第22話

 サキュバスの標準服はエナメル質で光沢感が強い。洗濯ネットに入れて洗っているが、こういうのは手洗いのほうが良かったかもしれない。

 けいは特に何も言っていないので、洗濯方法についてこだわりはないのかもしれない。

「あんまり見られたら照れるやの」

「見られてなんぼの種族でしょうが」

「それはキメツケやの。神父様はキメツケが多いやの」

「そう言われましても、私はサキュバスのことはよく知りませんからね。お前が教えてくれませんか?」

 目を真っ直ぐに見ながら言うと、けいは視線を泳がせた。人と話している途中に視線が彷徨うことはよくあるが、この娘の場合はしょっちゅうだ。俯いて手遊びをするので、声がよく聞こえない。ただでさえ身長が低いのに、下を向かれると、私の耳に全く声が聞こえなくなってしまう。

 夏樹は無駄にハキハキ喋るし、声がよく通るので、あいつの場合は少し抑えてほしいくらいだ。二人の中間ぐらいの雰囲気で話してほしい。

 それはさておき、私も風呂に入ろう。けいに服を返して、浴室へ向かう。

 脱衣所のカゴには、けいの脱いだ下着が入っていた。尻の位置にクマがプリントされたパンツだ。……これは小学生ぐらいがはくようなものだったかもしれないな。やはり、孤児院に寄付されているものよりも、きちんと買ってやるか。だが、ノーブラノーパンが通常のような雰囲気もあったことだし……。

 サキュバスの標準服は、あれ自体がブラジャーとパンツの役割を果たしているはずだ。修道女服の下に身に着けていることも多い。……だが、ここに洗い物として下着類があるならば、あの娘はここの下着を身に着けてからサキュバスの標準服を着ていたということになる。

「尻尾を通す穴が開いているな……」

 そういえば開いていなかったな。

 自分でハサミで切って作ったのだろうか。想像してみると、なかなか面白いことになる。

「神父様がウチのパンツをずっと見てるやの! えっちやの! 言いつけてやるやの!」

「脱衣所に入ってきてるお前もなかなかですけどね」

「ウチはサキュバスやからええの。神父様の隙を窺ってるんやの」

「隙を窺うなら、姿を見せてはまずいのでは?」

 まあ、見られても特に何も感じないんだが。

 けいを無視して服を脱ぐ。彼女は「ウチがおるのに脱ぐの?」とか言っていたが、無視する。いようがいまいが、気にしない。体を見られてまずいことは何も無い。

 けいは何故だか顔を前に手を広げているが、完全に指の隙間からこちらを見ている。

「見たいなら普通に見ればどうですか? 男の体なんて見慣れているでしょうけど」

「そ、そうやの! 男の体なんて見慣れたものやの。…………神父って肉体労働やっけ?」

「どうでしょうね。事務作業のほうが多い気はしますが」

「うーん……。他の教会の神父なら、もっとなよなよしてそう……」

 けいはこちらにぽてぽて歩いて近付いてくる。

 そういえば、彼女は触れるだけで吸精ドレインできるはずだ。魔力供給をしたほうが良いだとかなんとか夏樹も言っていたような気がする。精液を与えるのが一番良いようだが、そういう気分でもない。催淫薬に使われるあの果実もけっきょくのところ、そんなに効果が無かったな……。更に腹が減ったようなものだ。

「触りますか?」

「え、さ、触ってええの?」

「性器以外なら」

「それなら、触りますやの! えい!」

「その気合の入り方は何ですか……」

 けいは私の腹をぺちぺちしている。どうして叩いてるのかいまいちわからないが、ダメージは一切入らない。そういえば孤児院でも子どもに「腹筋すごーい」と言われながら殴られたことがあったな。さすがに殴る行為は躾がなっていないので、夏樹の腹に拳をめり込ませておいたが……。

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