第29話
冒険者を担いで森の中を行く。瀕死状態なのでピクリとも動かない。保険に加入していないなら、蘇生に莫大な金額がかかるが……どうなんだか。
普段なら挨拶してくる妖精達も姿を見せない。まあ、血なまぐさいものがいたら近寄りたくないものだ。その気持ちはよくわかる。
「神父様が
「そんなことありませんよ」
「事情を知らない人が見たら、神父様が獲物を担いでるようにしか見えへんやの」
「なるほど……」
そうだとしたら、誰も寄り付かないものだな。けい以外は。
いっそのこと、生首でも教会の前に飾っておけば誰も来なくなるのではないかと思ったが、それをしてしまうと……、教会がダンジョンになってしまう。それだと逆に冒険者が来てしまうので本末転倒だ。
巨大なスライムがぬちぬち動いているが、気にせず横切る。何もしなければ、向こうだって襲ってくることはない。
そういえば、ふゆがサキュバス関係の仕事がうんぬん言っていたような気もするが……、孤児院の後でも向かうか。
「おっ? 今日は歩いて来たのか?」
「車がここにありますしね」
「そういえばそうだったな。ほい、カギ返しとくよ。で、その肩の冒険者は何だ? 狩ってきたのか?」
「は?」
「冗談だ冗談。道で拾ったんだろ? 治療してやっから、下ろしてくれ」
床に冒険者を転がす。
夏樹は蛍光色の魔法薬をぶっかけていた。使い方はそれであっているのか、正直のところ気になる雑さだ。飲むタイプのものと直接かけるタイプのものがあるが、見た目は全て同じなので、夏樹にしかわからない。夏樹曰く「皮膚から吸収するって面では同じ」らしいが……どうなんだか。
さて、夏樹に魔法薬をぶっかけられた冒険者が目を覚ました。
「あ、あ、ありがとうございます神父様!」
「治したのは私ではなく、そっちのエクソシストです。お礼を言うなら、そちらに」
「ありがとうございます!」
「あはは、良いってことよ。で、何に負けたんだ?」
「スライムです。ぼく、冒険者として今日初めて旅立ったばかりで……」
「ほーん。そりゃ大変だったな」
初心者ということにしても、スライムに負けるのはいささかどうかと思う。だが、あの辺りのスライムは強めなので、見誤ったな。
「ねえねえあんた、そのスライムはどんな大きさだったんだい?」
「わっ!? 急に人が現れた!?」
「あんたねぇ、ピクシーのことすら知らないのかい? それでよく冒険者やろうと思ったね」
「おはるさん。あんまりいじめないでやってくれ」
ピクシーのことを知っていたとしても、突然現れたら誰でも驚くと思うが、言う必要は無いか。
こういうことは夏樹に任せておけば解決するだろう。
「けい。行きますよ」
「はいやの」
踵を返して、車へ向かう。
ギルドへ向かえば、いつものようにふゆがカウンターにいた。
「小焼ちゃんいらっしゃーい。小焼ちゃんにぴったりのお仕事あるよ!」
「新規の仕事紹介ではなくて、私に用があったんじゃなかったですか?」
「あー! サキュバス関連のやつね! えっと、あれ? うーん? 他の人がやってくれてるっぽい! ごめんなさい!」
無駄足だったようだ。けいは何をしているかと思えば、カウンターに並んでいる白い液体をじーっと見ていた。淫魔用のドリンクだ。欲しいのだろうか。
「ふゆ。これください」
「はーい。五百円だよ」
五百円を支払って、白い液体が満たされた瓶を受け取り、けいに渡す。
「ウチにくれるやの?」
「私が飲むわけにもいきませんから」
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