第26話
けいが言うようにぎゅっと抱き締めてやった。ふにふにしていて、やわらかい。甘い匂いもしてくる。嗅いでいると安心感がある。
「で、この後は?」
「こ、こ、このあと、あとは」
「何すれば良いんですか?」
「ね、寝てやのー!」
「わかりました。おやすみなさい」
「おやすみなさいやの……」
けいをぎゅっと抱いたまま布団に埋まり、瞼を閉じる。これだと普段と何ら変わりない夜になるわけだが……、本人がこうして欲しいと言ったのだから、これで良いはずだ。
髪に鼻を寄せる。同じシャンプーを使っているのに、けいからは甘くてフローラルな香りがする。これがサキュバス特有の香りなのか、女性の香りなのか、けいだけの香りなのかはわからないが、とても落ち着く。
急激な睡魔に身を委ね、そのまま夢と戯れた。
翌朝。けいは変わらずに私の腕の中で眠っていた。……けいが本当にしたいことは、これで良かったのだろうか。だが、本人がこうして欲しいと言ったのだから、疑うのもおかしい話だろう。
部屋を出て、身支度を整える。整え終わった頃に、目覚ましのアラームが大音量で鳴り響いていた。けいが止めるので問題無い。
「おはようございます」
「はぅう……。神父様、目覚ましを止めてから身支度してやの。いつも爆音で心臓に悪いやの」
「お前が目覚ましより早く起きれば良いだけですよ」
「それやと目覚ましの意味がなくなってしまうやの。せめてアラームの意味があるようにしてあげてやの」
「けいが起きるから意味はありますよ」
「そういうこと言ってるんやないやの」
けいは頬をぷくーっと膨らませて不満を訴えているが、目覚ましのアラームは、けいが目を覚ますために使われているので、問題無いはずだ。彼女は何を言っているんだか。
さて、そんなことは置いといて朝の祈りを始めよう。
聖堂に降り、いつものように聖務をこなす。けいは神に祈る必要もないため、着替えてはいるが、自由に聖堂の中をうろついていた。天井近くまで飛んでいる。
「けい。その辺りにテニスボールはありませんか?」
「テニスボール? 見当たらへんけど……」
「そうですか。それなら良いです」
「テニスボールがどうかしたやの?」
「近所の子どもが下級吸血鬼に追われてきたので、テニスボールで撃退したのですが、ボールが何処かに消えてしまったので……、シャンデリアに挟まっていないか見てもらえたら嬉しいです」
「いつの間にそんなことがあったやの」
「お前が庭で水やりをしている間にですよ」
一瞬で解決してしまったので、騒ぐこともなかった。
私の魔力を乗せたテニスボールだと吸血鬼も一瞬で退治できるようだ。物体に魔力を乗っけて威力を引き出す行為自体は難しくない。拳に集中すれば壁も壊せる。だが、そう頻発するようなものでもない。
「あ、あったやの」
「よくできました」
「……それにしても、ボールで退治できるものやの?」
「魔力を乗せればできますよ」
「うーん。それは、神父様の魔力が強大やからできるだけで、通常の人はできへんやの。魔術師だって難しい技術やと思うの」
「それなら、私がすごいということで解決ですね」
「そうやの。神父様すごいやの」
「……だからって、何もありませんよ」
調子に乗ってきたので、突き放しておく。けいは調子に乗るとよいしょしてくるし、甘え方が露骨になるのでわかりやすい。腕に擦りついてきて上目遣いで見てくる。ワンパターンだってのに、そろそろ改善しないだろうか。
「もう少し誘惑の方法増やしてくださいよ」
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