第26話 ワイバーン

 竜之介が聖騎士王……じゃなかった聖騎士団団長でありプレイヤーだと発覚した翌日。俺はまたクラスメイトの後方に位置していた。だが今後クラスメイトに付き合うようなことはしない。今日からサボる予定である。

 俺がいる場所には明莉と竜之介、比奈がいた。


「今日から俺は訓練をサボる。明莉と竜之介には俺と一緒にレベル上げをしないか?」


 もっとも、今日の目的は別にあるんだけどな。


「私は良いけど、ちゃんと許可貰ったの?」


「許可、取ってないけど……」


「駄目だよ、ちゃんと奏汰君達に許可貰わないと。私も一緒に行くから」


 ここまで言われると流石に行かないといけない。まぁ勝手に訓練抜けて、要らぬ恨みを貰っても仕方ないか。明莉の言う通りにしよう。


「僕からも良いかな」


「なんだ?」


「比奈も一緒に連れて行きたいんだけど、構わないかな?」


「竜さん」


 これは驚いた。比奈を連れて行くとストーリー上厄介なことになる。強くなるほど危険だ。竜之介だって分かっている筈。

 比奈はメインストーリーですることを。

 俺達は一度止まる。


「俺達について来れるのか?」


 俺は意地悪な質問を繰り出す。比奈は真剣な眼差しで見つめてきた。


「私だって強くなりたいんです。お願いです、私も連れて行って下さい」


 比奈は頭を下げてきた。強くなりたいのか。理由はどうあれ、


「良いぞ」


 一緒に強くなる仲間が増えた。俺と竜之介に明莉がいるから、闇堕ちしてもなんとかなるだろ。闇堕ちした後も、俺達が支えれば良いだけだ。


「っ! ありがとうございます」


 比奈は表情を緩めて感謝する。明莉も傍に来て「これからよろしくね」と伝えていた。俺は先頭に向けて歩き出す。明莉、竜之介、比奈も来ていた。先頭にいる奏汰の肩を叩いた。


「ん? 和真、どうしたんだ?」


「俺達、今日から特訓抜けるね」


 先頭が止まる。後ろも止まった。振り返った奏汰以外の仲間達と淳一は冷たい視線で睨み付けている。


「……分かった。俺からみんなに伝えておく」


「そうしてくれると助かる。ありがとう」


 奏汰が話の理解が出来る人で助かった。周りは驚いているけど、俺の実力知らないから仕方ない。……いや俺と竜之介がコボルトを木剣でボコボコにしたから知っているか。

 取り合えず、俺達は奏汰から許可を貰って今日から訓練を抜けるのだった。




 俺達は奏汰達より先に4層に来て、そのまま通り過ぎる。5層に入って、竜之介が転移部屋へと案内する。比奈はとても驚いていた。あと、竜之介に転移部屋と呼んでいることを伝えた。

 5層では美琴と両親がトレインレベリングをしていたらしく、ちょうど休憩中だった。美琴は俺達を見るなり寄って来た。


「ねえ、何処に行くの?」


「嗚呼、10層に連れて行くつもりだ」


「10層!?」


 比奈が驚く。まさか10層に行くとは思いもしなかったのだろう。だけどこれからは10層以下も降りていくつもりだ。


「和真、大丈夫なの?」


「あれはイレギュラーだと思う。それに俺がなんとか……明莉達もいるから大丈夫だ」


「そうだね」


 明莉がやる気に満ちていく。


「私、まだレベル7なのですが」


「それくらいなら大丈夫だ」


「大丈夫、僕達がついている」


「竜さん……分かりました! 行きましょう、10層へ!」


 比奈がやる気に満ちた表情で宣言した。俺達は10層へ向かう。

 美琴は両親のトレインレベリングに付き合って貰う為、今回は行けなかった。今度また連れて行くからな。




 10層へ到着した。魔物が襲い掛かってきたが、俺と明莉を中心になって撃退していった。竜之介も魔物を撃退していた。比奈は残念だけど攻撃すら出来ない。そういえば気になっていたことがあった。


「比奈さん、武器を変えたか? 槍から杖になっているけど」


「はい。竜さんに提案されて杖にしたんです」


「もしかしてだけど、比奈さんはSTRよりINTの方があるのか」


「凄い! よく分かりましたね。それで私は杖にしたんです。もっとも、スキルはありませんけどね」


 確かに比奈は闇堕ちした時、よくスキルを使った魔法攻撃を主体にしていた。この時からINTの方が高かったんだな。序盤で槍を使っていたのは、スキルが無かったからだろう。


「分かった。レベル10になってジョブを習得しよう」


「和真さんも竜さんと同じことを言うんですね」


「……偶々だ。確認したいことはやったから、部屋に入るとするか」


 俺達はボス部屋に足を踏み入れる。ボス部屋にヴィザムの姿は無かった。俺は空を見上げる。


「どうしてここは、こんなに空間があるのかな」


 竜が質問をする。ここのボス部屋の構造は縦長に作られている。それは何故か。答えは上から来てくれた。


「ギャオオオオオ!!!」


「ひっ!?」


「これって!?」


 茶色の体を『竜』が現れた。地面に着地すると、翼を大きく広げて俺達を威嚇する。これが本来のボスモンスター。『ワイバーン』である。

 俺は剣を抜く。


「明莉は俺に【ホープアップ】。ワイバーンが飛んだら【ファイアーボール】で当ててくれ。竜、比奈は少し離れた場所で待機」


「分かった! 【ホープアップ】!」


 【ホープアップ】を授かった俺はワイバーンに接近。剣とワイバーンの爪がぶつかり合う。ワイバーンを押し返すと、剣で胴体を切り裂いた。もう一度攻撃を仕掛けてくるワイバーンに、同じ方法で対処して切り裂いた。

 ワイバーンは溜まらず空へ飛ぶ。


「【ファイアーボール】!」


 ここで明莉の追撃【ファイアーボール】がワイバーンに炸裂する。体がよろめいたが空中で大勢を整える。これはあの攻撃が来るな。

 ワイバーンが翼を大きく広げる。俺は明莉の前に出た。竜之介も比奈の前に出る。


「明莉と比奈は俺達の後ろにいろ。俺が駆け出したら明莉は【ファイアーボール】でワイバーンを落としてくれ」


 俺はそれだけ言うとワイバーンを見つめる。ワイバーンは両翼から緑色の衝撃波を飛ばしてくる。範囲攻撃だから厄介である。

 俺は衝撃波を剣で相殺する。衝撃波が止まると俺は一歩前に出た。


「ファイアァァボーール!!」


 巨大な火炎の球がワイバーンの左翼に直撃する。これ、前と同じようにMPを倍に支払ったな!

 明莉のおかげでワイバーンは落ちていく。しかしHPはまだ残っているのか消滅しない。俺は落ちていくワイバーンに近付いて、首元を切り裂いた。ワイバーンが地面に落ちるとそのまま消滅。大きな魔石とコインがあった。

 【アイテムボックス】に回収する。


「凄いですよ明莉さん、今の【ファイアーボール】どうやって出したんですか!」


「それはね、魔力を倍に消費したんだ。威力が上がって良かったよ」


「魔力、つまりMPを必要以上に消費したのか。和真は知ってたのかい」


「知ってたよ。俺も前それで助かったからな」


「これは……本当に凄いね」


 竜之介と比奈は驚いていた。


「それじゃあ、明莉は比奈さんを連れてメイメさんの所へ案内してくれ。ほら、これ」


 コインを明莉に投げ渡す。


「うん、分かったけど、竜君と和真は?」


「……少し話があるんだ。出来れば2人きりが良い」


「分かった。先に言ってるね」


 明莉は比奈を連れて10層を進んで行く。俺と竜之介はボス部屋に残った。





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