第15話

 生け捕りにするよりも神の御名において退治したほうが早いと思うのだが……、言わないでおこう。夏樹が何か言い返してくることがわかる。

「で、どうやってこのオークをおびき出すやの? 何処におるかわかるんやの?」

「知りません。夏樹ならわかるんじゃないですか?」

「いいや。おれもわかんねぇよ。でも、捜そうと思えば捜せるぞ。被害に遭ったエルフから聞き出した情報や各地での被害報告を合わせればな」

「それができているなら、もうとっくの昔に捕まっていると思うんですが」

「神父様の言うとおりやのー!」

「おれに言われても困るんだけど、そのとおりだな! で、おまえら、今から捕まえに行ってくれるのか?」

「捕まえられるなら」

 夏樹がここまで言うとなると、何か作があるということでもある。

 けいはやる気満々になっているので、彼女の働きにも期待したいところだ。ご褒美について考えておく必要もあるが、いつものホットミルクの牛乳を特濃に変えてやるか。

「おはるさーん! 来てくれー!」

「あいよ!」

 夏樹はおはるを呼び寄せる。すぐに飛んでくるので、飛行能力もなかなか高いのだろう。戦闘力も高くて機動性が高いということは、優秀な傭兵にもなる。悪魔祓いや討伐依頼を受けるには良いパートナーだ。

「おはるさん。ヒト捜しのおまじないをしてくれ。このオークを捜したいんだ」

「あたいに任せな!」

 夏樹は腰のベルトから蛍光色の魔法薬瓶を一本抜きとり、おはるに飲ませていた。どれがどういう効果のある魔法薬かわからないが、今回のは、魔力補充になるものだろう。

 ついでにけいにも飲ませておいて良いか。先程貰ったばかりの栄養剤の効果も気になるところだ。

「けい。これ飲んでください」

「これ何やの?」

「お前のために準備しました」

 と私が言えば、けいは喜んで口に含む。これだと毒だったとしても口に含みそうで恐ろしいな。調教を誤っただろうか。

 夏樹の作った栄養剤の効果は抜群のようで、途端にどっ……と魔力の渦が周囲にできた。先程まではミリも感じられなかった魔力を感じる。サキュバスなだけあって、魔力が高まればそれだけ強力な技を使えるということになる。強力な魅了チャームなんて使われたら、人が集まって来るかもしれないが、まあ、なんとかなるか。

「オークの場所わかるよ。ついてきな!」

「よーし、行くぞー!」

「夏樹が行くならそのまま対処すれば良いじゃないですか。あのピクシーがいれば生け捕りも可能でしょうし」

「できるっちゃできるけど、できれば誰も血を流さずに済ませたいだろ。依頼主のエルフはオークをボッコボコにしてやりてぇみたいだし、先に半殺しにするのは悪いって言うかさぁ」

「夏樹様もけっこう怖いこと言うてるやの」

「まあ、夏樹の場合は優しさが上回っての発言ですけどね……」

 相手の欲しい言葉をすぐに察して言葉を返すのが夏樹だ。依頼主の気持ちも瞬時に察しての言葉だろう。ギルドから情報を回されているのなら、妹から詳細を聞いているだろうし。

 ここはなるべく血を流さないように配慮したい。蒸発でもさせれば良いかとも思ったが、生け捕りならそれもできないな。

 おはるの後を追い、森に移動した。そこそこ人が歩いているが、脇道に逸れると誰もいないはずだ。これなら襲いやすいだろう。

「この辺にいるはずさね」

「では、けい。出番ですよ」

「ウチに任せてやの!」

 三人で物陰に隠れて様子を窺う。

 けいはやる気満々で道に出て行くが、こちらからだと彼女の見た目は変わっていない。だが、魅了チャームの効果はあるようで、道行く誰もが彼女をうっとりとした顔で見つめていた。能力は本当だったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る