第40話

 その後はごく自然に就寝した。一応目覚ましのアラームをかけているが、それよりも早く起きてしまうのは癖というか習慣というものだろうか……。

 アラームの時間を早めるのも手だが、それよりも早く起きる可能性のほうが高いために、遅めに設定してある。

 布団を被ってもぞもぞ動いているサキュバスを起こす必要は無いだろう。彼女を叩き起こしたところで、今何も手伝いをすることは無い。それに放っておけば、後から鳴るアラームで起きるはずだ。

 私が身支度を整えている間に電子音が聞こえてきた。と同時に物音がした。彼女がベッドから落っこちたのだろうか。

「神父様! 起きてるならアラーム切ってやの!」

「それはお前を起こすためのアラームなので、私が切ったら意味が無くなるでしょう」

「そ、そうやったの……?」

「と言えば納得してくれますか?」

「じゃあ違うんやのー!」

 けいは頬を膨らませている。肌がツヤツヤしているので、充分に魔力供給できているようだ。牛乳を大量に飲ませるのは正解だったようだ。

「ほら、早く顔を洗って着替えてください。朝の祈りを始めます」

「ウチは参加せんくて良くない……?」

「お前はシスターとして雇われているので、祈りに参加していないと妙でしょうが。私は別にかまいませんが、信徒が何処かに報告すると面倒なことになりますよ」

「そ、それは大変やの!」

「だから、さっさと準備してください」

「はいやのー!」

 ……サキュバスというものは従順なのだろうか。あの娘だけが特別なのか、まあ、どちらでも良い話だな。

 けいが支度している間に、私は聖堂に下り、扉を開く。

 朝日が眩しい。身を焦がす光が肌に突き刺さる。なにもかもを包み込んで焼いてしまいそうだ。

「神父様おはようございます」

「おはようございます。配達お疲れ様です」

「いえいえー!」

 朝早くから食事の配達員が走っていた。

 注文すれば持ってきてくれるのは良いサービスだと思うが、こんなに早くから配達も大変だな……。

「神父様。何見てるやの?」

「配達員を見送ってました」

「ああ、デリバリーサービスやの。そういえば、サキュバスのデリバリーサービスもあるって聞いたことあるやの。ウチ、登録してみよっかなぁ」

「登録して赴いた先で『チェンジ』と言われたらどうするんですか? メンタルが心配なので、やめてください。お前は私の側にいれば良いんですから」

「やぁあーん! ヤキモチやのー!」

「変な声出さないでくださいよ。サキュバスって鳴き声も妙なんですか」

「もーっ。そんなに照れへんでええの。ウチは神父様のモノやの」

 相変わらずよくわからないが、けいはゴキゲンのようだ。

 そうこうしている間に定刻となったので、朝の祈りを始める。

 私が滞りなく進行している間に、けいは訪ねて来た信徒と戯れていた。

 誰とでも仲良くなれるのは、サキュバスのスキルなのか、それともあの娘の性格なのかわからないが……、悪いことではないな。なんやかんやで教会の運営にも関わってくることだ。

 朝の祈りとミサが終われば、朝食の準備に取りかかる。けいは先に席についていた。

「手伝ってくれないんですか?」

「ウチが手伝ったら爆発するかもしれへんの」

「夏樹じゃあるまいし、けいなら大丈夫でしょう」

「……ダメンズエクソシストが手伝ったら爆発するやの?」

「あいつは色んなものを爆発させるんですよ。フランベしているかと思えば事故だったこともありますし」

「それは大変やの」

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