第23話

 けいは私の腹をぺちぺちしている。これで彼女に精力を分け与えられているならば、楽なものだが……、さすがにそうはいかないか。

「神父様の腹筋すごいやの」

「あまり叩かないでくれますか? 私も叩いて良いなら、許しますが」

「ウチのお腹を叩く気やの?」

「お前が叩いてるから、私が叩いても問題無いでしょう。できれば拳をめり込ませて嘔吐させたいくらいですよ」

「駄目やの! それは駄目やの!」

 けいは手を離してぶるぶる震えている。

 白い柔肌に拳をめり込ませるのは快感だろうが、彼女は特に悪さをしていないので、やめておこう。

 さて、風呂に入るか。先に風呂に入った彼女が侵入してくることもなさそうだ。本来なら、共に入って体に触れてやったほうが、サキュバスの健康には良いかもしれないが、そこまで世話してやるとつけあがってきそうなので、やめておこう。

 サキュバスにエサを与えることは司祭としてどうかと思う。

 風呂から上がり、リビングに戻る。けいはおとなしくテレビを見ていた。恋愛ドラマだろうか。

「面白いんですか?」

「せっかくサキュバスの女優を使ってるのに、ベッドシーンが少なくてつまらないやの」

「サキュバスにベッドシーンをやらせると捕食シーンになるからでは?」

「そんなことないやの。サキュバスは見せ方も上手やの!」

「どっちでもいいですが、もう少し寄ってください。私も座りますから」

 冷蔵庫から牛乳を取り出し、けいの横に座る。

 テレビではベッドシーンが流れていた。さっきベッドシーンがあったと言ってなかったか? 一放送に何回もベッドシーンがあるのか?

 まず、どういった内容のドラマかさえわからない。サキュバスの女優がいると言っていたから……今映っている女がそうか?

「あれがサキュバスですか?」

「そうやの。幻術でああいう外見になってるやの」

「……けいのほうが可愛いですね」

「はうっ⁉ 神父様、急にウチを口説かんといてやの」

 けいは隣で頬を赤らめてデレデレしている。両手で頬を包んでもじもじしている姿も見慣れてきたな……。

「事実を言ったまでですが?」

「えへへ。嬉しいやの。神父様好きやの」

「気持ちだけ貰っておきますね。ご期待に沿えず申し訳ございません」

「むぅ……」

 腕に擦りついて胸を押し付けてくるので、ワンパターンというか、なんというか……。この子のやり方はだいたい把握したような気がする。

 どうせなら、ドラマのサキュバスのような誘惑の仕方を覚えれば良いと思うが……、私は彼女に何の期待をしているのだろうか。

 別に、けいのことは嫌いではない。見た目は完璧に私の好みをしているし、香りも心地良いので、側に置いて癒される。好みの見た目を女を近くに置くことは、心の健康にとても良いということが証明されるくらいだ。

 この娘は何を求めているのだろうか? 私の精液が欲しいならば、寝ている間に夢に入り込んでしまえば良いはずだ。逆さ吊りにするって言ったから触らないのか?

 言いつけを守ってイイコではあるが、それだとサキュバスとしては……どうなんだ?

「けい」

「はいやの」

「好きです」

「え?」

「好きです」

「う、ウチ、ウチのこと?」

「はい。好きです」

「だだだだだ駄目やの! そそそそそれは駄目やの!」

 試しに「好きです」と言ってみたところ、明らかに動揺している。

 顎に手を添えて、仰のけさせる。顔を近づけるとぎゅっ、と目をつぶった。

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