命短しラブ・ミー・モア

 現在、学校の昼休み。

 私は机に突っ伏している。

「……さん、苺さん」

 昨日、夜更かしをした。

「苺さん。ねえ、寝てるの?」

 紅守のことと、付き合う話と、ついでに魔法少女のこと。あと、日常生活のこと。

 いろいろ考えていたら、うまく寝付けなかった。

「苺さん、最近疲れてたっぽいもんね」

 だから現在、少しでも眠気を覚ますべく目を瞑っているのだが。


「苺さ__」

「アンタうるさい! いい加減に諦めなさいよ!」

 隣の声に耐えられず、私は飛び起きてしまった。

「あ、起きた!」

「アンタが起こしたのよ!」

「えへへ、ごめんごめん。苺さんが寝てるの珍しくて」

 ずっと私の名前を呼んでいたモコが、ニパッと笑う。小動物みたいな可愛さを帯びた笑顔だった。

「別に珍しくないわよ。で、何?」

「いやあ、さっきの授業で分かんないところあって。教え__」

「自分で調べて」

 要件を聞いて、私は再び顔を下ろした。

「ちょ、ちょっとぉ!寝ないでよお! 前も教えてくれたじゃあん!」

「今日は気分じゃない」

「私と苺さんの仲じゃん!」

「どんな仲よ」

「ねえ苺さぁん! たーすーけーてーよー!」

「アンタ本当にうるさいわね! どこが分かんないのよ、下らない内容だったら承知しないわよ!」

 結局、モコの根気に負けて顔を上げてしまう。

「やったぁ! 苺さん大好き!」

「あっそ」

 嬉々としてノートを広げるモコ。その楽しそうな様子を見ていると、なんだか彼女を許してしまうのだった。


 ちなみにモコの勉強は、教科書を読めば分かるような内容だった。

 モコは私を絶賛した。私はキレた。


 そんなこともありつつ、今日の学校生活は終了。

 帰路を歩いていると、路上で見知った顔を見かけた。

「あれ? アイツ……」

 近づけば近づくほど、既視感は確信へと変わる。相手も私に気付いたようで、赤い髪がこっちを向いた。

「苺ちゃん! おーい!」

「アンタ、何でここにいるの?」

「苺ちゃんと会ったのがここだったから、通るかなって思って」

 黒い上着に紺色のジーパン、目立つ赤髪。私を口説いた男、紅守である。

「前も制服だったよな。学校この辺?」

「まあね」

「お、ラッキー! 俺の家ここから近いからさ。待ち合わせとか楽でいいな!」

「今後待ち合わせするとは限らないけどね」

「またカラオケとか奢るけど」

「うぐ、魅力的」

 悩む私を見て笑う紅守。

 異性から好かれるのも、こんな風に話すのも、最近は経験しなくなった。私からアプローチすることが無いからだ。


 息苦しかった日常生活を、最近は無理せず過ごせている。

 隙間時間を遊びに費やすことが増えて、ストレスが減ったからだ。そして、その機会を作ったのは紅守である。

「あー、でも会ってから何するか考えてなかったな」

「じゃあ今日は、駅まで一緒に歩くだけでいいんじゃない?」

「折角会ったのにか?」

「また会えるでしょ。スマホで話せるんだし」

 実際、ただ歩くだけでも気分は晴れる。軽くスマホを振ってみせると、思い出したように紅守が自分の携帯を取り出した。

「あぁ、そうだったな。じゃあまた暇なときに連絡しとくか!」

「いつ反応できるか分からないけどね」

「苺ちゃんから返信来るまで待ち続けるから!」

「重いわ」

 軽口を叩いた後、別れる。私は家へ。紅守は駅へ。

 また会うために、それぞれの生活へ戻る。


『明日も学校?』

『当たり前でしょ』

『じゃあ、今日のところで会わね?』

「早いわね」

 紅守からのメッセージに失笑しつつ、返信を打つ。

『いいけど、どっか行く予定あるの?』

『本屋とかどう?』

「ふーん、本屋」

 学校近くの本屋はよく知っている。参考書を買いに行くため、よく訪れるからだ。

 しかし、それは一人での話。

『いいわよ』

 未知への期待を込めて、私は指を走らせた。


 空き時間に紅守と遊ぶ時間が、徐々に増えていく。

 そのせいで自習の時間は減った。それでいいと、心のどこかで思っていた。

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