第44話

 私が人間だろうが魔族だろうが何だろうがこの際どうでもいい。私は私の責務を全うする。

 花の手入れも終わったので、次は物置小屋横の触手植物の世話をしないと。

「神父様。次は何するやの?」

「触手植物の世話です。株分けしておかないと綺麗な花が咲かないそうなので」

「そもそも触手植物って花咲くんやの?」

「咲きますよ。図鑑に載っていました」

 ドワーフの老人がくれた植物図鑑には、綺麗な薄桃色の花を咲かせる触手植物が載っていた。うちに置いているものと同じ種族か近しい種族のはずなので、きっと綺麗な花が咲くはずだ。

「神父様も図鑑見るんや……」

「私を何だと思ってるんですか」

「だって、なんでも知ってそうやの。なんでも答えられそうやの」

「私は全知全能の神ではないので答えられません。なんでも知っているならば、サキュバスの生態についても知っていることになります」

「それもそうやの。神父様、サキュバスについて知らないやの。ウチが教えてあげてもええの」

 ドヤァ……と胸を張っているけいを無視して小屋へ歩く。

 後ろから「置いてかないでやのー」と声がして、ぽてぽて、足音が聞こえてきた。彼女の足音は独特なのでわかりやすい。靴のせいだろうか……。靴だけはサキュバスの時と同じだからな。靴も買い与えたほうが良いか。

「靴買いましょうか?」

「買ってくれるんやの? ウチ、ドクターメートルの靴がええの」

「ブランドの指定するんですか」

「だって、買ってくれるって言うから」

「それほど高額の靴をお前に買ってやるほど、うちの教会は金を持っているわけではないんですよ。信徒からの寄付でなりたっているので」

「それなら、ウチに寄付してもらえるように魅了チャームかけてやるやの」

「それをやるなら、直接貢いでもらったほうがいいのでは?」

「貢がせてええの? ウチが他の男にモテモテになってもええの?」

 けいのスキルなら簡単にモテモテというものにもなれるかもしれないが……、それはいささか問題があるかもしれないな。これで味をしめて、色々なところでスキルを乱用されては困る。この娘のスキルの強さについては、実際に確認済みだ。

「ほどほどにしてください。目に余るようなら容赦なく夏樹に祓ってもらいますから」

「どうして神父様が祓わへんの?」

「悪魔祓いはエクソシストの仕事でしょう。私は司祭なので、司祭としての勤めをするだけです」

「うーん……。エクソシストも神職やないの?」

「そうですよ」

「それなら、エクソシストも『神父様』って呼んで良いものやの」

「そうですね。夏樹のことも『神父様』と読んで間違いではありません。ただ、あいつは呼ばれ慣れてないので『おれのことか?』と言うでしょうけど」

「神父様ってダメンズエクソシストのモノマネできるんやの……」

「意外とうまくできたので私も驚いているところです」

「……もしかして神父様ってインキュバスやったりせぇへん?」

「それは違います。私の母はダークエルフですので」

 だが、母は自分の出生についてチェンジリングとも言っていたような気がする。

 これを言うとけいは更に興奮しそうなのでそっとしておくか。

 それよりも、触手植物の世話だ。

「けい。ちょっと絡まっててください」

「絡まっててくださいって何やの!? ウチ、触手植物に食べられたくないやの!」

「大丈夫ですよ。お前の下の口なら植物の蔓ぐらい難なく呑み込めるでしょう」

「お口は上にしかないやの。神父様は何を言ってるやの」

「本当にサキュバスなんですか?」

「ウチはサキュバスやのー!」

 わかっているんだが、この娘はサキュバスにしては純粋なところがある。もう少し淫靡な雰囲気でいても良いと思うが……、まあいいか。

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