっていたのもあり、都とこうしてちゃんとどこかに『遊びに来た』のは初めてだった。

 そう思うと一体どういう顔をすればいいか分からなくて、何となく後ろめたい気持ちになったけど、せっかく来たんだし一回くらいなら楽しんでもいいよね……!


「都はどういう服が好きなの?」


 どんなお店があるのかワクワクしながら振り向くと、都はあまりこういうところに来たことがないのか周りをキョロキョロと見渡していた。少しだけ恥ずかしいからやめてほしいけど都がこういう場所に来れなかったのはただ単に興味が無かっただけなのか、それとも仕事柄か、はたまたワタシのせいなのか……そんなことをふと考えてしまう。

 そんなワタシのことを知ってか知らず都は笑顔で言う。


「服とか興味無かったからな、こういうところ初めてで分からないし……貴百合ちゃんのおすすめ教えて欲しいな」

「もうしょうがないな~」


 何だか少しだけ、ほんの少しだけ。まだ平和だったあの頃の日常に戻れたようで嬉しくなってしまいこの時だけは素直に都の手を引いた。

 だけど少しだけ、本当に少しだけ――胸の奥に刺さった小さな棘の痛みが珍しく主張してきてどうしようもなく痛かった。


  ◇


「あの服もいいんじゃない?」


 少し派手めな服を手に取り今日何度目かの言葉を発する。ワタシが見繕った服の中から都が気に入ったものを選べばいいやと思ってあれもこれもと言っていたら都はその全てを買って行った。そのため両手にはたくさんの紙袋がぶら下がっている。

 だから都の反応が見たくて絶対に着ないような服を選んでみた。


「ハハ冗談キツイね。オレもうすぐ三十だよ? 若者向けの服は流石に似合わないと思うんだけどな……」

「そうかな? 都、見た目は若いんだから大丈夫だよ」

「えー……あ、ねぇ貴百合ちゃん。あの服、貴百合ちゃんに似合いそうじゃない?」


 お気に召さなかったようで、話題を逸らすために都が指差した先にあったのは、ワタシが好きなブランドの服だった。

 都にはワタシがこのブランドの服を着ていることは分からないだろうけど、自分の好みを当てられたことは嬉しい。よく見てみようと服に近付く。


「へ~都ってワタシの好み知ってたんだね」


 いつまで待っても都からの返事はなく、都がワタシをほったらかすなんて珍しいなと思いつつ、振り向くと都は一方向をジッと見つめていた。……この時、都の雰囲気が初めて殺気立ったのを見た。


 あぁこの人は本当にヤクザなんだと妙に納得してしまった。


 都がこんな風になるなんてただ事じゃないと思い駆け寄る。ワタシも同じ方向を見てみるとそこにはスーツ姿の男性が数人固まって歩いていた。そしてその集団は真っ直ぐ自分達に向かっているようにも見える。


「都どうしたの……?」


 殺気立った都が少し怖くて声が震えた。都は何も言わずワタシの手を掴むと視線を集団から外さないようにゆっくり後退すると一気に振り返り走った。都の足の速さに驚きながら転ばないようについて行くことだけで精一杯だった。

 無我夢中で走り、少しだけ狭くなった通路に入ったところで都は止まり手を離した。息も絶え絶えなワタシに比べてほとんど息が上がっていない都を見て化け物かとも思ったけど、今はそんなこと考えている暇はない。


「ごめんね、貴百合ちゃんいきなり走って」


 都は周囲を見渡した後、心配そうにワタシの顔を覗き込む。目線を合わせるのは都の癖だけど何となく子供扱いされているようで好きじゃない。


「だ、大丈……夫……。はあ、けどいきなり走り出して、どうしたの?」

「さっきいたスーツの集団いたでしょ? あれ北組……うちの組にちょっかい出して来る人達なんだけど、多分見つかったと思うんだ。貴百合を危険な目には合わせたくないからさ」


 都は真剣な眼差し、口調で言ってポケットから車のカギを取り出しワタシに渡す。それが小さな子供に言い聞かせるようで不覚にも出会った時のことを思い出してしまう。


「貴百合は車に戻ってて、それから梅田さんに電話してくれる? オレが北組に絡まれてるって言えば伝わるから。あぁあと、洋服も持って行ってくれるとありがたいんだけど」


 そう言って申し訳なさそうに紙袋を差し出す。ワタシは荷物を受け取らなかった。

 どうしてよりによって今ワタシを呼び捨てにするの、ずるいよ。


 荷物を持つのが嫌というわけではなく、都がいなくなってしまうから受け取りたくなかったけどワタシに拒否権は無いのだろう。


「都は?」

「オレはあいつらの気を引いて来るよ。もし本当にバレてて喧嘩吹っ掛けられたら周りの人も巻き込んじまうしな」


 彼は悲しそうに「君のときみたいに」と小さく呟いた。


「だったら都も一緒に行こうよ。ここから離れれば大丈夫でしょ!」


 似たようなことは何度もあったけど今回だけは胸がざわついて嫌な予感がする。今ここで都を一緒に連れて行かなければワタシは一生、後悔するかもしれない。でも都はいつもみたいに一線を引いてワタシを拒絶する。


「わりぃ、それはできない。あいつら前もうちにちょっかい出しててな、それで梅田さんが探してて、ここでオレが囮になれば解決しそうなんだ」


 ダメだ、都が行ってしまう。自分でもどうして必死に都を引き留めようとしているのか分からない。どうしてワタシを置いて行くの、そんな都は嫌いだ、だから嫌いにならないように行かないでよ、って言いたかったけどそれだけは言葉にしちゃいけない。


 頑張って頭を回し説得材料を探す。だけど考えれば考える程、頭の中が漆黒の闇で埋め尽くされる。


「あぁそうだ。これで飲み物でも買って梅田さんが来るまで待ってろ、な?」


 都は目を伏せて笑いながらワタシの手にお金を握らせてから歩き出した。都は昔からよくこの手段を使うけど、こんなのに騙されないくらいに〝私〟は大人になったんだよ。


 ワタシは咄嗟に都の腕を掴む。


 何か言うんだ、何でもいい。頭の中で言葉を形成できなくてもとにかく何かを口から発せればいいと思い声帯を震わせ喉を鳴らす。その様子を都は何も言わず静かに見ていたけど段々ワタシから離れようとしているのは分かったし、それが一層ワタシを焦らす。


 何か、何かないか。虚空から何かを探し出そうと眼球を目一杯動かす。そこでやっと があることに気付く。ワタシはそれが切り札だと言うように都に叩きつける。


「……約束。約束したから! だから――」

「大丈夫だから貴百合」


 言い終わらないうちに都は悲しそうに微笑み、ワタシの手から逃げるように駆けて行った。


 あーあ、なーんだ。


 都がいなくなった瞬間に呆気ないほど何も感じなくなった。さっきは何であんなにも必死だったのか自分でも分からない。虚無を噛むみたいに馬鹿らしい。


 ねぇ、都。約束を破ったら一緒にいられないかもしれないんだよ? 都はそれでもいいんだ。

 都は、都だけはワタシのことを見てくれてると思ってたけど違ったんだね。


 車に戻る途中に自販機で飲み物を買う。仕方ないから都の分も買って行ってあげよう。車に乗り梅田さんに電話をかけるとすぐに出た。梅田さんは「分かった、雪落さんはそこにいなね、終わったら行くから」とだけ言って電話を切った。


 耳をつんざく程の静寂に包まれながら自販機で買った缶ジュースに口をつける。

 その瞬間、目の前の景色がぐにゃりと曲がりノイズに覆われ、キーンとひどく耳鳴りがして目眩がしたと思いきや頭を思いっ切り殴られたような痛みに襲われ苦しくなる。手の力が抜け、落とした缶からジュースが零れていくが、そんなことに構っている余裕はなかった。ぶわっと冷や汗をかき呼吸が乱れていくのを感じ、自らの肩を抱いて静かに過ぎ去るのを待った。


 目の前のノイズも耳鳴りも頭痛も苦しさも少し収まって、荒くなった呼吸を整えようとしたとき窓をコンコンと叩く梅田さんと目が合った。梅田さんが来たということは全て終わったのだろう。


 だけどワタシが買った飲み物を都に渡すことはなかった。


  ◆暗転


 あの日以来のお母さんがいる病院。だけど今日はお母さんのお見舞いじゃなくて都のお見舞いに来た。

 梅田さんから聞いた話だと都は北組の人達から一方的に暴行を受け、頭を強く打ってしまい昏睡状態だという。梅田さんの話しぶりからするに都は特に抵抗などしなかったようだ。しばらく面会させてもらえなかったから今日、久しぶりに都に会う。


 もうすぐ夏になるというのに今日はとても寒い気がする。昏睡状態とは言え都にどんな気持ちで会えばいいか分からなくてしばらく病院の入り口で風に吹かれてから、梅田さんに教えてもらった病室に来た。


 一回だけ深呼吸してから扉を開ける。


 病室の奥、窓際のベッドに静かに横たわる都を見つけ近付く。途中、棚に飾られたキンセンカの花束が目に入る。珍しいなと思っていると開けられている窓から少し強い風がカーテンを揺らしワタシと都の髪を撫でながら通り過ぎていく。

 見た感じ都の顔にはあまり怪我などなくただ寝ているだけに思える。


 ……どうして都が無事でホッとしている自分がいるんだろうか。いや別に悪いことではないはずなのになぜか『罪悪感』に似たものを感じてしまう。


――今なら都を殺せるかもしれない


 彼の固く閉じられた目、骨張っているが少し細めな首を見てそんな考えが一瞬、脳裏を過るが振り払うように頭を振った。なぜ今そんなことを考えてしまったのか……都のことは好きではないが殺したいと思ったことはない。

 確かにお父さんを殺したヤクザに復讐したいと考えているが都に殺意を向けるのはきっと違うはず、だけど都だってヤクザだ。そう思うと、どうしようもなく黒い感情が沸き上がって溢れそうになるのを懸命に堪えた。ここで過ちを犯してはいけない。


 今まで『演技』以外で都に触ろうとしたことはあまりないが気付いたら彼の綺麗な金色に輝く髪に触ろうとしていた。だけどその瞬間にバチッと都の見開かれた真っ黒な目と視線が絡んでしまい固まる。


「あ……」

「貴百合はオレのこと嫌いでいないとダメだよ」


 一瞬そう言われた気がしたけど多分気のせいだ。驚くワタシを横目に都はゆっくり、少しだけワタシから離れるように起き上がった。そして大きなあくびをして何事もなかったかのように話し始める。


「ふぁ~あ、貴百合ちゃん来たんだね。久しぶり。……どうかした?」

「梅田さんから都は昏睡状態だって聞いてたから……その…………」


 都は呆れたように頭を掻くと小さくため息を吐いた。


「あぁね、兄貴言い忘れたな……。一週間前に昏睡状態から覚めて今は検査入院とか経過観察ってとこ」

「そう……」


 何て返したらいいか分からずそれ以上の言葉が出て来ない。都に会えて嬉しいはずなのにどうして都がここにいることに違和感を持ってしまっているのだろうか。


「貴百合ちゃん気晴らしに散歩に行こうか」

「大丈夫なの?」

「へーきへーき」


 きっとワタシを気遣っての事だろう。病人に気遣って貰ったうえ拒否する理由も特に無いので都に着いて行き病院の外に出た。

 流石に病院着のままでは外出できないので、いつものスーツに身を包んだ都の後ろを歩く。病院近くの広い河川敷に行くために歩道橋を渡りながらぽつりぽつりと都が言葉を紡ぐ。その声はどことなく悲しそうで発せられた言葉はすぐ空気に溶けて消えてしまいそうだった。


「あの時、貴百合ちゃんと別れた後やっぱり北組の奴らにバレてたみたいで、人が少ないところと思って喫煙所に行ったら囲まれちゃってね。このザマだよ」


 背中しか見えないため都が今どんな表情なのか分からない。


「どうして抵抗しなかったの?」


 都は前を向いたまま乾いた笑いをこぼす。


「はは、貴百合ちゃん冗談キツいよ。別にオレ、力があるわけでもないし丸腰で数人の男に囲まれたら太刀打ち出来ないでしょ」

「ならどうして囮なんかしたの……!」


 思いの外、語気が強くなってしまったが都は気にしていないようで続けた。


「北組の奴らはうちの組の人間を殴れりゃ誰だっていいんだよ。だから梅田さんが来るまでオレが殴られてれば時間稼ぎにはなる」

「ねぇ都は――」


 歩道橋から降りるときにずっと訊きたかったことを訊こうとして突然、周囲の音を制すように耳障りな金属音に貫かれ――たように感じた――、それに驚いたワタシは体をよじってしまい階段から落ちそうになり目をぎゅっと瞑った。しかし温かい何かに当たってゆっくり目を開けると、ワタシは都に支えられていてどうやら落ちずに済んだようだ。安堵して顔を上げると都が心配そうな顔で見下ろしていた。


「貴百合ちゃん大丈夫……? 怪我とかしてない?」

「う、うん……都のおかげで大丈夫、ありがとう……」

「そう? ならよかった」


 都は嬉しそうに微笑むとワタシから離れた。……彼のその表情かおを見るのは凄く久しぶりな気がして懐かしく感じてしまった。その瞬間少しだけ周りの風景にフィルターが掛かったかのように色褪せて見えた。

 そのせいでボーっとしてしまったが都の声で我に返る。


「貴百合ちゃんさっき何か訊こうとした?」

「あ、うん……。都はあの時、誰かを殺した?」


 頭の中では何も感じなかった言葉を改めて口から紡ぐと、まるでそれが訊いてはいけない言葉のように感じて体が急激に熱くなって冷や汗も出てきた。そんなワタシを見透かすように都はジッと見つめてから、今までに見たことないくらいの笑顔でワタシの頭をわしゃわしゃと撫でながら言った。


「誰も殺してないから安心して」


 ワタシは何かを言いかけてやめた。

 おかしな話だけど都を殺さずに済んで安堵すると同時に少しくらい暴力を振るってくれれば変わらず嫌いでいれたのに、とも思ってしまった。


  ◇


 河川敷の遊歩道を通り橋の上で止まる。小さい頃お見舞いの帰りに都に連れられて少しだけここで遊んだ記憶が蘇る。都が川を覗き込むのでワタシも一緒に見てみる。橋は高く川はあんまり綺麗ではなかった。


「そういえば貴百合ちゃん今年の誕生日プレゼントは何がいい?」


 ワタシの誕生日は一月なのに気が早いな、と少しだけ訝しんだけど特に欲しいものも思いつかないし……都に何かをねだるのは気が引ける。


「あっ! なら前に都が言ってたおすすめのお店に連れて行ってよ! 約束もしたし」

「そんなんでいいのか? 成人祝いも兼ねてもっと豪華にしてもいいぞ」


 ワタシは首を振る。そして都が喜びそうな言葉を選んだ。


「いいの、だって都がいればそれでいいし誕生日に一緒にお酒が飲めることが何よりのプレゼントだよ!」


 都は「そうか」と言いながら悲しそうにワタシの頭を撫でる。どうして悲しい顔をするのか訊く前に都の言葉がやけに鮮明に耳に届く。


「貴百合、大好きだよ」


 ワタシも大好きと答えたかったけどなぜか突然、石のように体が固まってしまい言葉を発せない。突如、自分の身に何が起こったか理解できずパニックになる。唯一、動かせる眼球を必死に動かして都に訴えかける。


 でも都は何も見えないみたいに続ける。


 何かがおかしい。


「誕生日おめでとう貴百合――」


 一瞬だけフワッとした感覚があってから一気に重力に引っ張られた。何が起こったか分からず咄嗟に都に助けを求めようと手を伸ばしても届かないことからワタシは都に橋から落とされたんだと悟る。


 誕生日はまだ先だよとか、どうしてワタシを突き落とすの? とか色々な感情がどうでもよくなるくらいワタシは、『約束』を都に破られたことだけしか考えられなかった。憤怒とか悲しみとか単調な言葉では表現できない気持ちが複雑に絡み合う。自分が信じて疑わなかったものが全て一瞬にして消え去る虚無にも似ている。


 この世界舞台 を形作っていた照明はバツッと消え舞台背景も全てが大きく耳障りな音を立てて崩れ落ちていく。真っ黒な世界でワタシはただ一つだけ都に問いた。


――どうして約束を破ったの


  ◆幕引き


 バチリと目が覚める。呼吸は乱れており服が濡れる程ぐっしょりと全身に汗を掻きとても気持ち悪く、とても最悪な目覚めだ。


「…………いき、てる……?」


 声が出たことにまず安堵する。ゆっくりと起き上がり自分の存在を確認する。

 七月とは思えないほどに寒く、周りを見渡すとそこはよく見慣れた病院だった。橋から落とされた後きっとここに運ばれたのだろうと察する。


「そうだ……! 私落とされて……。都、都はどこ!?」


 全てを思い出した瞬間にいてもたってもいられなくて病室を飛び出していた。


 都の嘘つき! 約束を破るなんて許せない、絶対に問い詰めてやる! そう固く決意をして探し回る。いつもの待合室も喫煙所にもいない。ならば駐車場はどうだ、きっと都の車があるはずと思ったけどそこにはなくて、虚無に襲われそうになるけどそれを振り払うように私は病院着のまま外に飛び出していた。


 外は既に日が沈み始めていた。走りながらどうして都は私を殺そうとしたのかずっと考えた。私を突き落とす都の悲しい顔がずっと脳裏に焼き付いて離れない。何度もその顔を思い出しては何度も消えていく。だけど何度か繰り返すうちに都が泣いていたことに気付く。


――泣いていた


――泣いていた……?


――違う。泣いている


――泣いている……?


「私が…………泣いている…………?」


 目から大粒の涙が一筋だけ落ちて頬を濡らす。


 あぁ、そうか。


 河川敷に辿り着いたとき全てを思い出し膝から崩れ落ちる。

 そうだ、そうだったじゃないか。


 酔っぱらったまま寝てしまった都に、優しくない私は毛布をかけてあげなかったし「おやすみ」の一言も言わなかった。病院でお母さんに「今幸せ?」と聞かれて「幸せなわけないじゃん!」ときつく当たってお母さんに悲しい顔をさせてしまった。


 それから北組の人に会った時は都の様子がいつもと違うことに気付いていたのに、私よりもそっちを優先したことに拗ねて引き留めずに行かせてしまった。


 一つ一つ自分の罪を数える。それから、それから――


「あは、あははは……私が、都のこと、殺しちゃったんだ」


 誰かに嘘だと言って欲しかった。涙が溢れ、どうすることもできない事実に笑うことしかできない。

 歩道橋で都に誰か殺したかと訊いたら「自分を守るために咄嗟に一人だけ殴った」と返って来た。


 その時、思い出したんだ。


 忘れそうになるけど都はヤクザだ、ヤクザをやめない限りこういう事は少なからず起きる。都が人を殺さない保証などないし、万が一誰かを殺してしまったら? それなら都が誰かを殺す前に私が都を――。


 ……本当は心の奥で都を好きになってヤクザを許すのはダメだという思いと、私の知らない所で都がいなくなるくらいなら私が手を下したいという思いが咲いたから。


 だから階段を降りる都に「大嫌い」と言って背中を押した。


 だけど彼の悲しい表情かおが脳裏に焼き付いて『都が死ぬ事実』に耐えられなかった私は、夢に閉じ籠り全部をやり直そうとした。


 全部、全部自分のエゴだ。


 それなのに事実に耐えられなくなって現実逃避するなんて、どれだけ浅はかで傲慢なのだろうか。都はずっと約束を守ってくれたのに。


「私、馬鹿だ…………。私が先に約束破ってるじゃんね……」


 都との唯一の繋がりが『約束』だったんだ。これが無ければ私は都と一緒にいられない。

 ずっと、それにしがみついていたから夢で都に約束を破られた時、絶望したんだ。

 だけど、そうなると分かって約束を破った私はただの愚者じゃあないか。


 そっか、こんな気持ちになって夢に閉じ籠ってやり直したいくらいに私――……


「本当は都のこと、大好きだったんだ」


 言葉にした途端、洪水のように涙が溢れて止まらない。拭っても拭っても目の前の景色は掠れてぼやけたままでどんなに会いたいと願っても、もう都はいない。人は失ってから大事なものに気付くと言うけど遅すぎたうえに、自分で殺した後に気付くなんて滑稽だ。


 自分の気持ちすら裏切って得られたものなんて無いどころか、失ったものの方が多すぎるとかあまりにも馬鹿だ。

 夢の中で都は私のことを見てくれないと拗ねていたけど、何も見てないのは私の方だ。私は都――大好きな家族のこと、何も知らないんだ。


 虚無を噛みしめるたびに涙が溢れる。


 もう手遅れだけど都のこと、もっと知りたいと思ってしまうし、いつもみたいに側で飄々と笑っていて欲しかった。いないと分かっていても何度も名前を呼んでしまう。

 だって名前を呼べばどこからともなく現れてくれる気がしたから。


――そういう〝気〟がしたのだ。


 気がしただけなのにどうして今、一番聞きたい声で名前を呼ばれているのだろうか……? きっとまた現実逃避の空耳だ、いないはずの存在をいると思い込んでいるだけだと、そう思い振り返るとそこには、


「み、……や、こ…………?」


 どうして? 死んだはずでは? 幻覚かとも思ったけど絶対に違うことは分かった。だけど頭が追い付かない。混乱する私に都はへらっと笑いながら話しかけた。


「ここにいたのか。驚いたよ、オレが起きたら貴百合ちゃんも昏睡してるなんてさ。一緒に階段から落ちたらしいな」

「都違うの……! 本当は私……!」


 まだ状況はあまり飲み込めてないけど、でも目の前に一番会いたい人がいて、今すぐにでも駆け寄って都が生きててよかったと言いたいけど、私が彼を殺そうとした事実のせいで素直に駆け寄ることが出来ないとか、今はそんなことよりも都に本当のことを話して謝らなければと焦る私を制して、


「ハハ、冗談。……少し歩こうか」


と言って都は歩き出した。とても複雑な表情に私は何も言えず黙ってついて行くことしか出来なかった。


 歩きながら都は何となく状況を説明してくれた。歩道橋の階段から二人一緒に落ち、都は気絶だけで済んだらしくすぐに目覚めたが、私は今までずっと昏睡状態だったらしい。


そして今は一月、今日は私の誕生日だ。


 都が止まったのは夢の終わりと同じ橋だったのでビクッと心臓が跳ねる。大丈夫、きっと大丈夫と自分に言い聞かせる。

 私から少し距離を取って都は淡々と言葉を投げかけてくる。


「全部知ってたよ。オレのこと嫌いだったとかオレを殺そうとしたことも。だって貴百合オレに触る時、一瞬躊躇うし、大好きって言うときはオレの目を見てないんだよ」

「…………」


 何も言い返せない。全部バレてたんだ。


「んで、気分は晴れたか?」

「気分が晴れたとかはないけど……」


 嬉しさと悲しみでまだ涙は零れそうになっていたけど、私が被害者面して泣くのは間違っていると必死に抑えていたせいか、喉が震えて上手く言葉が出ない。辛うじて出た言葉は途切れ切れだったけどそれを無理矢理、制して言葉を繋ぐ。

 ずっと俯いていたけど、この嘘偽りのない気持ちをちゃんと伝えなきゃいけないから真っ直ぐ都の目を見据える。


「今なら心から言える、私は都のことが大好き。……許されないことをしたのは分かってる。だけどもし、もし許されるなら私は……私は都と一緒にいたい!」


 都は笑って涙ぐみながら私を優しく抱きしめた。


「オレも貴百合ちゃんのこと大好きだよ」


 あぁ、よかった。都も同じ気持ちなのは、とうに知っていたけどこれでやっと本当の家族になれる。ずっと都と一緒にいられるんだ。二人で他愛もない話をしながらご飯を食べて、一緒に色々な場所に遊びに行って、今まで、できなかったことを全部するんだ。『ごっこ遊び』じゃなく本当の『家族』として。知らなかったこと、全部知るんだ!


 そう思ったのに、都の温もりはすぐに離れていき消えてしまった。

 どうしてと思うも都はただ笑ったまま何も言わず一歩一歩離れていく。


 そして橋の欄干に立った時、私は全てを悟ってしまった。


 ダメだ、ダメだよ、今それをすることは許さない、それだけは何としてもとめるんだ。なんで、どうして、と声が上手く出ないなら都を掴めばいいと思い手を伸ばしながら駆け寄る。だけど都は私に手を伸ばそうとはせず代わりに両手を広げた。


 夕日を背景に都に影が落ちる。


「だけど〝貴百合〟のことは大嫌い」


 間に合わなかった。


 そう言って都は一筋の涙を流しながら落ちて行く。


 刹那、世界中の時が止まり、次第にゆっくりとスローモーションで再生されていく。欄干に思いっ切り体を打ち付け落ちて行く都に手を伸ばす。だけどすぐに無意味だと分かりやめた。

 それは私の手が都に絶対に届かないことに絶望したからじゃない。

 落ちて行く都の顔が今まで見てきた中で最高にいい顔をしていたから。


 夕日を背景に、はちきれんばかりの笑顔でいつも真っ黒だった目には溢れんばかりの光を宿し、全てのしがらみから解放されたかのように晴れ晴れとした、最後に見るその姿が太陽のように輝くさまはまるで絵画のように綺麗だった。

 そんな都を見せられたら諦めたくないのに諦めなくてはいけなくなる。


 都は私に向かって何か言っているようだけど声は聞こえなくて、でも何となく分かってしまう。分かってしまったのはそれが彼の口癖だったから。


 『冗談キツいだろ』それだけ伝えた彼の姿を再び見ることは出来なかった。


 後に分かったことだけど、橋の周辺の監視カメラのおかげで私の無実は証明された。都は私の罪と一緒にいなくなったのだ。飛び降りる前に言った「大嫌い」という言葉も嘘か本当かは分からないけど全部、私のための優しさということだけは分かる。


 〝私がずっと都を嫌いでいられるように〟


 都は『私のため』に死んだのだ。私が都を嫌いだったとか、犯した罪に苛まれないようにとか様々な理由があれ、私が全てから解放されて生きて行けるように、そしていつかは全部忘れられるように。

 そんなことをされたら都の後を追いたくても出来ないじゃないか。


「都は優し過ぎるよ……でも都がいないと全部、意味ないんだよ……?」


 どうして都はいつも側にいてほしい時にいないの? ずっと一緒にいるって約束したのに都がいなくなったら意味ないじゃん。二人でお酒を飲む約束だって叶えられない。

 私は口の中で散った花びらのような苦みを噛みしめながらこの舞台装置もなくやり直しも出来ない、否が応でも進み続けて行く現実舞台で今までの業を背負って生きて行かなければならない。


 結局、最後に約束を破ったのは都だったけど責めることはできないし、それが先に約束を破った愚かな私への罰なのだ。都のことを忘れることはできない、忘れてはいけないし忘れたくもない。


 けどそれでいいんだ。私は都のことが『大嫌い』なのだから。必死に涙を堪えてお腹が震える。私は一生、彼のいない世界で彼の面影を探し続けて生きて行くことになる。


「今日、私の誕生日なんだよ? …………冗談、キツいでしょ……そんなことする都なんて大嫌い……」


 いくら名前を呼んでも彼の声が聞こえることはもうなかった。

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