第2話 僕は普通のサラリーマン

世の中には、自己紹介もせずにつらつらと話したいことだけを話して去っていく奴もいる。非常に厄介だ。皆も気をつけた方がいい。僕のことだ。


初めに僕がどのような人物で、どのような生い立ちを辿ってきたかを話そう。簡単に言うと、現状僕は普通のサラリーマンである。


ゲームの初期アバターのような平凡な顔に、中肉中背の身体。長男として生まれ、そこそこの進学校に行き、そこそこの大学に進学し、地元のそこそこの企業に就いた。日本中の平均値やら中央値やら最頻値は、きっと僕のような生き方なのだろう。それくらいに平凡な筋書きだ。


一般的に「普通」とされる人生は、酷く幸せであるかのような描かれ方をする。揶揄するような書き方をしたが、実際にそれは間違っていない。学校を出て企業に就職して結婚して孫ができて家族に囲まれて。その路を辿っている人間が一番多いのだ。


ということは、自分も同じステージに上がってさえすれば、周りの人間との共通の話題や共感が欠乏することはまずない。社会的な生き物である人間にとってこれは重要なことで、レールに沿っていれば「社会」からはみ出すことはほとんど無いのだ。何処を歩いていても胸を張って、少なくとも肩肘張らずに生活する事ができる。


だから僕も、それに習うようにして普通から逸れない人生を歩んできたつもりだ。この経歴にはなんの後悔も不満もない。これから結婚し、子供ができ、家を建てる。当たり前じゃない普通を噛み締めながら、今後を懸命に生きていくつもりだ。







ここまでの文章で、何か引っかかる点は無かっただろうか。もう一度振り返って見て欲しい。


具体的には、最初の導入文である。


「簡単に言うと、現状僕は普通のサラリーマンである」


一見違和感なく目を滑らせられるこの文章だが、実際には無駄な言葉が紛れている。


そう、「現状僕は普通のサラリーマン」の『現状』という言葉だ。


この言葉がある事によって、まるで「今はサラリーマンをやっているがゆくゆくは別の肩書きになります」ということが決まっているかのような書き方となっている。


タイトルの通り「普通のサラリーマン」という内容さえあれば事実が示せるところを、「現状」という時計を紛れ込ませることで、暗に未来を想起させる内容に変わっている。


これこれ、これだよ。


これが、本稿という場を設けてまでつらつらと紐解いていこうとしている「こびり付いた野望」の正体だ。






では改めて自己紹介しよう。


現状、僕は普通のサラリーマンである。

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