第28話 共有と一言

「和真!」


「竜さん!」


 先に言っていた筈の明莉と比奈が現れた。俺と竜之介はハテナマークが浮かび上がる。


「大丈夫!? なんか物凄い音聞こえたけど」


「「嗚呼……」」


 どうやら俺と竜之介の戦いが響いていたらしい。


「とにかく無事で良かったです」


 俺と竜之介は何も答えない。俺は殺す気で挑んだし、竜之介は覚悟を決めて聖剣を手に入れた。後の戦いは楽しんだだけ。困惑するだろうな。


「俺と竜之介、ちょっと話すことあるから、もう少し待ってくれないか?」


「良いよ。私と比奈ちゃんはメイメさんと一緒に話しているから」


 そんな感じでまた二手に別れたのだった。




 俺と竜之介は転移部屋にいる。簡単な情報交換を行うことにした。お互いのことを知る為である。男同士、何も恥ずかしがることはない筈だ。


「僕は比奈の運命を変えたい」


「それは、闇堕ち回避ってことか?」


「そうだね。……闇堕ちしてもしなくても、僕は比奈を出来る限りハッピーエンドにしたいんだ」


 比奈はレジダンのメインストーリーで闇堕ちする。努力して、親しみ深い彼女が闇堕ちしたのはプレイヤー全員が驚いたと思う。俺は驚いた。

 闇堕ちした後は夜桜高校を退学する。が、再び闇堕ちして主人公達と対峙。最終的に心が壊れるという……悲惨な最後を遂げていた。


「比奈が推しだから、助けたいのか?」


 別に悪いことじゃないけど、聞きたかった。


「推しなのは否定しない。ただ、僕は比奈に惚れている。好き、なんだ」


 なんて答えれば良いか分からないけど、良いことなんだろうな。好きな人の為に、運命に立ち向かう。俺じゃあとても真似出来ない、凄いことだ。


「僕も良いかな。明莉ちゃんとはどんな関係なんだい」


「友達だよ。信頼出来る友達」


 多分それ以上でもそれ以下でもない。明莉に聞いたらなんて答えるんだろうな。


「成程ね。和真はそう答えるか」


「明莉も同じ返答をするだろ。それより、この世界に入る前の記憶あるか?」


「嗚呼、あるよ。とは言っても、イベントのことはさっぱりで、選択肢が出てたことしか覚えていない。そしてカスタムキャラでこの世界に来ていた感じだよ」


「分かるのか? 自分がカスタムキャラだと」


 俺にはさっぱり分からない。カスタムキャラだと分かっていたら、俺は真っ先に竜之介を疑う気がする。


「オープニングにいなかったからね。それに、レジダンでも僕はいなかった。モブだと考えた日々もあるけど、クラスメイトの数がレジダンと違うから、僕は自分がカスタムキャラだと思うんだよね」


「そういうものか。……確かにモブにしてはイケメンだ」


「和真もイケメンだと思うけどな」


「そうか? 考えたことなかった」


 情報交換が楽しい雑談になっている。俺は最後に謎のプレイヤーについて語り出す。


「竜はどう思う。奏汰に悪意を持ったプレイヤーのこと」


「僕らと同じで、イベントをクリアしたんだろうね」


 ならばそれ相応の実力者か。厄介事にならないと良いけどな。もしなったら、俺と竜之介でなんとかするしかない。


「そろそろ戻ろうか。比奈や明莉ちゃんが待ってる筈だよ」


「そうだな。また分かったことが増えたら情報交換しよう」


「分かったよ」


 俺と竜之介は転移部屋を出て、明莉と比奈、その場で話し合っていたメイメと合流した。会話した内容は伏せておくことにする。




 こうしてダンジョンを出ようとした時に、


「あの、1つお願いしたいことがあるのですが、良いですか?」


 比奈から声が掛かった。俺と竜之介は分からない。明莉と、店からメイメが見守っている。


「良いよ」


「私、ギルドを作りたいんです!」


 レジダンではギルドが存在している。探索者を支援するのが、探索者協会。探索者が集まった組織をギルド。そんな風に分けている。


「どうして?」


「私、今のEクラスの現状を変えたいんです。これで結果を残せば、Eクラスの立場も変わると思うんです」


「つまり、Eクラスの現状と立場を変えたいのか」


「はい!」


 そうか。それはなんとも……つまらなくないか?


「比奈がEクラスを想う気持ちは分かった。だが、俺は反対する」


 比奈が両目を見開いた。明莉とメイメも驚いている。


「Eクラスの為にギルドを作る奴は後からでも現れる。比奈がどう思っているのか分からないが、俺はEクラスに対して思い入れはない」


 薄情だと自分でも思う。だけど、仲間かと言われたらそうでもないし、友達でもない。これらの問題は奏汰達が解決してくれるだろう。


「だからこそ言える。Eクラスの為に頑張って、必死に努力して……比奈は満足出来るのか?」


「私は、みんなが強くなってくれたら、居場所になってくれたら、それで良いんです」


「……残念だけど、Eクラス全員を強くするのは無理だ。居場所は良い考えだと思うぞ」


「和真さんは、もしギルドを作るなら、どんなギルドを作りたいですか?」


 俺は考える。どんなギルドを作りたいか。


「そうだな。仲間達と一緒に楽しい事したり、雑談したり、レベル上げたりする。仲間と一緒に過ごしたい。一緒に強くなっていきたい。これが俺の求めるギルドだ」


「……夢がありますね。私はEクラスの現状と立場が変わればそれで良いと思ってました」


「Eクラスの現状はいずれ変わる。評価とか立場とかは、結果を残せば変わっていく筈だ」


「そうですか。……少し考えてみようかな」


 比奈はギルドを作るのを保留にする様子だ。まぁ、これで良いと思う。比奈がEクラスの為に努力するし、多分無理もするだろう。

 ……ギルドかぁ。


「……なぁ、俺達でギルド作らないか?」


「「「!?」」」


 俺はギルドを作る予定は無かった。レジダンでもギルドに入っていなかった。けど、比奈と話をして居場所は必要だなと思った。たとえレジダンの物語に巻き込まれることになってもだ。


「俺は明莉、竜や比奈と一緒ならありだと考えてる。どうだ、ギルドをやってみないか」


 それぞれが考える。真っ先に答えたのは、


「うん! やってみよう!」


 明莉が元気よく答える。


「僕も仲間にいれて欲しい。僕自身強くなりたいんだ」


 竜之介が爽やかなで、決意したように答える。


「私も仲間に入れて下さい! 一緒に歩んでみたいんです!」


 比奈が覚悟を決めて答えた。


「ありがとう」


 俺は感謝の言葉を口にした。

 ギルドは夜桜競技会が終わった後に作ろうと考えたのだった。





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