第17話

「なんとなくですけど」

「なんとなくで投げんといてやの!」

 けいは頬を膨らませてぷんすこぷんすこ言っている。怒っていることがよくわかる娘だ。一応よく働いたので労ってやるか。

「けい。大儀でしたね」

「うーん。褒められてるのか褒められてへんのかわからへんやの……」

「まあまあ、オークは生け捕りにできたから良かったじゃないか。あたいはもっと激しいバトルを見たかったけどね」

 おはるはけいの周りを飛びながら口に手をあててイタズラっぽい笑みを浮かべている。

 夏樹はオークの治療中だ。彼の大きなどんぐりまなこに太陽光が射しこんで、緑色に輝いて見える。魔法を使っている間は目の色が魔力で変わるのかもしれないな……。

「おはるさんは好戦的過ぎるやの」

「そうでもないさね。あたいだって、避けるべき戦は避けるさね。ただ、もーっと、激しいバトルが見たいもんさ」

「夏樹様はエクソシストやから、けっこう戦ってそうやの」

「あたいは血沸き肉躍るバトルを見るのが好きなのさ。うちの人は、ああ見えて腕は確かだからすぐに退治しちまうのさ。苦戦することなんて見たことないさね」

「夏樹が苦戦するのはピクシーの世話でしょうね」

 私の一言でおはるは口を閉じた。

 ……何で黙ったんだ? けいが私と隣でこそっと「神父様。よく言ってくれたやの」と言っている。何か言ったか? 事実しか言っていないが。

「よーし、治療できたぞ。ん? おまえら、黙ってどうした?」

「みんなで夏樹の悪口言ってました」

「何だそりゃ! ひどいな!」

「夏樹はどんなやつが相手でもすぐに退治できるって話ですよ」

「それは、悪口ってか、褒められてんな? よくわかんねぇけど、ありがとな」

 顔をへにゃっとさせて笑うので、犬っぽい。こういう犬が散歩していたのを見たことがある。こう、尻尾をくるんと巻いている小さな犬だ。つまり、夏樹は犬っぽいということだろうか……。

 さて、治療も終わったので、オークを引き渡しにギルドへ向かう。

 夏樹がオークを担げるはずがないので、私が背負うことになった。ここからギルドへはそれほど遠くもない。どちらかというと孤児院に戻るほうが時間がかかりそうだ。

 そろそろ陽も落ちて来るが、ギルドは賑わっている様子だった。酒場よりも人が多いかもしれない。それほどまでに仕事を探す人がいるのは、悪くはないだろう。助けを求める人々が救われるならば、問題無い。

「ふゆ。婦女暴行容疑者のオーク捕まえて来たぞ」

「わー! さっすが凄腕エクソシストと神父様だね! 報酬は報告が終わったら支払うから、数日待っててね」

「それでは、これ、引き取ってください」

「はーい!」

 ギルド職員のオークが婦女暴行容疑者のオークを担いでいった。容疑者というか、こいつが犯人で間違いないはずだ。現に、けいは襲われそうになっていた。

「ついでに言いますが、うちのシスターが襲われそうになっていたので現行犯逮捕です」

「オッケー。現行犯逮捕なら言い逃れできないね! 処理しておくね!」

 後はふゆに任せておけば良いので、そろそろ教会に戻ろう。……孤児院に置いたままの車は、今度夏樹に乗って来てもらうことにする。

 教会に戻れば、夕べの祈りの時間だ。

「神父様。夕べの祈りの時間やの!」

「言われなくてもわかっています。が、よく覚えてましたね?」

「ふふんっ! 神父様のことわかってきたやの! ウチ、すごいやの!」

「そうですね。すごいすごい」

 ここで胸を張ってドヤ顔をしている訳がわからないが、けいは自信満々な様子なので、頭を軽くぽんぽん叩いておく。

 すると、元から朱鷺色ときいろをしている頬が更に赤く染まっていく。瞳も潤んできているので、力加減を誤っただろうか? それほど強く叩いていないはずだが……。

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