第25話 楽しき戦い

 俺は多分、退屈な訓練を受けようとしている。4層での訓練なんてコボルトを使った回避の練習くらいしか使わないんだけどな。

 現在、クラスメイト全員でダンジョンを潜っている。闘技場では上位クラスや部活で使われている。4層でやるのは苦肉の策だった。4層でやるのにあたってクラスメイトの大半は騒がしい。初めて来る人もいるからかな。

 先頭は奏汰達が引き受けている。俺は後ろに歩いていた。さてさて、どんな訓練になるんだろうか。




 俺達は4層に到着した。周りにコボルトはいない。装備は剣を腰に掛けている。

 すると奏汰達が大きめの鞄から木剣を出してみんなに配り始めた。俺も木剣を受け取る。


「二人一組になって、模擬戦をしてもらうわ。残った人は私達の誰かとやることになるわよ」


 その一言でクラスメイトは慌ててペアを探し始めた。ペアを見つけたら各自で模擬戦をすることになる。模擬戦と言っても、多分剣を合わせるだけになるだろう。

 明莉も比奈と一緒に組んでいる。竜之介は、淳一と組んだらしい。俺は誰とすることになるのか。


「和真君」


「ん?」


「俺とやらないか」


 真剣な表情をした奏汰が背後にいた。振り返りながら考える。どうして奏汰はここまで真剣なのか。俺はこれでも最弱と呼ばれてる身。もしかして、強くする為に力を貸そうとしているのか?

 丁度良い。どのみち戦ってみたいと思っていたんだ。理由は勘違いっぽいけど、戦えば晴れるだろう。


「分かった。戦おう」


「よろしく頼む、和真君」


「呼び捨てで良いよ、奏汰」


 奏汰は木剣を構える。俺も木剣を構えた。


「行くぞ!」


「来い」


 奏汰が地面を蹴った。木剣が振るわれる。俺はその一撃を受け止めた。スキルを使っていなければこんなものか。それとも加減してくれているのか。


「っ!?」


 奏汰は驚いた表情をしながら、一歩下がる。驚くか、実力隠していたから無理もないな。


「この程度なのか?」


「っ! まだだ! はああぁ!」


 奏汰が再び接近する。木剣を振った。俺はそれを受け止める。奏汰が攻撃をして、俺が防御する。攻防が続いた。

 うん、良い攻撃力だと思う。日々鍛えていることが分かる。5層でも通用するのも納得だ。剣筋は基本の型に当てはまっている。……ただ、対人戦を経験していないな。俺が知る限りだと秀明くらいか。

 俺が何年レジダンやってきたと思っている。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 気付けば奏汰は息切れしていた。全力でやっていればこうなるか。対する俺は息切れしていない。レベルを上げてスタミナがついたのか、トレインレベリングをしたからなのか。……どっちもだな。

 俺は攻撃を押し返す。奏汰の両腕が上がった。そこに素早く突きを放つ。首の前で寸止めした。


「……参った」


 奏汰は木剣と両手を上げて降参する。なんとか1本取れた。見ると奏汰は悔しそうな顔をしている。秀明に続いて俺にも負けたから悔しいのだろうか。


「和真は、強いんだな」


「ここで訓練する必要が無いくらいには強いぞ」


 奏汰は納得した表情をする。


「俺ももっと強くなるから、その時はもう一度戦ってくれないか?」


 奏汰が真剣な表情で俺を見つめる。それは俺に対する挑戦だった。……奏汰が強くなればメインストーリーは何とかなるだろう。強くなると言った以上前の奏汰よりは強くなっている。


「良いぞ。いつでも受けて立ってやる」


「その時は負けないぞ、和真」


「俺も勝ちは譲らないぞ」


「今日はありがとう」


 奏汰が手を出す。俺も手を握り返した。まさか握手を求められるとは思ってなかったけど、良いものだ。


「くそっ!」


 近くから叫び声が聞こえた。俺と奏汰は淳一の声がした所に視線を向ける。そこには両手両膝を地面に付ける淳一と困った表情をした竜之介だった。これは完全に竜之介にやられたな。


「あっ、その、なんて言えば良いのかな」


「素直に俺の勝ちだ、また戦おうで良いんじゃないか?」


 俺は竜之介に近付く。奏汰もついて来た。奏汰は淳一に駆け寄る。


「何があったんだ?」


「完敗だ。手も足も出なかった」


 奏汰が驚いた表情をする。これでも淳一はクラスの中では強い分類。それに勝った竜之介の実力は淳一以上だ。

 ここで竜之介が俺に近付いてくる。


「和真、勝負しないかい?」


 竜之介が勝負に誘ってきたのだった。




 俺と竜之介は広さのある草原に移動した。周りには奏汰と淳一、模擬戦終わりの明莉と比奈がいた。


「それじゃあ、やろうか」


 竜之介が木剣を構える。その構えに既視感を覚えた。俺も構える。

 先に動いたのは竜之介だった。


「はあああぁ!!」


「っ!?」


 俺は木剣で受け止める。竜之介、本気だな!?

 じりじりと木剣を押していく竜之介。俺は竜之介を押し返した。


「中々やるね」


「そうか? 俺はまだやれるぞ」


「……そうだったね!」


 竜之介が再び攻めてきた。木剣が激しくぶつかり合う。攻撃の竜之介と防御の俺。


「攻めてこないのかい?」


 竜之介が挑発してきた。


「まさか」


 俺は木剣を力いっぱいに振った。運が良ければ押し返そうとしたかったが、竜之介は受け止めるのではなく後退した。音だけがする。

 俺の攻撃を読んだか。それにこの既視感の正体にも近付けそうだ。


「今のは凄いね。僕との実力差を感じたよ」


「違う。実力差ではなく単なるレベル差だ。実力だけなら竜は俺よりも凄い、そんな気がしてならない」


「そう言われると嬉しいな。でも手は抜かないよ。和真の実力を知りたいからね」


 それは俺をプレイヤーだと理解した上で言っているのか。もし竜之介が奏汰に悪意を持ったプレイヤーなら……いや、違う。俺の直感だが、竜之介はそんなことをするとはどうしても思えない。

 だから、


「そうだな。全力で挑んでやる」


 俺は構える。


「嬉しいよ。僕も全力で行く」


 竜之介が構える。


 同時に踏み込んだ。俺と竜之介は互いに攻防する。木剣がぶつかり合う。縦横上下に木剣を振るい続ける。今の自分はダークナイトの戦い方をしている。竜之介はその攻防についてきていた。

 竜之介が微笑んでいた。まるでこの戦いを楽しんでいるように。……俺も笑っていた。自然と口角が上がる。

 分かってきたぞ。お前の戦い方、その正体を!


 いつまでも続いて欲しいと心から願った。だが、勝負に永遠はあり得ない。


「ふん!」


「っ!?」


 力押しで竜之介の木剣を弾いた。俺は木剣を心臓に突き立てる。寸止めで止めた。


「俺の勝ちだ」


「降参、僕の負けだよ」


 俺は木剣を降ろして竜之介に近付く。そして小声で会話をする。


「お前、聖騎士王だったんだな」


「それは勝手に呼ばれてた2つ名だよ、知っているだろダークナイト」


「そうだったな。だがいい加減認めろ。それほどの実力があるんだ『聖騎士団団長』」


 俺と竜之介はレジダンでPK(プレイヤーキラー)とPKK(プレイヤーキラー・キラー)で、何度も死合を繰り返した強敵とも。俺が認める、最強のプレイヤーだった。


「竜はいつから気付いていたんだ?」


「和真が明莉を助けた辺りかな。本来の和真が『最弱』って言われてあんな対応するとも思えなかったからね」


「わざと、言ったのか」


「そうだね。むしろ、和真の気に触れたらちゃんと謝るつもりだったさ。……今更だけど、あの時はごめん」


「良いよ。俺自身最弱だと思っていたし、最強になろうと決めていたからそこまで気にしていない」


 これは本心からの言葉だ。


「ありがとう。和真は奏汰に悪意なんか持っていないんだろ」


「そうだな。元悪役モブだが、俺が主人公と関わるメリットは無い。それこそ破滅にまっしぐらだろ」


「はは、そうだね。どうりでフラグとかに恐れる訳だよ」


 笑っているが、俺にとってフラグは恐怖でしかないのだ。


「和真君、凄かったよ」


「竜さん、惜しかったですね」


 ここで明莉と比奈がやってきた。周囲を見渡すと奏汰がここまでやってくるのと、淳一が悔しがっていた。


「2人共凄いよ。ここまで出来るなんて思ってもみなかった」


 奏汰が純粋に褒めてきた。


「僕はまだまだだよ」


「言ってろ。どうせ化ける」


 竜之介は強くなる。レベル差が無ければ俺と互角かそれ以上だ。


「うっ、うわああああああぁ!? コボルトが、コボルトがこっちに来ている!!?」


 生徒の悲鳴が聞こえた。見ればコボルトがこちらにやってきている。数は珍しく10匹だが、それだけでクラスメイトの大半は騒いでいた。


「不味い!」


 奏汰は駆け足でコボルトに向かう。見れば葵、心音、柊翔が向かっていた。


「どうだ、どっちがコボルトを速く狩れるか勝負しないか?」


「良いね。奏汰君達の邪魔にならない程度に勝負しようか」


 お互いに頷くと、同時に飛び出していた。初速は俺の方が速い。

 木剣で相手をする俺と竜之介。コボルトは魔石になっていく。5匹くらいは奏汰達に任せるとしよう。そうやって狩っていくと、コボルトは最後の1匹になっていた。


「「もらった!」」


 俺と竜之介が攻撃する。狙いは頭。竜之介も頭狙いだった。木剣は俺の方が速い。木剣を当てられたコボルトは魔石になった。


「「この勝負」」


「俺の勝ちだ」

「僕の勝ちだね」


「「ん?」」


 俺と竜之介は同時に勝利宣言する。どう考えたって俺の方が速かった。


「負けず嫌いにも程があるぞ」


「そっくりそのまま返すよ」


 こうして俺と竜之介は議論する。どっちが速くあのコボルトを狩ったのか。と言っても遠くから聞いたらただの子供喧嘩に等しいかもしれない。奏汰達は俺達より後にコボルトを倒した。クラスメイトは黙っている。


「あの、今回は引き分けで良いんじゃないかな」


 結局、明莉の進言によって俺と竜之介の勝負は引き分けで幕を閉じたのだった。





ーーーーーーーー


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければフォロー登録と☆☆☆から評価をお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る