第37話

 司祭館に戻り、お好み焼きを軽く再加熱する。ソースと青のりの準備をしておかないとな。マヨネーズと鰹節は見える位置にあるからすぐに出せるはずだ。

「お好み焼きやの」

「そういえば、今回は牛乳を使ってませんね。どうしましょうか。瓶で飲みますか?」

「別に毎食牛乳を出さなくてええの。というか、ウチの契約延長に繋がるからなくてええの!」

「まあ、お前は四半世紀牛乳を飲まなくても労働が決まっていますからね」

「どういう計算されてるんやの!?」

「ここに計算式があるので、確認しておいてください」

 契約書にも書いていたはずだが、この子はきっちり読んでいなかったのだろうか。いや、ここは私が付け足したんだったか……? どっちでもいい。

 焼き上がったお好み焼きを皿に盛り付ける。切り分けはけいにさせてみるか。

「けい。完成したので、切り分けてください」

「神父様ぁ。この計算やとウチ、一本飲む毎に契約が一年延長されてるやの……」

「そうですね。それだけ私はお前と一緒にいられる時間が増えて嬉しいです」

「うーん……、なんか騙されてる気がするやの……」

「騙してないです。それに、お前は私の妻なんですから、契約など関係なく側にいるものでしょう」

 けいはぱぁあっと明るい顔になった。

 私は司祭なので結婚することも家庭を持つこともできないわけだが、けいは何故か私の妻になりたがっていたはずなので、これは呪文と同じ効果を持つ言葉のようだ。

 先ほどから上機嫌なので、よっぽどあのドレスを気に入ったのだろう。仕立て屋に感謝しないといけないな。

「切り分けますやのー!」

「どうぞ」

 ソースを塗ったお好み焼きの上にマヨネーズと青のり、鰹節を乗っけた後、けいはコテを装備した。

 どう切り分けるつもりなのか見ていると、格子状に切っていく。彼女の生まれた場所の切り方だろう。

「魔界ではこういう切り方をするんですね」

「そうやの。こう、縦横に切っていくの。ピザのような切り分け方をしたら怒られるんやの!」

「なるほど」

 彼女の言い分はよくわからないが、食べやすいとは思う。ピザのように三角形だとどうせまた切り分けないといけなくなるが、これだと一口サイズになっている。

 私が食前の祈りをしている間にも、けいは食べ始めている。サキュバスに祈らせる必要も特にないので、注意する気もない。

 孤児院だと子どもが真似てしまうので、したがってもらっているが……、彼女は言わなくとも空気を察せるようで、孤児院だと先に食べることもない。シスターとして従事しているのだから、勝手に食べ始めるのは駄目なことだとわかるのだろう。

「美味しいですか?」

「美味しいやの。絶妙なしっとり感とキャベツのしゃっきり感がナイスやの」

 と頬を押さえつつ彼女は返してくれたので、私も食事を始める。

 甘辛なソースがマヨネーズでまろやかなにおさえられている。生地は表面がカリッと中はふわっと、とろみがある。生焼けではなく、ちょうど良いしっとり感といったところだ。我ながら上手く焼けている。

「ごはんないやの?」

「お好み焼きに飯がいりますか?」

「ごはん食べへんの? お好み焼きはおかずやの」

「炭水化物ですよ?」

「そんな……! 神父様ならごはん食べると思ったのに……!」

 けいがショックを受けているので、仕方なく冷凍のごはんを解凍することにした。ついでに私の分も解凍した。けいと半分にしているので、その分腹持ちが悪い。ごはんで埋めておこう。

「やったやの! ごはんやの! ありがとうございますやの!」

 なんだか嬉しそうだ。

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