第24話

 本来なら唇を重ねてやるところなのだろう。テレビではちょうどそういうシーンが流れている。だが、ここでキスすると、たいそう面倒なことになりそうだ。

 一応、彼女は私と契約しているので、魔力供給と言えば済む話ではあるが……、契約内容はそういうものではない。労働契約だ。飲んだ牛乳の分だけここで奉仕活動を続けるといった内容の。

 ぷるんっとした唇は健康的につやつやしている。美味そうに見える。だからって、食いつくわけにもいかない。

 親指で唇を押し、そのまま口の中に突っ込んでみる。ハッと目を開いた彼女は指をむ。ちゅうっと吸ってきたので、引き抜いた。

「人の指を吸わないでください」

「そうしたほうが良いんかと思って……。でも、ウチは、小焼様の猛々しい逸物を突っ込んでほしいなの」

「はぁ?」

「小焼様のちょうだいやの」

 名前を呼んで上目遣いで擦りついてくる。

 相変わらずの、ワンパターンだ。そろそろ別の誘い方をしてほしい。私が誘いに乗ることはないが。

 擦りついてくるなら、ついでに性器でも弄れば効果的だろうに……、私がアドバイスするのもおかしい話なので言わないが。

「小焼様ぁ」

「調子に乗るな」

「ぴぎゃっ!」

 ツノを掴んで投げ飛ばす。

 どう投げても彼女は上手く受け身をとるので、なにも心配しなくて良い。

 けいは餅のようにぷくーっと頬を膨らませている。

「ウチのこと好きなら、投げ飛ばんといてやの」

「私の愛情表現です」

「ウチよりも悪魔やの」

 彼女が跳ねる度に、胸がぽよんぽよん揺れている。ブラジャーを着けているはずだが、揺れるものは揺れるのだろうか。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。けいに今日のご褒美を与えないとな。

 なにか言い続けている彼女を放置してキッチンへ向かう。成分未調整の特濃牛乳をミルクパンへ注いだ。

 弱火で牛乳を温めつつ、蜂蜜と塩を混ぜ合わせ、牛乳に溶かす。ちょうど良い温度になったところで火を止め、バニラエッセンスを加え、コーヒーカップに注ぎ、ホイップクリームを乗せた。

「良い匂いがするやの」

「どうぞ」

 けいがひょっこり顔を出したので、カップを渡す。

 すぐに彼女は口をつけていた。

「今日のご褒美です」

「これがご褒美やの? ウチ、もっとちょうだいやの」

「仕方ないですね。味噌煮込みうどんで良いですか?」

「うどんやなくて、小焼様が欲しいやの」

 答えもワンパターンのような気がしてきた。

 この機会に聞いてみるか。どうせ今日はもう寝るだけだ。急を要する案件も無い。あったとしても、エクソシストである夏樹が対応するはずだ。

「具体的に話してください。私が欲しいとはどういう意味で言ってますか?」

「え、それは……そのままの意味やの」

「そのままの意味だとわからないから尋ねています。私にわかるように説明してください。私を欲しいというのは、どういった意味ですか? お前が求めているものは何ですか?」

「ウチは……小焼様が…………」

「お前が、私を欲しいのはもうわかっています。私に何を求めているんですか?」

 問い詰めると、けいは顔を真っ赤にしていた。まるで茹蛸のような色になっている。

 腹の虫が鳴いた。この娘の相手をしていると腹がよく減る。これから何か食べるには、胃を休める必要がある。ホットミルクを飲んで空腹を誤魔化しておく。

「もっと、ウチを愛してやの」

「これでも愛してますが」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る