第27話

「そんなこと言われても、困るやの」

「困らないでください」

 けいが困っても私にはどうでも良いので、気にせずに聖務しておこう。

 そうしている間に信徒が訪ねてくるので、相手をする。けいの相手よりもこちらのほうが何かと体力を使う気がする。あくまで気がするだけなので、精神的な何かを使っているのだろう。

「神父様。また他所から来た人が教会にサキュバスがいるのかって尋ねてきたよ」

「余計な仕事を増やして申し訳ありません」

「いやいや、謝らなくて良いさ。けいちゃんはとっても良い娘さんだって町のもんはみんなわかってる。あの娘が来てから、神父様だって笑うことも多いじゃないか」

「笑う?」

「ああいや、今のは聞き流してもらって。そのうち教会に男が来ると思うから」

「わかりました」

 いい加減に何か対策を考えたほうが良いだろうか……。教会の門にサキュバス飼育中とでも貼ることも考えたが、夏樹に「露骨過ぎるからやめとけ」と言われてしまった。

 けいは信徒の老女と会話している。あの老女は昔繁華街でブイブイ言わせていたインプのはずだから、なにか通じるものがあったのかもしれない。魔族が教会に通っているくらいだから、サキュバスがいてもおかしくないはずなのだが……。

「神父様ー。見て見てー。インプのおばあさんにこれ貰ったやの」

呪物フェティッシュですね。お前が貰っても使えるんですか?」

「夏樹様にあげたら良いと思うの」

「貰ったものをすぐに他人に渡す気か」

「だ、だって、ウチ、これの使い方わからへんもん」

 けいが貰ったものは、催淫効果のある呪物だ。使い方によっては、サキュバスとしての能力を存分に発揮できるものだが……、どうも彼女にはそういう学が無いらしい。まあ、催淫効果のある呪物なぞ使わずとも、種族的なスキルでどうにでもできるはずだしな……。私には一切効果が無いわけだが。

「けい。これからここに男が来るらしいので、試しに魅了チャームをかけて吸精ドレインしてください」

「してもええの?」

「本番行為は一切無しで、精液で聖堂を穢すのも許しません。お前はただ精力を抜くだけです」

「わかりましたやの」

 と、けいが答えたと同時に、見慣れない服装の男が聖堂に入ってきた。……冒険者だな。装備しているものでわかる。

「ここにサキュバスのシスターがいると聞いて――」

「それなら、この娘です。けい、挨拶しなさい」

「はい。ウチ、サキュバスのけいって言うの。よろしくやの」

 けいは手を差しだす。男が手を握る。けいの瞳にハートの形の印が浮かぶ。これが魅了チャームを発動している状態だとすれば、私はしょっちゅうかけられていることになるな……。

 男に目をやる。デレデレと顔を赤らめて、力を失って、へなへな……、座りこんでしまった。吸精ドレインできたようだ。ほんの少し彼女の肌艶が良くなったような気がする。

 私は男を摘まみ上げて、教会から放り出しておいた。後のことは町人に任せておこう。宿屋に運ばれていくはずだ。

「あっさり抜けましたね」

「ウチにかかれば、こんなもんやの!」

「手を握るだけで吸精ドレインできるのに、どうして私の手は握らないんですか?」

「ウチ、握るなら、神父様の猛々しい逸物が良いやの」

「……そんなに私と手を繋ぎたくないんですか。わかりました」

「え、え、え、ち、ちがうやの! そうやないやのー!」

 けいを置いて聖堂を出る。慌てた様子でけいは走ってきた。そして、左手を繋ごうとしたので、振りほどいておいた。

「どうして繋ごうとしたら振りほどくやの⁉」

「私は左利きなので。繋ぐなら右手にしてください」

 右手を差し出したら、すぐに掴まれた。あったかい。

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