第2話 息を呑む

「なぁなぁ藤本」

「なに」


「んな面倒臭そうにすんなよ!俺の話を聞いてくれよ!」

「いつも聞いてあげてると思うけど」


「それはそう!んで、今日の話も聞いて!」

「はいはい。どしたん?」


「今日俺が読んでた小説に出てきた言葉で、ふと疑問に思った事があってよ」

「な…!?山田が本当に小説を読んでる…だと!?」


「いや意外そうにすんなや。傷付くわ」

「ウソウソ、ジョーダン!ギャップがあって良いと思うよ!」


「いや別にギャップ萌え狙ってねぇんだわ」

「何でよ。女子からモテモテになるかもしれんぞ?」


「え…まじ?」

「ふっ…山田、良い事教えてやろうか?」


「お、おう。なんだよ」

「女子は全員…ギャップ萌えが好きだ!!!」


「なっ…!?!?!?」

「ふっ…知らなかった?」


「し、知らなかった…けど、藤本が言うならそうなんだろうな…」

「って事で。ギャップ萌え山田君、本題は何かね?」


「何だその芸人にいそうな名前」

「いや、いねーわ。自分で言っといてなんだけど」


「まぁ、いいや。小説にな?『息を呑む』って表現が出てきたんだけどよ」

「『息を呑む』…驚いて声が出ない時に使う言葉だね。それが?」


「そう!それなんだよ!」

「…?どれ?」


「声が出ない事を表現したいなら『声が出ない』で良くないか!?」

「おま…お前…本当、山田…お前…」


「な、なんだよ」

「あのね、それは分かってるんだわ作者も。でも臨場感が伝わりやすい表現を使いたいわけよ。普通に『驚いて声が出ない』って言うより『思わず息を呑んだ』とかのほうが伝わる気がしない?」


「しない」

「だよね、知ってた。…まぁ、山田の言いたい事は分からんでもない」


「だろ!?」

「きっと作者は格好つけたいんじゃない?」


「そうなのか?」

「知らん」


「まぁ百歩譲って『息を呑んだ』という表現を使う事を許すとしてだな」

「山田に百歩譲られたり勝手に許されてる作者が可哀そうだわ」


「『息を呑んだ』より『息を止めた』の方が分かりやすくないか?」

「…!山田のくせに良いとこ突くじゃん」


「お、珍しく藤本に褒められた。やっぴぃー」

「確かに、息を呑んだって…語源は何なんだろう?」


「なんとなく気持ち悪くないか?『止めた』じゃなくてわざわざ『呑んだ』なんて表現さ」

「いや気持ち悪くは無いけども」


「『驚いて息が止まった』とかだと、息をするのも忘れてしまうぐらい驚いている感じがしない?」

「確かに…まぁ、そう表現している作家も中にはいるんだろうけど」


「『涙を呑む』っていう言葉もあるよな」

「山田…どうしたんだ今日は。すごい博識じゃないか」


「だからギャップ萌え狙ってるって言ってるだろ」

「言ってねーよ。結局狙ってるのかよ」


「んで、藤本はどう思う?お前いつも本ばっか読んでるじゃん?」

「いや…本を読んでるのと頭が良いのは一緒にしないで欲しいな」


「あれ?藤本も頭悪かったっけ?」

「普通かな。良くはない」


「メガネなのに?」

「そう。メガネなのに」


「残念メガネじゃねぇか…」

「言わないで。傷付くから」


「でもほら、多分クラスの奴らも藤本の事頭良いと思ってるぞ?」

「え、まじで?」


「まじ」

「つらい。こんなギャップいらん。メガネ破壊しようかな」


「いやメガネ破壊しても頭は良くならんだろ」

「良くはならんけど少しは馬鹿に見えるかもしれない。ギャップ回避」


「もっと自信持てよ。藤本の魅力はメガネだけじゃねぇよ…?」

「うわ。馬鹿に慰められた。つらい」


「俺の励ましの言葉を素直に受け取れよ…」

「涙を呑みます」

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