第25話

 一応これでも愛でているつもりだ。本来なら淫魔を教会に置いておくのもどうかと思うが、上のほうに報告はしているので、問題無い。彼女に信仰心は無いので、雑用係として雇っていることになるが。

 いっそのこと畑の肥料にしたほうが多くの人々に救済を与えられるかもしれないが……、彼女を肥料にするには惜しい。

「それなら、投げ飛ばんといて」

「前向きに善処します」

「断ってるやの……」

「そう言いましてもね、お前はサキュバス。私は司祭です。私はお前だけを愛するわけにはいきません」

 そもそも、愛とか恋とかどうでもいいわけなんだが……。

 色恋沙汰は面倒なことになりやすい。痴話喧嘩が拗れて教会に逃げ込んできた者もいたが、喧嘩両成敗で、どちらにも説教しておいた。夏樹が。

 けいは相変わらずくっついてくる。乳白色のきめの細かい肌が羽二重餅のようだ。食べると甘いのかもしれない。

「やはりエクソシストを呼ぶか」

「退治しやんといて!」

「冗談です。そもそも、エクソシストを呼ばずとも、私ならお前を退治できます」

 彼女は私にしがみついたままぶるぶる震えている。潤んだ瞳が水饅頭のようだ。また腹が減ってきたな……。この娘といるとどうも腹が減る。精気を吸っているとしても、腹が減ることもあるのだろうか。夏樹にサキュバスについての資料を見せてもらっても良いかもしれない。

「もう寝ますよ」

「はーい」

 素直に返事するのもどうなんだか。

 くっついているので歩きづらいったらありゃしないのだが、けいは変わらずにぎゅっぎゅと胸を腕にくっつけてくる。くっつけてきたところで、何にも思わない。大福のようなやわらかさだとは思うが。

 寝室に着く。けいは先にベッドに飛び込んで尻を振っている。誘惑してるつもりなのかもしれないが……滑稽に見える。

「ほら、真ん中に寝ないでください。私も寝るんですから」

「つれへんやの」

「はぁ……。いちいち相手していられないんですよ。五時間後には朝の聖務があるんですから」

「たまにはサボってしまえばええの。夏樹様だってサボってるやの」

「あいつの場合はサボッているとは別の次元ですが」

 そもそも、聖務をやる気がないというか、聖務まで手が回っていないというか……。

 夏樹はエクソシストだが、魔法薬師としての仕事もある。そのうえ、医者としても従事できるので、近くで急病人が出た場合は、そちらの対応にあたることが多い。そのため、聖務日課をしていない。昼の祈りぐらいはしてほしいものだが、あっちはあっちでやることが多いので、とやかく言わないでおこう。朝は寝坊しているくらいだ。深夜まで対応することが多いのだろう。

「だから、小焼様はウチと朝まで激しい夜を過ごしたらええの」

「激しい夜を具体的に教えてください」

 何を言いたいのかなんとなく理解できる。サキュバスなのだから、性行為のことを言っているはずだ。

 だが、私が具体的に説明を頼むと、けいの頬は朱鷺とき色に染まっていく。元から赤みのあるりんごのようなつやつやとした頬なのに、更に赤くなっていく。

「教えてくれないんですか? 激しい夜とは具体的にどのようなことを言うんですか? 説明してください。説明してもらわないとわからないです」

「小焼様はいじわるやの」

「いじわるではありません。教えてください。お前が説明したとおりのことをしてやりますから」

「ほんと?」

「はい」

「そ、それじゃあ、まず、ウチをぎゅっと抱き締めてやの」

「わかりました」

 どういう説明をするのか興味があった。けいの説明にのってやろう。

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