野望の残骸
初原ジン
第1話 野望の残骸
生まれた時から、いつも「野望」を抱えていた。
ある時は社長になりたかったり、またある時は芸能人になりたかったり。とにかく何者かになりたかった。
しかし、それらは一方で他人事のようでもあった。自分にとって、決してファンタジーではない本気の思いなんだけれど、どこか“イフ”がまとわりついて離れない。「こうなりたい」は危険だから、「こうなったらいいよね」に緩和されて、いつしか「こうなるはずだった」に変わっていく。そうしているうちに、僕はいつの間にか棘のない大人になっていた。
だから、この内なる野望を誰かに話したことは無い。周りからすれば、波風立てず真っ当に生きている人間に見えているはずだ。まさかこの人間がこっそり中庭に種を植えて育てているとも、その花を咲かせては枯らしているとも、誰も考えはしないだろう。
だけど、この秘密基地にも限界が来ている。
枯れ落ちた花びらが土となり、次の養分になれば良いものを、何故かこいつらは消えないで降り積もっている。
諦めた夢やあるはずだった未来像が、僕の内側で堆積し、気づけば今にも破裂しそうな状態だ。おかしい、こんなはずではなかった。どれも過去として水に流したつもりだった。可燃物として廃棄したつもりだった。このままでは、これまで必死に隠して来た気持ちを周りに吐き出してしまいそうだ。そうなってしまっては──
かっこ悪い。
そこで僕は、ここに文字として吐き出すことにした。ここなら誰にもバレないし、もしかしたら同じ重りを背負った人間に出会えるかもしれない。彼らと傷を舐めあって、思う存分鉛を吐いて、そのまま普通の下駄を履いて元の社会に戻れるかもしれない。
だから初めに言っておくと、この本は誰も救わない。僕だけが救われればいいのだ。
これは、野望の残骸。
何者かになろうとしては、何かと理由をつけて手放してきた、無様な生き様の集合体。
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