第19話 佐伯とカッキー

「…って感じでさ」

「なるほどな」


「藤本は私に気を遣ってたのか、明るく振舞ってたけど」

「うん」


「やっぱり再婚相手が妊娠中って、思う所があるよね」

「だろうなぁ」


「はぁ…何ともないって言ってたけど、藤本が家に帰りたがらないわけだよ」

「まぁまぁ。話して貰えたんだし、そこまで落ち込まなくても」


「でも、家に帰りたがらなくて放課後話してるって知ってたのに…。何で家に帰りたくないのか、ちゃんと聞いた事なかったから。藤本とは一番仲が良いと思ってたのに、落ち込んじゃうよ」

「本人もやっぱり話しづらかっただろうし、むしろ無理に聞かなくて良かったんじゃない?」


「うう…」

「過ぎた事は仕方ないって。これから色々と聞いてあげたらいいさ」


「うん…」

「ほら。ケーキ食べたがってたんでしょ?」


「うん。それはもう目を輝かせてたわ」

「あはは。じゃあ、それでまずは藤本さんを喜ばせようよ」


「…そうだよね。ありがと」

「いえいえ」


「そういや、ケーキ食べながら根ほり葉ほり聞くって言ってたよ」

「ん?何について?」


「そりゃ…私たちについて?」

「あぁ、そっか。そうだね」


「スピード交際なんだからって言われちゃった」

「まぁ。話すようになってそんなに経ってないもんね」


「でもさ…」

「うん」


「別に話すほどの事は…」

「うん。そうだよな。分かる」


「だって『お互いタイプだし、まず付き合ってみる?』って軽いノリで付き合っちゃったし」

「…なんか、期待されているような話は出来なさそうだよな」


「そうなのよ!どうしよう。少女漫画的展開を期待されてたら」

「どうしようもなくね?」


「でも藤本をもっと喜ばせたい」

「こんな事で?」


「どんな事でも喜ばせたいの!」

「大好きだなぁ」


「大好きだもん」

「俺より?」


「うん」

「わお」


「冗談。まだ日は浅いけど、ちゃんと好きだと思ったから付き合ったんだからね?」

「はは。分かってるって!俺だってそうだよ」


「えぇ…もう」

「うわ、照れた」


「うわって何よ。殴るよ?」

「暴力やめて」


「可愛い彼女に殴られるんだから、むしろ喜びなさいよ」

「どんなドS女王様だよ…」


「えっ!?カッキー女王様キャラが好みなの!?」

「一言も言ってないんだけど」


「そんな期待されても…頑張るけど」

「頑張ってくれるんだ」


「藤本と同じくらい、カッキーの事も喜ばせたいからね」

「おお…う」


「げ、照れた」

「いや、げって何だよ」


「で、どうしよっか?」

「何が?」


「藤本と山田に、私達の馴れ初め聞かれたときの対処よ!」

「…?そのまま言えばよくない?」


「だから、それじゃあ藤本の期待を超えられないじゃない?」

「いや、超える必要は…」


「ショッカーに襲われた所をカッキーに助けられたって事にしようか」

「ショッカーって、仮面ライダーの敵の?」


「そうそう」

「いや。それじゃあ助けた俺が仮面ライダーじゃん…」


「あっ。そっか。正体はバレたらまずいもんね?」

「そうそう、隠してるから…って何でよ。そうじゃねぇよ」


「ほほう。ノリツッコミも出来ると」

「っていうか俺もう山田には話しちゃったからね?」


「えっ。じゃあそんな、しょうもない理由で付き合ったってもう藤本にもバレてる可能性あるじゃん」

「しょうもないって言った」


「少女漫画的展開にしたかった…!」

「そんなに悔しそうに」


「まぁいいや。藤本にはショッカーで通そっと」

「信じるはずがないのに…」

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