第38話

 けいはお好み焼きをご飯の上に乗せて食べている。にこにこしているので、見ているこちらも気分が良い。だが、炭水化物をおかずに炭水化物を取っているのはいささか問題だな……。

「それ、あなただけですか? 魔族には定番ですか?」

「定番やの。他にも天かすとだしを合わせたものをおにぎりの具にするのもあるやの」

「なんというか……エネルギー摂取量が気になりますね……」

 そういえば、そういうおにぎりがコンビニに置いてあったような気もするな。今度見かけたら買っておいてやるか。

 ソースがご飯にしみていくのが美味いのだろうか。彼女はわざわざソースの塗っている側を下にしてご飯に乗せている。

 彼女の食事を見続けているものでもないな。

 食後の祈りをして、食器を片付け始めた。食べ終わったけいが腹を撫でて「けぷぅ」と言っている。放っておくと食べ過ぎてしまう傾向がある気がする。サキュバスの標準服だと下腹がぽっこり出てしまうだろうに。

「修道女服脱いで良いですよ」

「やったやの!」

 声をかけるとすぐに脱ぎ捨てていた。やはり腹がぽっこり目立つ。

「腹出てますよ」

「違うやの。ウチ、食べたらお腹が出るやの。太ったわけやないやの」

「太ってても良いですけどね。それだけ豊かな生活ができているということになるでしょうし……。お前の場合はサキュバスだから、余計に」

「うーん。でも、あんまり太ると飛ばれへんやの」

「飛べなくなったらなったで私が世話しますし」

 投げ飛ばして弾にするには、重さがあるほうが良い。

 けいは何を思っているのかわからないが「やーん。愛されてるやのー」と言っていた。投げ飛ばされることに愛情を見出したのか? なかなかの特殊性癖だな……。

 ここで私の携帯端末が震える。仕立て屋からメッセージだ。

「ドレス似合ってるって来てますよ」

「えへへ。作ってもらえて嬉しいやの」

「しかしながら、いつ着るんですか、あれ」

「それは結婚式の時に着るやの。……そういえば、教会なんやから、結婚式も神父様がなんかしてるやの?」

「頼まれたらやりますが、ここよりも結婚式に向いた聖堂を持つ教会はありますからね。町の人以外はしたことないです」

「この町、おじいちゃんおばあちゃんばかりやない?」

「若者は都会に出てますね。ですが、仕事に疲れたら戻って来ることも多いですし、冒険者が住み着くことも多々あります」

「そうなんや」

「身分証を持っているなら、魔族も受け入れてもらえるような町ですからね。けいだって特に何か言われないでしょう?」

「んー。言われてみればそうやの。サキュバスがいるって騒がれたのも最初だけやったの」

 夏樹の所為でサキュバスについて騒ぐこともあったが、それも一瞬だけだった。けいの従順な性格が功を制したようだ。

 逆に、教会にサキュバスのシスターがいると噂になって冒険者が訪ねてくるほうが迷惑なものでもある。寄付に来る者もいたが……、純粋な心ではない限り、受け取らないことにした。けいに性欲処理させると面倒なことになる。身分証があるので、そういうことをしても一切問題は無いようなものだが……、彼女はシスターとして雇っていることになるので、吸精ドレインには、風俗の営業許可証が別に必要だ。

「ウチ、いっそのこと、ご当地アイドルになれば良さそうやの。そうすれば、教会にたくさん人が来るし、神父様も助かるやの」

「私は別に生活に困っていませんが。あと、ご当地アイドルって何やる気ですか? 全員に魅了チャームをかける気ですか?」

「そしたら、大人気になるやの」

「お前のことを本心から好きでいてくれない集まりにチヤホヤされて嬉しいですか?」

「うっ、なんかそれは嫌やの」

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