ベリー・ベリーな未来
未来なんてクソだ。
小学校の辺りで、そう感じたのを覚えている。
私ができることは、他の誰かがとっくに成し遂げている。
私の代わりは、この世界に溢れてる。
私は、誰かの代替品。
私ってクソだ。
なら、私の未来もクソだ。
ずっと、そう思って生きてきた。
『私、オンリーワンになれたよ』
今更あの人に、そう言える日が来るだろうか。
『ギイイイグウウウゥゥッ!』
耳障りな機械音を立て、腕の化け物が向かってくる。相対するのは、私と奏揮。
「どりゃああっ!」
化け物に対抗するべく、私は拳を正面から化け物の腹へ叩きつけた。
ジュッ。
「痛った、熱っつ!」
激痛が走り、私はすぐさま拳を引っ込めた。見ると、化け物に命中した部分が赤く焼けている。
こいつ、腕以外に触れても駄目なの!?
「苺さん!」
動きの止まった私を、展開していた奏揮が横から回収する。
掬い上げるように抱えられた。お姫様抱っこの形だ。
そのまま化け物を横切り、一旦その場から離脱した。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える?」
「見えません」
「その通りよ!」
化け物は、私たちが退いたのを確認すると前進を開始した。
その先にいるのは、あの赤髪の一般人。
「おい! 俺は戦えねえって!」
「ヤバいわよ、どうするのよ!」
私がピョンと降りると、奏揮はすぐさま走り出す。
化け物の前まで走り、レーザーを目の位置へ集中砲火する奏揮。
『ガァギイイィィィ……』
眼球はそこに無い。だが視覚はあるのか、化け物は眩んだように停止する。
「苺さん、直接触れず攻撃して!」
「無茶言うな! 私はエスパーじゃないのよ!」
「武器です! 前回、苺さんが自分で出したような!」
「あー、そういえば……」
前回の戦いで決定打になった、棒状の武器を思い出す。
アレが手元にあったなら。小さく、そう思った瞬間。
「きゃっ!」
私の手の中で、桃色の光が形成された。あの時と同じように、それは棒状に形成されていく。
初回の暗闇と違い、ここではその全貌がはっきり見えた。
木でできた、焦げ茶色の杖。
下のほうには鋭いトゲが付いていて、そこから伸びた二本の蔦が持ち手に絡まる。明るい緑の蔦は杖上部まで続いており、新芽のような葉を先端に生やす。蔦一本につき一枚で、計二枚。
その杖上部では、杖の幹も二つに分かれ、スペードのような形状を象っている。空洞の中心には、丸い深紅の宝石が浮かんでいた。
魔法の杖。
属性が付いてるなら、風とか草だろうな。そんな武器が、そこにあった。
「おぉ……」
感嘆の溜め息が漏れた。
あのとき私を助けてくれた、私だけの相棒。そんな特別感。
「苺さん! それで敵を!」
「よぉーっし!」
次は上手く戦える。そんな自信を杖から受け取りつつ、私は駆け出した。
『ゴゥオオオォォォ!』
「食らえぇっ!」
化け物の正面で、大きく飛び上がる。両手で杖を持って、頭の上へ振り上げる。
化け物の顔が正面に来ると同時に、私はそれを、おもいっきり振り下ろす!
バキッ!
「あぇ?」
マヌケな声が出た。木片が飛び散った。
私の相棒は、無惨にも真っ二つに折れた。
「えええぇぇっ!?」
そして私の身体は、勢い余って化け物の頭に突っ込む。
ジュッ。
「熱っつううぅぅ!」
壁キックの要領で、化け物の顔面を蹴りあげ離脱。足に痛みが走る。
「ま、苺さんっ」
「言っとくけど大丈夫じゃないわよ!」
空中で一回転しつつ、なんとか着地した。
手足と身体、化け物に触れた部分が傷む。が、今はそれより杖だ。
「ああ、私の相棒……」
芯からポッキリ折れた棒が、手元に残っていた。断面から桃色の光が漏れ出ちゃっている。
まるで、エネルギーが漏れていってるような……。
「あれ?」
漏れ出た光は数秒ほど宙を漂い、再び杖に帰ってくる。断面を覆うように、光が杖を象っていく。
「……わぁっ!」
やがて光は消え、代わり新品同様の杖が現れた。
つまり、再生したのだ。
相棒が戻ってきたことに安堵しながら、私は悩んでいた。
いくら再生するとはいえ、この杖は強度が低い。殴ったときに折れるのなら、そこまでダメージは期待できないだろう。
「あの、苺さん」
「何よ」
いつの間にか横に立っていた奏揮が、私と一緒に杖を見つめる。
「それ、刺すんじゃないですか」
「刺す?」
「ほら、その杖の先端」
奏揮が指差していたのは、杖に絡まる蔦の根元。そこには確かに、十センチほどの鋭いトゲが付いていた。
「そういえば、あの時も刺してたような!」
「きっとそうですよ! 苺さん!」
「よおぉーっし!」
本日、三回目の気合い。既に痛い目を二回も見てることを忘れ、私は化け物へ向く。
でも、三度目の正直って言うか、今度は上手くいく気がした。
「食らえええええっ!」
今回は跳躍せず、化け物の身体を狙う。
腕がびっしり生えた身体。そこに杖のトゲを、全力でぶっ刺す……!
が、二度あることは三度あるわけで。
『ギィイイイ!』
「え、ちょっ」
化け物は痺れを切らしたように、私を避けて前進を始める。幸い『ジュッ。』は避けられたが、勢い余って杖は床を捉える。
「ま、待て、このっ!」
杖を引き抜こうとするが、まるで根付いてしまったように動かない。化け物が紅守へと近づく。
『グゥオオオゥオオオオ!』
「ちょ、無理無理無理ムリだって!」
その場から駆け出す紅守。それを追いかける化け物。
両者の距離、残り五メートル。
「ヤバっ」
「流石に、自分じゃ止めれませんよ!」
残り四メートル。奏揮が化け物と紅守の間に割り込み、衛星を構える。
「何で、これ、抜けない!」
三メートル。化け物の顔へレーザーが射出されるが、今回は意に介さない。
「くっ……!」
「奏揮!」
衛生と一緒に化け物へ体当たりする奏揮。ジュウウッ、と、焼けるような音が響く。
残り二メートル。
「やだ、ダメ、止まって」
化け物が、奏揮もろとも紅守を焼き潰す。
残り一メートル。
その寸前、叫んだ。
「止まれえええぇぇぇ!」
声に応えるように、異変は起きた。
『ギギャアァッ!』
「え……」
化け物が、止まった。
自発的に止まったのではない。身体を貫かれ、物理的に止められた。
貫いたのは、奏揮のレーザー?
違う。
「あ」
私のすぐ足元から、焦げ茶色の針が五本飛び出ていた。根元の太さは三十センチくらいで、鋼鉄のように頑丈な針。
触れるとヒンヤリ冷たい。
そして、針のそれぞれが化け物の身体を穿っていた。一つは頭を、他の四つは身体を。
「……ま、苺さん! どうなりましたか!?」
「おい! やったのか? やったんだよな!」
化け物の奥から、奏揮と紅守の声がする。二人とも無事らしい。戦闘終了だ。
私は生存報告のために、その場で高らかに宣言した。
「魔法少女ストロベリア、腕の化け物を倒したわっ!」
私の伝説は、ここから幕を開ける。
未来、ちょっと良いかも。そう思い始めた。
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