第29話 戦いの裏で
10層でワイバーンを狩り竜之介と戦った翌日から、10層でレベル上げを実行した。レベル上げの目的は、竜之介と比奈をレベル10まで上げる為だ。何度かワイバーンと戦い、竜之介と比奈は無事にレベル10になった。
その後は、メイメの店に行きジョブを習得。竜之介はファイターで、比奈はメイジを習得した。今でも比奈と明莉の喜び具合を覚えている。
それから翌日。現在は夜桜高校で席に座って周りを見渡していた。学校では特にやることないから、周りを見るくらいしか出来ない。
「おはよう、和真君」
「おはよう、明莉……んっ?」
明莉が登校してきた。隣にはヒロインの花宮葵がいる。思い出してみれば、明莉は葵と一緒の時間帯に登校している回数が多い。だけど俺の所に来るのは何故だ。
「おはよう、和真君」
「おはよう、葵さん。それでなんの用なんだ?」
「……貴方、本当に最弱なの?」
葵が口にしたのは俺への疑問だった。
「そもそもどうしてそんなことを聞く」
「明莉が最弱じゃないって言うからよ」
「明莉、葵さんとはどういう関係だ?」
「葵ちゃんと相部屋なんだ。それで和真君のことを答えたの」
成程、つまり明莉が俺のことを答えたから葵が聞きに来る状況が生まれた。
「質問への答えだけど、最初は最弱だった。だが力を付けて今は最弱ではない」
「明莉、これは本当なの?」
「本当だよ」
葵は俺の発言を信じていなかったが、明莉の言葉を聞くと考え込む。
「なら、貴方の実力を――」
「うっ、うわあああああっ!?」
「「「!?」」」
悲鳴のした方を向く。そこにいたのは尻餅を着くクラスメイト。教室に入り込んできた秀明の姿があった。秀明は進んで行く。
奏汰を探してみると、柊翔が肩に手を置いていた。止めているんだろうな。問題を起こして、また奏汰がボコボコにされたら冗談では済まないくらい、クラスの士気がガタ落ちするだろう。
そんなことを考えていると、秀明は俺の方で止まった。葵は強く睨んでいるが、拳と足が震えている。そんな葵の前に明莉は立った。
「明莉」
「大丈夫だよ、葵ちゃん」
葵のことは明莉に任せよう。
「用件はなんだ」
「今日の放課後、俺と戦え」
秀明は俺と戦いたいらしい。
「分かった。……但し条件がある。観戦する生徒を限定したい」
「どいつが来る」
「明莉、竜之介、比奈。……それと葵さんだ」
「分かった。それとお前が勝ったらこの現状を変えてやっても構わない」
現状というのは、奏汰が負けてからの状況か。別に、なんとも思ってないがクラスにとってはメリットになる。それに聞きたいこともあるからな。
「俺が勝ったら、聞きたいことを話してもらう」
「良いぜ、なんでも答えてやるよ。放課後、第一闘技場で待ってる」
秀明は去って行った。
これを聞いたクラスメイトは陰口を言いまくる。
「なんで選ばれたの?」
「勝てる訳無いのに」
「最弱だから無理よ」
「頼むから迷惑にならないでくれ」
「……酷いわ」
葵が小声で呟いた。だけど最弱と言われる俺にクラスメイトは期待なんかしないだろう。
「もう慣れたから、気にするな」
「……どうして私も呼んだの?」
「知りたいんだろ、俺の実力。なら、実際見てもらった方が良いと思ったんだ」
「なら、お言葉に甘えて行くとするわ。また放課後に」
葵は自分の席に戻って行った。
その後担任の先生も来て、いつも通りの授業が始まった。
放課後、俺達は秀明のいる第一闘技場へと来ていた。入り口には門番代わりにDクラスの生徒がいた。
「秀明から話は聞いているか」
「勿論だ」
「俺が和真で、後ろにいるのが明莉、竜之介、比奈、葵」
「おう、数もばっちりだ。せいぜい負けてこい、雑魚」
「お言葉どうも」
俺達は中に入る。俺はこれから舞台に立つ。明莉達は観客席で観戦だ。
「和真」
「んっ?」
「頑張ってね」
「嗚呼、任せろ」
ここで俺と明莉達は別れた。……レジダンではソロプレイだったから分からなかったけど、応援されると少し心が暖かくなったような気がする。
俺は闘技場の舞台へ上がる。
「良いもの見せろよ、ざぁこ!」
「秀明さん! やっちゃって下さい!」
「「秀明! 秀明!」」
ちょっと耳が痛くなるかな。俺への罵声と秀明への応援が混じってる。
俺の目の前には斧を持った秀明がいた。
「あの時はすまなかったな、見殺しにしてよ」
「何度も言わせるな。言った筈だ、許さないと」
どれだけ謝罪を積み重ねても、俺は許さないぞ。人を恨むつもりはないけど、やったことを許そうとは思わない。
俺は剣を構える。
「あの剣を使え」
アロンブレイカーか。
「断る。あれは俺の切り札だからな。見せびらかすつもりはない」
「なら、無理にでも見せてもらおうか!」
秀明が斧を構える。
「それでは! はじめ!」
「うおおおおぉ!」
秀明が接近。斧を振り下ろした。俺は剣で受け止める。刃同士がぶつかり合う感覚から、やっぱり秀明パワー系だと実感する。力があり、技術も多少あった。
斧を押し返す。秀明は数歩下がり、また接近した。秀明の斧を俺は剣で受け流していく。数回やりあったら、秀明が引いた。
「【身体強化】【武装強化】!」
「【身体強化】【武装強化】」
秀明と俺はスキルを使う。【身体強化】は身体能力を強化し、【武装強化】は武器を強化する。どちらもファイターで入手出来るスキルだ。
「うらああああぁ!」
秀明の攻撃に合わせていく。斧の攻撃を受け流し、逆に剣を当て続ける。スキル使う前にだいぶ手の内を見せてくれたから、攻撃が分かってきた。これで少しずつ攻撃して、HPを減らしていく。
だが秀明も分かっていた。秀明が下がり、構える。
「【スラッシュ】!」
斬撃が飛んでくる。俺も剣に魔力を通した。
「【スラッシュ】」
秀明の【スラッシュ】を断ち切った。これを見た秀明は口角を上げて、再度構える。スキルの1つである【直感】が、来ると伝えてきた。俺は迷わず秀明に接近する。
「【パワースラッシュ】!!」
秀明の必殺技である【パワースラッシュ】を放った。【スラッシュ】の上位互換の技である。威力は【パワースラッシュ】の方が上。【スラッシュ】より斬撃が長く厚い。そんな斬撃と俺がお互いに接近する。
――ここだっ!
俺は【直感】に従い跳躍する。【パワースラッシュ】を跳躍して回避。
「なにっ!?」
倍の魔力を使い、
「【スラッシュ】!」
「ぐおおおっ!!?」
秀明に剣を振り下ろす。剣は秀明を切り裂く。これで秀明のHPはかなり減った。秀明は俺の一撃を受けて地面に倒れ伏した。
「しょ、勝者! 遠野和真!」
「やった!」
俺の勝利を認める声とそれを喜ぶ声が聞こえた。観客席を見てみると、明莉と比奈はハイタッチしており、竜之介は微笑んでおり、葵はとても驚いていた。
俺は剣を鞘に戻して、倒れている秀明を見る。
「手を貸そうか」
「いらん……」
秀明は横から胡坐で座り込んだ。さて、ここから質問していこう。
「秀明、聞きたいことがある」
「なんだ」
「お前に奏汰のことを教えたのは誰だ」
「っ!?」
これは、図星だな。秀明は誰かに奏汰のことを教えてもらったんだ。
秀明は少し真剣な表情をして言った。
「教えた奴はいる。だが誰ということに関しては分からねえ。なにしろあいつは仮面を付けていた。背丈や声からして男だろう」
間違いなくプレイヤーだろう。正体を隠してまで秀明と接触した理由は分からないけど。
「そこにいるのは誰だい!」
突然竜之介の大声が聞こえた。観客席を見ると驚いている3人と観客席の出入り口を見ている竜之介。そこから現れたのは、フードを被った仮面を付けた人物であった。
「あいつだ。あいつが教えてきたんだ!」
秀明が仮面の男、つまりプレイヤーが今いることを示している。プレイヤーを見つめる俺と竜之介と明莉達。次の瞬間、プレイヤーは逃げ出していた。
逃がしてたまるか。俺は駆け足で闘技場の舞台から立ち去り、闘技場の出入り口に向かう。
駆け足で向かっていると、反対側から竜之介が現れた。
「竜」
「……どうやら撒かれたみたいだね」
「そうらしいな」
「和真! 竜君!」
竜之介が通って来た道から明莉達がやってきた。
竜之介が小声で話し掛けてきた。
「どうする」
「……やめておこう。今は明莉達を巻き込む気にはなれない」
「そうだね。これは僕らの問題だ」
時間が経てば明莉達にも協力してもらうかもしれない。ただ、今は俺らプレイヤーの問題だ。巻き込みたくはないな。
「ねえ、さっきの人物は誰なの」
葵からの質問に答えるか。
「分からない。ただ、奏汰と秀明の戦いに関与しているのは確かだ」
「もしかして和真君、それを知っていて秀明と戦ったのかしら」
「……そうだな。仕組まれた戦いの裏を知りたかったんだ」
「もしそうだとしたら、いったいなんの為に」
葵が真剣な表情で考え始めるが、答えは出ないだろう。俺にだって分からない。何故奏汰に悪意を持つのか、どうして秀明に協力したのか。『謎』のプレイヤーだった。
今は放置するしかないかな。こちらに危害を加えなければだけど。
「……駄目ね。全然分からないわ」
「取り合えず、いったんここから出よう」
明莉の発言で闘技場から出る。出入り口にいた門番は倒れていた。恐らくプレイヤーがやったんだろう。俺達は保険の先生を探して、闘技場まで連れて行く。あとは先生方とDクラスでなんとかして欲しい。
「ねえ、貴方のことはどうすれば良いのかしら」
「そうだな、信頼出来る者には教えても良いぞ」
「そうさせてもらうわ。……私達も強くならないといけないわね」
葵は先にこの場を離れた。
俺達もここにいる用はない為、第一闘技場を離れた。
謎のプレイヤー。いったい何者なんだ?
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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