第45話

 触手植物の世話をしている小屋を開く。独特の甘い香りが部屋を満たしていた。この匂いで近付いてきたものを触手で捕らえて吸収しているんだろうな。

 知り合いから譲ってもらったものだったが、これほど大きく成長するとは思っていなかった。触手からぬるぬるの粘液が滴り落ちている。

「さて、何処から株分けするか」

「うわぁ……、ぬるぬるやの」

「この植物は精気を吸収するタイプらしいです。けいと同じですね。仲間ですか?」

「ちーがーうーやーのー! ウチを触手植物と一緒にしやんといて!」

「そうですか」

 どちらも精力を吸収するのだから大した違いは無いと思うのだが、本人にとっては別物なんだろう。植物学者に喋らせても同じように「違います」と言いそうだしな。

「きゃっ、助けてやのー!」

 けいが植物に近付いた瞬間に触手が絡みついていた。ぬるぬるが肌に垂れていく。

 そういえば、こういうエロ本がコンビニに並んでいたな。なるほど、実際に見るとけっこうクるものがある。なかなか淫靡だ。

「そうやってると魅了チャームをかけられている気がしてきました」

「それはウチの魅了チャームやなくて、性癖やの! 性癖の一致やの! 神父様こういうの好きやの!?」

「そうですね。好きです。なので、しばらく絡まっててください。その間に株分けするので」

「そんなぁー!? ウチ、このまま消化されへん?」

「大丈夫です。この子は精力を抜くタイプだと先程言いました。お前が消滅することはありません」

「ううぅう、服がぬるぬるしてきたやの……」

 けいに抜けるほどの精力があるのかは不明だが、枯渇する前に株分けを終わらせてやらないと。

 まあ、彼女の場合は私が補給してやればすぐに復活するとは思うが。

 根を掘り起こし、ナイフで縦に裂いてやる。これで二つになった。四分割にしておくか。夏樹に一株渡しておけば魔法薬の素材に困らないはずだ。夏樹なら植物の世話もできると思う。草木については私より詳しいはずだ。

「神父様ぁ、服が溶けてきたやのぉ」

「良いですね」

「良いですねって何やの!? 神父のコメントとして間違ってると思うの!」

「私は神父である前に、男ですよ」

「な、なんか、急にそれっぽいこと言うてるけど、それならウチにせーえきを……」

「それは嫌です」

 けいの修道女服がじわじわ溶けている。粘液には服を溶かす作用もあるようだ。

 もしかして、肉も溶かすタイプだったか?

「すみません。この植物、肉食かもしれません」

「ウチ食べられるやの!? 嫌やのー!」

「それなら自分で脱出してください。どうしておとなしく絡まってるんですか」

「だって、神父様が絡まっててくださいって言うから……。こういうの好きって言うし……」

 けいは照れながら喋っているが、今照れている場合ではないだろう。それは私でもわかる。

 株分けは終わっているので、ついでに余計な葉を切り取っておくか。けいに絡みついている触手を切り取る。

「そういえば、これ、食べられるらしいですよ」

「神父様ってたまに冒険者のようなこと言うやの。こういうの食べるの冒険者くらいやの」

「これは夕飯にしようと思います」

「まさかの夕飯やの」

「では、株分けが終わったものを運ぶので手伝ってください」

「はーい」

 一つだけ元のように埋めて、他の株を運び出す。けいは再び絡まっていたが。運び出すことには成功していた。

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