第14話

 おやつも終わり、ここでの事務作業もひと段落ついた。けいはサキュバスのわりに働き者なので、指示すればきっちり働いてくれる。それもご褒美を欲しがってやっているだけだと考えると、犬と変わらない気がしてきた。芸事をさせれば褒美を与えられるペットと同じ感覚だ。

 まあ、けいは愛玩用サキュバスなので、間違いでもないんだが。

「小焼。頼まれてた栄養剤できたぞ」

「早いですね」

「既に基礎は完成してたからな、応用すりゃ終わるもんだ。あと、赤い果実を大量に見つけられたからさ。あれ、市場で探すと高いわりに質が悪いもんが多いから、助かったよ」

「そうですか」

「サキュバスってのは鼻がきくもんなんだな」

「あの娘の場合は鼻がきくと言うよりも……」

 食べられるものを探してきた、という感じだったな。

 夏樹は小さく伸びをしながら遠くに視線をやった。向こうのほうでおはるが子ども達とボール遊びをしている。オーク族とピクシー種だと体格差がありすぎるとは思うが、けっこう良い戦いになっているようだ。

「夏樹のピクシー、戦闘力が高すぎませんか? オークと互角にやりあってますよ」

「あはは。おはるさんは魔力さえ十分に供給したらドラゴン相手でも良い戦いすると思うぞ」

「それなら、今度からドラゴン討伐の依頼が入ったら自分で処理してくださいよ」

「おー、それはちょっと難しいな。おれ、エクソシストだしな。エクソシストはエクソシストらしく、悪魔祓いしておきてぇよ」

「夏樹の場合はメンタルクリニックでしょうが」

「そうとも言う」

 私には精神疾患と悪魔憑きの違いがよくわからない。殴ればどちらも気絶するので、どちらも殴れば解決するとは思うのだが、それだと悪魔祓いにならないそうだ。

「で、おまえんとこのサキュバスはどうした?」

「けいなら、ちょっぴりおませな女子共とガールズトークしてますよ」

「ほーん。性教育も大事だもんな。そういえば、おまえは知らねぇかもしれないけど、先日、隣町でエルフの女性が襲われた事件があったんだ」

「それは大変ですね」

「犯人は捕まってないからさ。今捜査中なんだと。ギルドでも犯人捜しの仕事出してるそうだ。被害者のエルフがどうしても捕まえて八つ裂きにしてやりたいってさ。それに同一犯と見られる事件も多発してるし」

「八つ裂きとはまた物騒ですね」

「すぐにグレネードランチャーぶっこむやつが物騒とか言うなよ。ほら、せっかくだし、おまえも手伝ってやれ」

 携帯端末にエルフの女性が襲われた事件の詳細データを受け取った。

 犯人についての情報も載っている。種族はオークか。……エルフとオークだと巷で買える成人向け雑誌の定番だ。コンビニで紐で縛られて立ち読みできないようにされている雑誌によく掲載されている絡みだ。夏樹が好んで買っている雑誌にも載っていたような記憶がある。

 画面から視線をあげると少し向こうからこちらにぽてぽて歩いてきているけいの姿が見えた。……そういえば、サキュバスは魅了チャームで、相手の好みに自分を見せることができるんだったな。

「神父様。ウチをじーっと見てどうしたん?」

「けいって魅了チャーム使えるんですよね?」

「使えるやの!」

「それなら、この男を誘惑してください。それができたら、お前の能力は本物だと認めてあげます」

「ウチにかかればどんな男もメロメロにできるやの! で、このオークはどちらさまやの?」

「婦女暴行犯です。捕まえるので囮になってください」

「囮やの? 神父様、危なくなったら助けてくれる?」

「任せてください。お前ごと木っ端みじんにして逃がさないようにします」

「おいおい。成功条件は生け捕りだから、退治しちゃ駄目だぞ」

「ウチを退治するんはやめてやのー!」

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