第30話

 けいは白い液体をくぴくぴ飲んでいる。喜んでいる様子なので、味も良いのだろう。

 ギルドに置いてあるということは、夏樹が卸しているものなので、間違いは無いはずだ。淫魔用なだけあって、催淫術の効果が増幅するように作られているかもしれないが……、見た目はまったく変わらないな。あくまで魔力の補充と強化だろうか……。

 けいの肌艶は更に良くなっている。効果は抜群ってやつか。

「美味しいんですか?」

「美味しかったやの。元気げんきやの!」

「これから毎食これにしましょうか?」

「それは嫌やの。神父様の作ったごはん食べたいやの」

 腕にぎゅっぎゅっと縋りついてくるので、振りほどいておいた。すぐに調子に乗るから困ったものだ。

「ところで神父様。ウチにここで淫魔用の魔法薬飲ませて良かったん? 周りの人にウチがサキュバスってバレバレやの」

「別にバレて困るようなものではありません。お前には就労許可証も身分証もありますし、私が身元保証人なので、教会でサキュバスを飼っているだけです」

「ウチはペットやないやの」

「そうです。けいはペットではないので、シスターとして働いてください。……せっかくギルドに来たので、何か人助けでもしてみますか?」

 ふゆに目をやる。すぐに書類の束を出してくれた。

「けいちゃんにできる仕事はこれだけあるよ!」

「いっぱいあるやの!」

「この中で、サキュバスに向いているものを除外してください。性的行為は禁止でお願いします」

「はいはい。淫魔向けを省くね。淫魔向けのお仕事のほうが報酬が高いんだけど、教会のシスターさんには駄目だよね」

 ふゆは改めて書類を出してくれた。だいぶ減ったな……。淫魔向けの仕事はそんなにも多いのか。それとも、働き手が少ないかのどちらかだな。

「モンスター退治ばかりになったやの……」

「教会の業務でもあるので、それで良いでしょう。夏樹に頼むような難易度の高さでもないから、ここにあるということですし」

「あのエクソシスト、そんなにすごいんやの?」

「夏樹はけいが思う以上に優秀な男ですよ。ここにある魔法薬もあいつが作っているものです」

「そうだよ! お兄ちゃんはけっこうすごいんだよ!」

「わかったから大声出さんといてやの。耳が痛くなるやの」

「私も耳が痛くなるので、声を張らないでください」

「ごめんごめん。で、どのお仕事にする? お兄ちゃんがやるようなものもあるけど、小焼ちゃん名義じゃないとけいちゃんは受けられないよ」

「簡単なもので良いです。けいは戦闘向きの魔物ではありませんから」

 どちらかというと状態異常のデバフや魔法障壁でのサポート要員のはずだ。

 初心者向けの仕事を受注して、ギルドを出る。けいは仕事内容の記された書類を熟読している。

「スライム退治って書いてるけど、おっきいスライムがおったところとは違うところやの」

「そうですね。別の場所で増殖し過ぎて困っているから駆除してくれということでしょう。スライムは一匹いたら三十匹はいると思わないといけませんから」

「いっぱいおったら大変やの」

「適正な数にまで減らしてやりましょう。スライムの体液は貴重な素材となるので、夏樹に渡せば良いでしょうし」

 孤児院にスライムの職員を雇ったので、体液もすぐ補充できそうだが、持って行ってやれば、魔法薬を大量生産できるはずだ。あいつに必要なのは助手のような気もするが……、おはるがいるから大丈夫か。

 けいと共に指定された村へ移動する。小さめのスライムがそこら中をぬちぬち動いている。これなら孤児院の近くのスライムのほうが強力だな。

「けい。電気系の魔法は?」

「任せてやの。いくやの! えい!」

 けいは両手を前にかざし、電撃を放った。……無詠唱で魔法を使えるのは便利だな。雷の当たったスライムは感電して蒸発した。

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