第6話
孤児院に着いた。子ども達が出迎えてくれるが、キンキン高い声で耳が痛い。そんなに大声を出さなくとも聞こえるからやめてほしいところだが。何度も伝えても理解してくれないようなので、もうあきらめた。
まずは夏樹に会う必要がある。スライムの件もあるが、報告書の内容についても気になるところがある。あいつのことだから工房にいるだろう。
工房のドアを三度ノックしてから開く。けいは私の後ろをぽてぽてついてきている。スライムを抱えたままだ。
「それ、抱えなくても良いのでは?」
「でも放置してたら退治されそうやの」
「それもそうですね」
スライムだと害虫駆除と同じノリで退治されてしまう。雑魚モンスターの筆頭としてあげられる種族ではあるが、生命力の高さからエイジングケア化粧品としての利用だとかなんだとか研究されているくらいだ。あと、雑魚モンスターではあるが、何度も戦って強くなっている個体だと油断すると負ける。それでスライムまみれになって錯乱している冒険者を何度見たことか。
「おっ? スライムを連れてきたんだな?」
「車に挟まったんで。この子、変化もできるので、良かったら雇いませんか?」
「変化もできるスライムか。そりゃあ有能だな。どんな感じだ?」
スライムはけいの腕から下ろされた瞬間に、けいの姿に変化していた。スライムなので透けてはいるが、変化としてはけっこう再現性が高い。夏樹も興味深く観察していた。
「おー、すごいな。おはるさんにも化けられっかな? おはるさーん!」
「あーい!」
夏樹が宙に向かって声をかけると、おはるが現れる。
おはるは頭に四つ葉のクローバーを乗せないと姿が見えない。これがピクシー種の特徴だ。夜、眠っている間に靴が完成していたり、枕元に木の実を置いたり、仕上げた手編みのマフラーが半分解けていたり、そういうイタズラをするのもピクシー種の仕業と言われている。
ピクシー種の特徴として、世話焼きというものがあるので、夏樹も何かを気に入られて一緒にいるようだ。
さて、スライムはおはるの姿に変化したので、夏樹が小さく「おっぱい」と言ったところで、おはるに蹴りを入れられていた。
「いただだ! 痛いよ、おはるさん」
「あんたが変なこと言うからだよ!」
「ごめんごめん。けっこう緻密に変化するんだと思ってな。それだけ人の形を作れるなら、ここでも普通に働けそうだな。よし、採用!」
「アリガト」
「喋れるんだな。よしよし、そんじゃ、身元保証の書類はおれが用意しとくよ」
あっさり採用しているが、それはそれで大丈夫だろうか。まあ、夏樹は腕は確かなエクソシストなので、万が一何か問題が発生してもすぐに対応できるだろう。
スライムはおはるとけいと一緒に孤児院の見回りに出て行ったので、改めて用を済ますか。
「お前はどうしていつも報告書にコーヒーのシミをつけたり、角を折ってきたりするんですか? 一度くらい綺麗に提出しろ」
「ひぇえ! それについては悪いと思ってるよ! ごめんな!」
「それなら気をつけてくださいよ。次やったら全て書き直しさせますからね」
「い、いやあ、おれも気をつけてはいるんだ。でも、気付いたら汚れてるんだよなぁ」
「は?」
「ごめんってぇ!」
内容の正確さについては何も文句無いが、用紙の汚れについては気になるほどだ。さすがのピクシーでもこれについては回避させられないのだろう。
そうしている間におはるとけいが戻ってきた。スライムについては事務長をしているエルフが世話をしてくれるようになったようだ。
用事も終わったので、軽く事務作業をしたら教会に戻るか……。と考えていると地響きがした。そのうえ、電話のベルが鳴り響いている。夏樹に直接電話がかかってくるということは、何が良からぬものが出た連絡だ。
「わかった。すぐに行く。小焼、ハーピーが暴れてるってよ」
「仕方ない。行くか……」
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