第4話

 食事も終わったので、後片付けを済ませる。けいは何をするでもなく腹を撫でて、けぷぅっと言っていた。

「……思うんですが、ゲップって隠れてやるものではありませんか?」

「出てしまったものは仕方ないやの」

「かと言って恥ずかしさがあるわけでもない、と」

「赤ちゃんだってゲップするやの」

「赤ん坊の場合はゲップさせないと最悪の場合は死ぬんですよ。……まさか、けいも赤ん坊なんですか?」

「違うやの! ウチはどこからどう見ても立派なレディやのー!」

 ぽよんぽよんと跳ねながら言われても説得力が無いな。二人っきりだからって修道女の服を脱いでいるので、彼女は現在サキュバスの……標準服なのか? よくわからないが、露出の多い服装になっている。まんまるな腹の肉がおそらく下着の上に乗っていることは言わないでおこう。オーバーニーソックスの食い込み方はナイスだと思う。左右の靴下の色が異なっているのはオシャレだと言っていたが、揃えてもらいたいところだ。

「その靴下って絶対に左右で異なった色でないと駄目なんですか?」

「まだウチの靴下の色を気にしてるんやの? これはこういうオシャレやの」

 と言うので、左右を揃える気は全く無いようだ。

 しかしながら……、見れば見るほど……、丸みがあるな。

「けい。もしかして、太りました?」

「そんなことないやの! レディに対して失礼やの! セクハラで訴えるやの! 町の相談所に電話してやるやのー!」

「ちなみに、この町のセクハラ相談の受付は教会なんで、私に相談することになりますね」

「……神父様、そういうの解決できるやの?」

「そうですね。聖書さえあれば解決できます」

 どんなに否定する下衆でも聖書で殴れば解決できる。特に角で殴るのが効果的だ。

 けいに説明すると「それは暴力で解決してるやの」と言われた。話し合いができないなら、暴力で解決した方が早い。ボディランゲージだ。

 けいと交流を続けているわけにもいかない。私には私でやらなければいけないことがごまんとある。

「服を着てください。出かけますよ」

「何処行くん? 孤児院? それとも、ウチと愛を営むために――」

「愛を営むならわざわざ外に出なくても寝室に行けば良いでしょうが」

「寝室でウチと愛を営むやのー!」

「営まないですし、お前にエサを与えることはありません」

「ちょっとだけ。ちょっとだけ。先っちょだけで良いやの。先っちょ入れるだけやから」

「それは男が言うセリフだと思います。ほら、さっさと服を着ろ!」

「ぎゃーっ! ツノが折れるからやめてやのー! 自分で着るやのー!」

 少し相手するとすぐに調子に乗る。これがサキュバスの性質なのか、彼女の個性なのかわからないが、一応これでも魅了チャームをかけているんだろう。残念なことに、私にまったく効果が無いのだが。

 彼女が服を着たところで、担ぎ上げて移動する。ぎゃーすか騒いでいるが無視して車の助手席に放り込んだ。

「神父様ぁ。もう少し優しくしてやの。こんなんやと女の子にモテへんやの」

「私は隣にお前がいるので、モテなくて良いです」

「やーん! ウチ、そんなこと言われたら照れちゃうやのー!」

 何を照れてるんだかわからないが、けいは両手で頬を押さえてデレデレしている。

 まあ、どうでもいい。出発しよう。

 鬱蒼とした森の中を走っていく。森では野良モンスターが襲ってくることもあるらしいが、私は襲われたことがない。ちょくちょく悪さをするモンスターを討伐する依頼がギルドにはあるくらいだが……、一度も無いな。運が良いだけか?

「けい。この辺にどんなモンスターがいるかわかりますか?」

「この辺を縄張りにしてるんはスライム、大ネズミ、エルフ、オークやの。あと、ゴブリンとピクシー、それとそれと――」

「もう良いです」

 けっこういるんだな。と思っていたら車が停止した。いったい何だ?

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