第16話
「へえ、あのサキュバス、きちんと
「あれだと逆に狙ってるやつが来ないさね」
「そうですね。おはるが姿を消してあの娘を誘導してやってください。人通りが少なくて襲われやすそうな場所まで。ついでに危なくなったら助けてください」
「さすがにオークにゃあたいも敵わないさ。善処はするけどね」
と言って、おはるは頭の四つ葉を外し、飛んでいく。けいの近くに行って、誘導を開始しているようだ。姿は見えないが声は聞こえるはずなので、きちんと移動をしている。
さて、私もここで様子見を続けるわけにもいかないな。こっちのほうが不審者になりそうだ。
「夏樹。移動しますよ」
「ん。そうだな」
聖職者が二人揃っていると襲いづらいかもしれないので、もう少し離れておこうか。
けいは修道女服なので、見た目は完全にシスターのはずだが、下手したらビッチ聖職者だと勘違いされる可能性もある。目標のオーク以外に襲われると厄介だ。
道からそこそこ遠くのコーヒーショップで私はカフェモカを頼んで、ビスケットを頬張る。サクサクッと軽い歯応えのビスケットは口の中でほろほろと溶けて消えていく。やわらかな甘みがカフェモカによく合っている。
「修道女が森の中に一人でいるのも罠のように見えますね」
「一応おはるさんがついてっから二人なんだけど、こっからじゃ一人で植物の世話してるように見えるなぁ。ちらちら見ていく男共もいるし、けっこう危ない橋渡ってんじゃねぇか? ほら、声かけられてんぞ」
「大丈夫ですよ。あの娘はサキュバスとしてブイブイ言わせてきたそうなので。縄張り争いに負けてますが」
「それ、大丈夫か……?」
けいのサキュバスとしての実力がどの程度なのかは未だによくわかっていないが……、言い寄ってきた男は一瞬にして「ほうっ」として去って行く。その度にけいの肌艶が良くなっているような気もする。精力を抜いているようだ。……なんだか癪だな。
「次から次に男が来るから、精力も抜き放題だな」
「それはそれで困りますね」
「おっ、ヤキモチか?」
「醤油をつけて食べたいですね」
「そのヤキモチじゃねぇよ。……と、言ってる間にオークが来たぞ。画像を見た感じ、あいつだな」
生け捕りにすべき対象のオークが現れた。すぐにでも捕獲することはできなくもないが、万が一人違いだった時のことを考えると面倒なことになる。
まずは、けいが襲われるかどうか見ておこう。と思ったが、既に襲われそうになっていたようで、夏樹が先に魔法薬を投げつけていたし、おはるが急所に鋭い一撃を放ったのだろう。オークは無様に地面を転がっていた。
「いったい何なんだべおまいらー!?」
「おれらはギルドからの依頼で、あんたを捕まえるように言われたんだ」
「おとなしく捕まるんだね!」
夏樹が縄で拘束しようとしたが、オークは逃げ出してこちらに走ってくる。
ああ、面倒なことになった。どうしてこっちに走って来るんだ。けいが怯えた表情をしているのが見えた。
「うちのシスターを傷つけて逃げられると思わないことですね」
「ひぇえええ!」
拳銃で足を数発撃つとオークは転んだ。この程度なら夏樹が治療すればすぐに治るはずだ。粉砕しなければ治せるのだから、最初からこの手段で良かったかもしれないな。生きているのだから、生け捕りになる。
「おっ、おー……、けっこう撃ったな」
「逃げられたら困りますからね。ほら、さっさと縛り上げてください」
「そうするよ。おはるさん、手伝ってくれ」
「あいよ! 任せな!」
「神父様ー。ウチ、怖かったやのー。頑張ったやのー。褒めてやのー」
けいが涙目で駆け寄ってきたので、そのまま持ち上げて投げ飛ばしておいた。
「何で投げるんやのー!?」
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