第9話

 けいとおはるが赤い果実を採取して戻ってきた。スカートに果実を大量に乗せて戻って来るところは町民に見せたくないな。あれだと下着が丸見えになるだろう。

 夏樹は二人にお礼を言って車のトランクに積んでいる。熱で駄目にならないものかと思ったが、しっかり冷却の術式を組んでいた。こういう攻撃以外の魔法を使えるのが夏樹の長所だろう。

 けいがまた赤い果実を持ってきた。今思うとサキュバスなのだから、この果実が催淫薬として使われることを知っている可能性もある。なるほど、これも悪魔の罠というものだろうか。

 腹の虫はまだ鳴いている。腹が減ったな……。飢えと渇きが止まない。このままだと私の方が悪魔になってしまいそうだ。ただでさえ悪魔だと勘違いされる時があるというのに。

「神父様ー、お腹空いてるならこれ食べてやの」

「これ、どういう果実か知って渡してるんですよね?」

「知らへんやの。エルフ族が食べてるの見たことあるだけやの。神父様はダークエルフやから、食べられると思って……。夏樹様も食べられるって言うてたし……」

 嘘ではなさそうだ。目をじーっと見ていると、けいの水饅頭のように透き通った瞳が更に潤んで見えた。今すぐに目玉を抉りだして食べてやりたい程度には美味そうに見える。

 手渡された赤い果実に齧りついて飢えと渇きを癒しておく。腹はまだ満たされない。

「一応言っておきますが、私は純血のダークエルフではありません。ただの人間ですよ」

「でも、魔法使いとダークエルフの子やから、ダークエルフのようなもんやの」

「否定はしませんけれど」

 体内に魔術回路がある人間は珍しい。これは父親譲りだろう。母も似たようなものだろうが。

 けいは意味も無く私の腕にくっついて胸を押し付けてきている。いや、意味はあったか。定期的にエネルギー充電をしたいと言っていた記憶がある。それが今のタイミングということなのだろう。

 やわらかくて独特の甘い匂いがする。食べられるものなら今すぐにでも食べたいものだが……。

「夏樹。サキュバスって食べられますか?」

「んー? おまえの言う食べる・・・って、そのままの意味だよな? やめてやれよ。食べるなら性的に食ってやれ。そのほうがサキュバス的にも良いだろ」

「そうやの! ウチは食用やないやの! 食べるなら性的にお願いしますやの」

 夏樹に聞いたのが間違いだったな。けいは調子に乗って更にくっついてきた。胸が潰れる程度には、腕にぎゅうっとくっついている。動きづらいったらありゃしない。

「けいにエサを与える時って、上の口と下の口、どちらが良いんですか?」

「お口は上にしかないやの」

「は?」

「お口は上にしかないやの。前も同じこと言うてたやの」

 確かに前にも同じことを尋ねたな。

 だが、意味が通じていないことを考えると、この娘はこれまで本当にサキュバスとして活動をしていたのか気になってくる。教会のある町に来るまではブイブイ言わせていたと言っていたが……。

「けいって本当にサキュバスなんですか?」

「サキュバスやの! 疑うなら、一度ウチを抱いてみたらええやの。天国見せてあげるやの」

 相手をしてやったほうがサキュバスの健康面として良いかもしれないが、私は司祭なので立場上許されない。

 だが、誰にも知られなければ良い話だろうし、夏樹もたまには生のモノを与えてやれと言っていたが……。

 頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めて更に擦りついてくる。この娘は独特の甘い匂いを放っているので、ひじょうに美味そうだ。二の腕なんて齧りたいほど軟らかそうだ。

「小焼様。ウチを食べてやの」

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