第8話

 引き続き、どうしてハーピーが暴れていたかの調査を行う。こういうのはギルドに連絡すれば仕事に飢えている者が駆けつけてくれるものだが、夏樹が連絡したところそのまま調べてほしいと言われたようだ。

「きっちり報酬は出るからそう渋い顔すんなよ」

「別にしてませんよ。元からこういう顔なんです」

「そうか? そんじゃま、調査ついでに採取もしていくかな。この辺りの薬草、質が良いし」

「そうですか」

 観察眼のある夏樹に任せておけばすぐに終わりそうなものだが、彼は違うことに気を取られてしまうので、調査が進みそうにない。チョウチョが飛んでいるだけでも「おー! 可愛いなー!」と呑気な声をあげるくらいだ。別のことを始めようとする度に元のサイズに戻ったおはるが蹴りを入れているようなので、あっちは任せておこう。

「神父様ー。調査ってどうやるやの?」

「それがわかれば早く終わるんですがね」

「神父様も知らへんやの?」

「こういうのは夏樹がやるものなので」

 その夏樹が全く関係無い樹液の採取をしていることを横目に見つつ、返す。けいは首を傾げていた。サキュバスなので探知能力もありそうなものだが……。

「サキュバスに探知能力はないんですか?」

「ウチができるのは、活きの良い男を見つけることやの!」

「それなら、私に会えたのでもう必要ない能力ですね」

「やーん! メロメロやのー」

 ……何を言ってるのかさっぱりわからないが、けいは上機嫌のようだ。先程ぶん投げて目を回していたが、回復が早まって良かった。

 ハーピー本人に理由を聞くのが一番手っ取り早いと思うのだが、当の本人は気絶しているままだ。おはるに縄で縛りあげられているので、あのまま寸胴鍋に入れて煮込めば鶏がらスープにでもならないだろうか……。顔さえ見なければ鳥なのだから。

 腹の虫が鳴いている。けいが何か持ってきた。

「神父様。お腹空いたならこれ食べてやの」

「これ、食べられるんですか?」

「たぶん」

 けいが持ってきたものは、赤い果実だ。甘くて芳醇な香りがする。だが、食べられるものかはわからない。美味そうな香りはするが、毒だった場合、面倒臭い。

「夏樹。これって食べられますか?」

「んー? ああ。食えるやつだよ。とある魔法薬を作るのに必要な果実だけど、滅多に市場に出てこないし、すげぇ高いんだ。何処にあった?」

「けいが持ってきました」

「あっちの高い木にたくさんなってたやの」

「おはるさん、サキュバスと一緒に取ってきてくれ」

「あいよ!」

 けいとおはるは一緒に飛んで行ってしまった。修道女服の姿で飛んでるのも奇妙だが。……そういえば、けいも飛べたんだったな、さっきぶん投げる必要は無かったか。

 腹の虫が鳴いているので、手元に赤い果実に齧りつく。

 歯で皮が裂ける瞬間にシャリッと音が鳴った。歯応えが良い。口に入れる度に香りが抜けていく感じが心地良い。果汁が多いのか口の端から零れ落ちるほどだ。味自体は甘味が先に来て、後味が酸っぱい。いくらでも食べられそうな果実だ。

「美味そうに食うなぁ。けど、食べて大丈夫なもんかな……」

「食えるって言ったのはお前でしょうが」

「おう。食えるよ。だけどさ……、これ、催淫薬を作るのに使うやつなんだよ」

「そういうことは早めに言ってくれませんか」

「いやぁ、おれが言う前におまえ食ってたし。でもさ、おまえと一緒にいるのサキュバスだから処理も簡単にしてくれるだろ」

「……どうでしょうね」

「おまえ、まさか、あのサキュバスに何も与えてねぇの?」

「けいには牛乳を与えてますよ」

「おいおい……。たまには生のモノ与えてやれよ。可哀想だぞ」

 そういえば、けいの今日のご褒美について考えてなかったな……。

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