第11話

 けいのことはしばらく夏樹に預けておけば良いだろう。きっちり作業してくれるに違いない。サボったところで私に説教されるとわかっているのだから、サボることもないはずだ。悪魔のわりに真面目な性格をしていると言える。

 さて、孤児院はただ親のいない子どもばかりがいるわけではない。親に虐待された子どもを預かることもある。そういう子どもの心のケアは基本的に夏樹がしている。カウンセラーとしてもあいつは優秀だ。エクソシストなだけある。本当に悪魔が憑いているだけなら祓えば良い話だが、精神疾患ともなると話が変わってくる。だが、基本的には夏樹が全て対応できる。

 一般家庭となんら変わらないように生活してもらいたいところだが、そうもいかない。ここには人間以外にも妖精種やエルフ、ドラゴン、オーク……とあらゆる子どもがいる。性格が合わないだの種族的に合わないだの、問題は山積みだ。どれか一種類に絞れば良い話かもしれないが、それだと溢れた子ども達はどうなる? 他の場所だと健やかに成長できるか? と考えることは多い。

「しんぷさまー。あたらしいこはいつくるのー?」

「ああ、そろそろ来る頃だと思いますよ」

 事務作業が終わった私に声をかけたのは、ワーウルフの狼太ろうただ。満月の夜は多動が目立つが、普段はわりとおとなしい。少し粗暴なところもあるが、声をかけると素直に従うタイプらしいので、集団行動を乱すことは無いらしい。

 この子は親に虐待されて孤児院に入った子だ。親の問題行動については入所時の書類に全て書いてあったが……狼と性交して生まれた子を虐待してどうする。当時婚約していた男との子だと思っていたが、生まれた子が狼との子だったので……色々あったらしい。他人の性癖を責める気はないが、考えて行動しろ。

 狼太は新たな入所者を心待ちにしている様子だ。今日入所する子どもは虐待ではなく、両親が事故死し、親族が引き取りに来るまで預かることになっている。冒険者の親族が孤児院を訪ねてくるまでの一時入所だ。

 狼太としては初めてのルームシェア相手となるので、楽しみなのと不安があるのだと思う。私としては、ワーウルフに協調性を求めるのはどうかと思うが、本人は楽しみにしているようだし、夏樹が部屋割りを考えたようなので、しばらく様子見といったところだろうか。

 孤児院の門へ向かうとちょうど車が停まったところだった。

「小焼ちゃん久しぶりー!」

「お久しぶりです。夏樹なら奥にいますよ」

「お兄ちゃんには別に会わなくて良いかなぁ。いつもギルドに来てくれるし。連れて来たよー! はい、出ておいで」

 夏樹の妹のふゆ・・は、ギルド職員だ。各地からの依頼を集めて、紹介する仕事をしている。孤児院に子どもを連れて来るのも彼女の仕事だ。

 ふゆの呼びかけで車から降りてきた子どもは、顔は狼、体は人間だった。獣人だな。ワーウルフと似たところがあるので、夏樹もルームシェアを選んだのだろう。

「はい、これ書類。あと、ハーピーの件の報酬ね!」

「ありがとうございます」

「あ、あと、小焼ちゃんさえ良ければ、後でギルドに来てほしいんだ。サキュバス関連の依頼が入ってて……電話じゃ説明できないの!」

「わかりました。後ほど伺います」

 ふゆは手をふりながら車に乗り込み、さっさと戻って行った。彼女は彼女で忙しいのだろう。

「おれ、ワーウルフの狼太ー! おまえは?」

「ぼく、ウルルっていうの」

「ウルル! よろしくなー!」

「よろしくー!」

 心配することは無さそうだ。仲良く手を繋いでおしゃべりをしながら行ってしまった。私が自己紹介する隙すらない。まあ良いか。子ども達が仲良くしているならばそれで良い。食堂に行こう。

 食堂に向かえば、調理師のエルフがうんうん唸っていた。

「何してるんですか?」

「あ、神父様。今日のおやつを何にするか悩んでて」

「……私が作るので手伝ってください」

「わっかりましたー!」

 調理台にはレシピ本がずらっと並んでいた。とりあえず、これを片すか。

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