第33話

 やっと担当者と話をできたので、改めて仕事の確認をする。

 これからやることは、愛玩用合成獣キメラの散歩だ。数匹担当することになるが、一匹ずつ連れ出してやることになる。散歩の時間は三十分を目安に。

 この散歩の目的は、人と外に慣れさせることらしい。私はともかく、けいは魔族のわけだが……。

「この娘は人間ではありませんが、良いですか?」

「大丈夫です。人型のものに慣れさせるための散歩なので」

 ということなので、大丈夫そうだ。

 白衣の男から鍵束を受け取り、指定されたゲージへ向かう。一室ずつ厳重に飼育されているので、丁寧に扱わなければならないらしい。私は力加減が必要だが、けいなら触れ合うことに慣れているはずなので、大丈夫だろう。

 私達に任されたのは赤いドアのグループなので、全部で四匹か。

「お散歩って聞いたから楽やと思ったんやけど……、なんか大変そうやの」

「仕事に楽なことなんてありませんよ。ほら、一匹目の散歩を始めましょう。

 中にどういう合成獣がいるかの情報を貰っていないのはどうかと思うが、人に慣れない個体は処分される可能性も考えると……、これで良いのかもしれないな。

 ドアを開き、中を確認する。鷲の頭にライオンの体、蛇の尻尾の合成獣がいた。よく見かけるタイプの愛玩合成獣だ。

 室内でハーネスをつけるように言われているので、さっさとつけなければならないが……、けいにつけられるだろうか。

「いけますか?」

「ふふん。ウチに任せといてやの! えい!」

 瞳にハートの形が浮かぶ。なるほど、魅了チャームスキルを使っておとなしくするのか。

 ……それはそれで、けい以外に懐かない等の支障は出ないか心配だな。

「お前の魅了チャームって解けるんですか?」

「しばらくしたら効果が無くなると思うの。ただ、ウチの技に酔いしれてみーんなメロメロのままやの」

「私はメロメロになってませんが」

「うっ、痛いところつかれたやの……」

 ドヤ顔をしていたが急に表情がどよーんと曇った。

 そんなことはさておき、散歩を始める。魅了チャームが効いているようで、合成獣はおとなしく彼女の横を歩いている。工房ラボを出て、外をのんびり歩く。平和だな……。晴れていて、寒すぎず、暑すぎず、ちょうど良い気温だ。散歩には良い天気だ。

「これを後三回もせなあかんの?」

「そういう契約ですからね」

「でも、これやってたら神父様は聖務日課できへんやの」

「何言ってるんですか、私は先に帰りますよ」

「え。ウチは?」

「お前は散歩を終わらせてギルドで報告してから帰ってきてください。いつまでも付き合っているわけにはいきません」

「ウチが逃げ出すとか思わへんの?」

「けいが逃げたら……、寂しいですね」

「やーん! ウチ、神父様の側におるやのー!」

 ぴょんぴょん跳ねて嬉しそうにしているのは何でだ?

 さて、いつまでもけいの仕事に付き合っている必要も無い。私は教会に戻ろう。歩いてきたのだから、歩いて戻らなければならない。夏樹でも呼び出して足として使っても良いが、あいつにはあいつの仕事がある。緊急で悪魔祓いの仕事が入る可能性も考えると、私の足として呼び出すのも可哀想な話だ。

 けいの働きぶりについては後程工房に電話して確認することにして、私は教会へ向かって歩みを進める。道の中央でスライムが落ちていたので拾って端に置いた。これでスリップする車も減るはずだ。

 歩いて教会に戻ってから気付いたが、けいはきっちり帰ることができるだろうか……。魔法でなんとでもなるか。誰かに聞けば教会の場所も教えてもらえるだろうし。

「あり? 神父様、シスターは一緒にいないんですか?」

「あの子は社会勉強中です。何か用ですか?」

「うちの娘が服を作ったから着てもらいたくってね。ここに置いていくね」

 仕立て屋の信徒から服を受け取る。帰ってきたら着せてやるか。

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