第28話

 手を繋いだまま歩いているのも妙な話だが、この娘が勝手に何処かに行くのを防げるので良いかもしれない。

 けいは男を見つけてふらふら歩いていくようなことはないが、向こうから寄って来ることがある。だが、私が手を繋いでいることによって、牽制になるのか、遠くから見るだけに留まっている。

 けいの様子はというと、嬉しそうに破顔していた。

「町の人らにウチらの仲を見せつけるなんて、神父様もやるやの」

「そうですね。お前は私の所有物モノだとはっきり周りにわからせるには、こういうのも良いでしょう」

「いやーん! 情熱的なアピールやのー!」

 なんだか一人で盛り上がってるな……。

 シスターがデレデレしたままなのも妙だが、町人は事情をわかっているので、なにも思わないはずだ。冒険者がどう思うかも私にはどうでもいい。

「それで、今から何処に行くんやの?」

「孤児院に行きますよ」

「孤児院に行くなら、バイクやないの?」

「たまには歩いて行きます。そのほうが、けいと長く話せますからね」

「もー。そんなにウチと話したいんやのー? 仕方ない神父様やのー」

 けいは何故か嬉しそうだ。

 夏樹に異種族のことをよく知るには対話が必要だと言われた。

 サキュバス自体は繁華街に行けば交流できるものだが、身近にずっと置いておくとなると、きちんと彼女について知る必要がある。

「ところで、けいは、何が好きですか?」

「ウチは、小焼様のことが好きやの」

「何ですか? 私も好きですよ、と言って欲しかったんですか? ご期待に沿えず申し訳ございません」

「う、すぐフラれたやの……」

「一応言っておきますが、嫌いではありませんよ。ふとももがとても好みなので」

「ふとももだけやの? ウチのふとももが目当てやの? 触る?」

「神聖なふとももを触るわけにはいきません」

 もちもちしていてふにふにしているのは見るだけでわかる。きっと触るとしばらくヤミツキになるだろう。いっそのこと、ふとももを切断することも考えたが、それをすると手伝いをしてもらうのに支障が出る。彼女の利用価値は高い。

「小焼様は、ウチのふともも以外好きやないの?」

「急に面倒臭い女にならないでください」

「サキュバスは面倒臭いものやの」

「……エクソシストに退治してもらうか」

「やめてやのー! ウチ、良い子にしてるから、愛でてやの」

 これでもけっこう愛でているんだが……伝わっていないのだろうか。

 けいの身分証を発行する際に、役所でシスターとして登録してきたが……、愛玩用ペットでも良かったかもしれないな。隣でぴょこぴょこ跳ねながら歩いているのを見ると、笛のついた靴を履かせてみたくなる。

 孤児院への道のりは歩くと長い。だが、それだけ人々と交流もできる。

 冒険者が倒れていたら回復させてやるのが教会の勤めでもあるが……。

「神父様。人が倒れてるやの」

「治癒魔法できますか?」

「ちょっとだけ……。でも、こういうのって神父様が治癒魔法かけるものやないの?」

「私がかけられると思うんですか?」

「ウチにしてくれへんかったっけ?」

「あれはたまたま成功しましたが、失敗すると、傷口が爆破されます」

「どうしたらそうなるやの」

「孤児院に運びましょうか。夏樹に治療してもらったほうが確実です。それにしても、この人は何に負けたんでしょうか」

「あそこにおっきめのスライムがおるやの」

 草むらを大きめのスライムが移動しているのが見えた。

 最近この辺りに多く生息している強めの個体だ。急激に増えたので、誰かが強化魔法でもかけたんじゃないかと思っているが……、犯人を見つけるのは難しいところだな。

 とりあえず、冒険者を担ごう。

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