ブレークタイムは戦地の中で

「紅守優利、二十歳です。大学生やってます……」

 目の前で正座しながら自己紹介する、赤髪の男。

 結局、あれから奏揮に協力してもらって赤髪の男を引き剥がした。

 ちなみに奏揮にもパンツを見られた。最悪。

「ってか、お前らは違うんだな! 変な格好してるけど、味方なんだよな!」

「変って何よ! ぶっ飛ばすわよ!」

「うわっ、悪かったって!」

 髪を掴みあげると、紅守はすぐさま謝罪した。

 私はこの服装が少し気に入っているのだ。奏揮はともかく、私を変人扱いするのは許せない。


 一方、変と言われたもう一人は平常運転だった。

「何故ここに?」

「えっと、友人の家なんで。遊びに来たら、こんなことに……」

 黒いジャケットに紺のジーパン。耳には大きめのピアス。そんなラフな格好を見ると、嘘ではなさそうだった。

「っていうかアイツ……アイツは何なんだよ!」

「あの、腕だらけのヤツよね?」

「アイツが触れたところは崩れるし、俺のこと追ってくるし!」

「なるほど、それで壁がね」

「ふむ……」

 剥き出しのコンクリートをなぞると、ボロボロと壁が崩れる。男の発言が正しければ、あの化け物が触れたところがこうなるのだろう。

 ちゃんと化け物の突進を避けて良かった、と安堵した。

 一方で奏揮は思うところがあるのか、顎に手を当て首を捻った。

「アイツが私たちを無視したのは、アンタを狙ってたからだったのね」

「は? お前ら、アイツに会ったのか? ってか無視されたって?」

「うん、まるで眼中に無いみたいに」

「何なんだよマジで! そんなに俺のこと恨んでんのかよ!」

「……あの、一つ気になることがあるのですが」

 斜め下を向いて考え込んでいた奏揮が、何を思ったか紅守へ視線を向ける。

「あ? 何だよ」

「紅守さん、あの死相に会ったことがありますか?」

 やや怒りっぽく、紅守が自分の頭をガシガシ掻く。

「は!? 何でそんなこと聞くんだよ!」

「確証はないのですが、言動がまるで__?」

 そこまで言って、奏揮は右耳に手を当て静止した。

 言動がまるで、の続きは何よ! とツッコミを入れたい衝動に駆られる。が、彼のその行動には既視感がある。私は奏揮を見守った。


 さっき奏揮は、同じようにこの部屋で立ち止まった。その時は、紅守の呼吸音を聞きつけたからだ。

 じゃあ、今回は……?


 ピシッ、ドドド……。

 遠くのほうで、何かが崩れる音がする。

「俺の言動が何なんだよ! お前、あんまふざけてると」

「来ます! 戦闘準備を!」

「私も聞こえた!」

 ゴゴゴゴゴ、と部屋が揺れる。

「は? おい嘘だろ、アイツ俺のことを」

 正面から聞こえる騒音に対し、私は拳を構えた。

 先手必勝だ。奴が出てきた瞬間が勝負だと、神経を研ぎ澄ませた。


 ドガン、と目の前にある壁が崩れる。

「危ねえっ!」

「わっ!」

 そして、パンチを叩き込もうとした私へ紅守が横から突っ込んでくる。

「ちょっとアンタ、何を__」

「いやいや流石に危ねえって! こんなの正面から相手したら!」

 化け物が通ったであろう場所を指差す紅守。見てみると、木製の床が抉れてプスプスと音を立てていた。

 これと正面から当たっていたら、確かに無事じゃ済まなかったかもしれない。

「あー……」

「な! 俺は悪くねえだろ!?」

「そ、そうね。どうも」

「二人とも、大丈夫ですか!」

 ちょっぴり気まずい雰囲気の中、奏揮が駆け付ける。

「反対方向に避けたので、心配で」

「私は大丈夫よ。その、コイツのおかげで」

「ま、俺だって少しはやるんだよ!」

 お互いの無事を確認する横で、大きな影がヌラリと動く。

『ギイイイヅウウゥゥゥ』

 暗闇から聞こえるのは、壊れたスピーカーのような機械音。この死相領域の持ち主が発する声。

「さささ、流石に戦いはできないけどな!」

「それは僕らの役目なので。苺さん、行けますか」

「当ったり前でしょ! そのために私、強くなったんだから!」

 縮こまる紅守を背に、私と奏揮が化け物と向かい合う。


『ギェアアアアアァァァ!』

「いきます!」

「任せて!」

 腕の化け物に向かって、私たちは駆け出した。

 改めて、戦闘開始だ。

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