第7話
ハーピーといえば、人間の女性の頭に鳥の体をした種族だ。生ゴミを食い散らかして去って行くこともあるから、カラスと同様に扱われることもある。だが、ハーピーは鳥ではない。かと言って人間でもない。……そういう種族だとしか言えない。
夏樹はエクソシストなので、基本は悪魔祓いを専門にしているわけだが、こういう事象の解決も任されている。急ぎではない案件ならばギルドから討伐依頼を受注した冒険者やハンターが向かうものだが、今回は急を要するようだ。暴れているだとか連絡が入ったくらいだしな。
自分の車で移動するのも良いが、夏樹の車に乗せてもらったほうが良い。後部座席にけいを放り込み、私は助手席に座る。おはるは夏樹の肩の上に乗っていた。
「おまえ、サキュバスと座らなくて良いのか?」
「けいとはいつでも座れますし、あいつの上にも座れるから夏樹の横が良いです」
「お、おう……。一瞬
「は?」
「冗談だ、冗談。だからそう睨むなって!」
睨んだつもりはないが。
バックミラーを確認すると、けいが頬に両手を当ててデレデレと破顔していた。今日はよくこの表情を見ている気がする。機嫌が良いようだ。
「ところで、ハーピー対策ってあるんですか?」
「そうだなぁ……、相手は翼を持ってるから空中に逃げられると厄介だろうな。おまえ、ロケットランチャーなんて持ち歩いてねぇだろ?」
「持ってるように見えますか?」
「見えねぇよ。
「あたいに任せなよ!」
「そうだな。おはるさんに空中から叩き落してもらうか」
と言いつつ、夏樹はおはるに蛍光色の液体の入った小瓶を渡していた。きっとピクシーの体に合わせた魔法薬のはずだ。夏樹の薬は質が良いので効果も早い。後部座席に人間サイズになったおはるが座っていた。けいが驚いている。
「おはるさんがおっきくなったやの」
「夏樹の魔法薬はすごいからね! これで叩き落してやるのさ!」
ピクシーとはこんなに好戦的な種族だったろうか……。どこの研究論文にも無かったような気がする。夏樹はピクシーについての論文を提出してもらったほうが良さそうだ。
さて、ハーピーが暴れているという現場に辿り着いた。呪われた言葉を吐きながら夕闇に染まりかけている空を飛ぶ者がいる。
「ああ! 夏樹先生! 小焼神父! ここらの住民の避難は終わってやす!」
「あいあい。誘導ありがとな。こっから先はおれらに任せといてくれ」
この地域の住民の避難誘導は終わっているようなので、多少家屋が破損しても保険会社になんとかしてもらえるはずだ。加入していたら、の話だが。まあ、保険に入っていなくとも教会側でどうにでもできる。
「あの鳥、ギャーギャー五月蠅いんだよ!」
と言いながら、おはるが飛び上がる。ピクシーの飛行能力について考えたことがなかったが、虫と同じような翅をしているからか予想よりもスピードが出ている。だが、追いつけそうにない。逆に背後に回られて足を掴まれてしまった。
「ぎゃー! 何すんだよこの鳥女!」
夏樹も自分の魔法薬を飲んでいるので、普段より魔力がある。瞳が緑色に輝いて見えるので、すぐにでも魔法を使えるはずだ。
「夏樹。風を起こしてください。あとは、けいがどうにかします」
「え、ウチやの!?」
「お、おう。わかった。おまえを信じるよ。いくぜ!」
「ウチ、何したら良いか聞いてな――きゃあああああああ!」
夏樹が風を起こした瞬間に、けいのツノを掴んで、ハーピーにむかってぶん投げる。風の後押しで凄まじい勢いの弾頭となったけいはハーピーの足にぶつかった。
「おはるさん! 今だ!」
「さっきは良くもやってくれたね、このクソ鳥女!」
おはるの会心の一撃でハーピーは墜落。目を回したけいが落ちて来たので、しっかり受け止めておいた。これで解決だな。
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