第12話
広がっていたレシピ本を片付けてエプロンを着ける。
さて、何を作るか……。在庫の確認をしておくか。食材庫を開く。リンゴが大量に箱に入っている。近くの農家が市場に出せないものを譲ってくれたものだ。味は全く問題無いが、見た目が歪だとか少しキズが入っているだとかで市場に出せないらしい。
食べられればなんでも良いと思うんだが、そうもいかないんだろうか……。食べてしまえば同じだろうに。だが、見た目が悪くて美味い料理と見た目が良くて不味い料理どちらが良いかと聞かれれば、見た目が良くて美味い料理が良いに決まっている。どうしても見た目が良くて不味い料理を選ぶと思うのか。見た目が良くても不味くては嫌だ。つまり、結論はどちらも良いものだ。
リンゴがあるならアップルパイでも作るか。それともタルトにするか……。紙袋いっぱいに小麦粉も詰まっている。しかし、どれが何か記されていない。
「ここの表示消えてますよ」
「スミマセン神父様! 先日新しいものをおろした時に一緒に捨ててしまったようで!」
「また作っておいてください。むしろ今すぐ作ってきてください」
「わっかりましたー!」
エルフは足早にキッチンを退出する。手伝いを頼んだが、一人でやったほうが早いというところもあるからこのほうが良かったか。
先にリンゴを煮詰めておこう。皮を剥いて食べやすい大きさに切り分けた後、鍋に砂糖と共に入れよく合わせておく、こうするとリンゴから水分が出るので、余計な水は必要無い。中火にかけて、ゆっくり火を通しておく。
その間に生地を作ろう。薄力粉と強力粉と溶かしバターを合わせていく。まとまりが出てきたところで牛乳を加えて更に混ぜ合わせる。十分に合わさったら冷凍庫で休ませる。この間にオーブンの予熱をしておこう。ついでにリンゴの様子を見ないとな。
ちょうど水分も良い感じにとんでいたので、火から下ろし、シナモンシュガーとレモン汁をかけ、こちらは冷蔵庫に入れておく。
「神父様やっと見つけたやのー」
「ああ、けい。ちょうどいいところに来ましたね」
冷やす時間の暇を潰せそうだ。けいはぽてぽて歩いてくる。どうしてこんな歩き方なのか考えてみたが、尻が大きめだからだろうか? それとも太腿のムチムチ感が関係しているのか? どちらでもいい話だったな。
キッチンに入ってきたので、手伝ってもらうか。彼女は壊滅的に料理スキルは無いが、魔法を使うことができる。冷凍庫と冷蔵庫に頼らずに冷やしてもらおう。
「けい。この生地とリンゴを冷やしてください。ご褒美あげますから」
「任せてやの! えいっ!」
どうするのかと思えば、けいは服をたくし上げて翼で風を送っていた。これは……まずい。
「見た目を考えてください。はしたない」
「このほうがうちわより冷えると思ったやの」
「氷の魔法はできないんですか?」
「できるやの! えいっ!」
手から小さな雪が出てくる。これだとビチャビチャになってしまいそうだ。頼む相手を間違えただろうか。
「もういいです。やめてください」
「はいやの! ご褒美頂戴やの」
「大失敗してるくせにご褒美をねだるな」
「そんなぁー!?」
けいはがっくりうなだれた。そんなに落ち込むようなことではないだろう。大失敗しているのは事実だ。だが、一応冷えたことは冷えたので、失敗くらいにしてやろうか。
私は冷蔵庫から牛乳瓶を取りだして彼女の手に握らせる。すぐに飲んでいた。そんなに牛乳が好きだったか。一日に与える量を増やしてやっても良いかもな。それだけ彼女の労働契約期間が延長されるわけだし。
「ところで神父様、何作ってるやの?」
「アップルパイです。後は生地を伸ばして、リンゴを盛って、網目状に生地を乗せ、卵黄を塗ってから焼くだけです」
「けっこう色々やることあるやの」
「手作りだとこうなりますね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます