第23話 期待に応えたい
月曜日。俺はいつも通り夜桜高等学校で過ごしていた。授業を受けて昼食を取る。最近は明莉と一緒に食べる機会が増えていた。
午後にまた授業を受ければ放課後になる。俺は教室を出ようとした。
「みんな、待ってくれ!」
奏汰の号令が教室中に響く。気付けば奏汰と秀明と葵の3人が教壇の後ろに立っていた。俺達クラスメイトは足を止める。
「良いから座れ」
淳一の発言にみんな席に座っていく。俺も席に座った。……嗚呼、もしかして。
「今日、みんなを呼び止めたのは『夜桜競技会』について話すべきことがあるからなんだ」
その発言に教室中が騒めいた。みんなは知っているみたいだな。
夜桜競技会。簡単に言えばダンジョンを使った体育祭みたいなものである。学年別でポイントを競い合う。メインストーリー最初の出来事だ。
俺もレベルを上げて夜桜競技会に備えないとな。
「俺達は事前に競技を振り分けた。今から振り分けを発表するから聞いてくれ」
奏汰達が決めたんだ。まぁ、みんなDクラスの件で完全に気が沈没していたから仕方ないね。
競技は3つある。『宝探し』、『魔石取り』、『階層比べ』だ。
『宝探し』は教員と協力者である探索者が隠した宝物を見つけること。宝によって得られるポイントが異なる。『魔石取り』は魔物をとにかく倒して魔石を集めていく。得られるポイントは魔石の種類によって異なる。『階層比べ』は単純に階層を比べ合う。各階層にいる魔物を倒して魔石を取る必要がある。
クラスメイトの殆どが魔石取りに配置された。実力的に合っているだろう。意外だったのは奏汰と仲間達が魔石取りに配置されたことだろうか。
明莉は宝探しに配置された。組んだチームがなんと竜之介と比奈だった。これは安心出来るな。淳一も数人と組んで宝探しだった。
発表されていない階層比べ。名前はほぼ出されていた。……俺の名前以外は。
「最後に階層比べなんだけど、勝率が低いから1人配置することにした」
「そしてそれに選ばれたのは――」
「淳一!」
淳一が近付いてくる。奏汰は止めようと声を掛けるが止まらない。葵も呆れていた。止まったのは俺の前であった。
「お前だ。最弱野郎」
「……俺には遠野和真という名前があるんだけどな」
「っ!?」
俺は堂々と淳一を見つめる。淳一は驚いたような顔をしていた。
「待って下さい! 和真君を1人だけ配置するのはいくら何でも危険じゃないですか!」
「私もそう思います! いくら勝率が低いからって1人だけ配置は危険です!」
明莉が立ち上がり反論する。それに続くように比奈も反論してくれた。悪いが淳一との視線を外して奏汰を伺うと苦しい表情をしていた。
席から立つ音が聞こえる。柊翔だった。
「なら彼を何処に配置すれば良い。誰を勝率が無い場所に送り込めば良い。僕はその男以外あり得ない」
「だけど1人は危険だよ!」
「でも僕達が勝つにはこれしかないんだ! 最弱である彼は何処に行っても足を引っ張るだけだ!」
「っ! 彼は最弱なんかじゃ――」
「明莉、もう良い」
俺の言葉に反応して明莉は口を閉じてくれた。何かを言いたげだったけど大丈夫だ。大体分かる。一瞬言葉を区切ったのは俺の秘密を守る為だったんだよな。それでも俺を想って秘密を破ろうとまでした。本当にお人好しだ。だけどこれ以上は彼女の立場が危うくなってしまう。あとは俺に任せろ。
「明莉、俺を信じてくれ。1人で大丈夫だ」
「……うん。すみませんでした」
明莉は一言謝罪と礼をして席に座った。比奈も同じようにして席に座る。
「また明莉ちゃんを助けた……」
なんか声が聞こえたけど気にしないことにしよう。俺は立つ。
「クラスの期待に応えられたら良いと思ってる」
周りを見渡しながら言う。とは言っても多分淳一が指名したんじゃないかな。
「ならせめて5層までは行けよな」
「5層でも良いが、別にそれより下の階層に行っても構わないんだろ?」
「!?」
俺は自信あり気に答える。その返答に淳一が驚いていた。言ってみたかったんだよな、こういうセリフ。
ただ、淳一は青筋を立てながら言った。
「行けるもんならな!」
淳一は不満気に戻って行く。柊翔もいつの間にか座っていた。俺も座ることにしよう。少しの静けさから葵の言葉が聞こえてくる。
「気を取り直して、明日から放課後にダンジョンに行って訓練を行います。場所は4層。コボルトを見つけたら無暗に戦闘せず、私に声を掛けるか大声で叫んで下さい」
成程、4層で訓練か。サボりたいな。初日である程度実力を見せてからサボろう。だって俺や明莉にメリットが無さ過ぎる。
ただクラスメイトの皆は乗り気だった。みんな強くなれると思っている。頑張れ。
再び奏汰が声を出す。
「みんな、俺はDクラスに勝ちたい! みんなはどうだ!」
その声に反応してクラスメイトは叫ぶ。「勝ちたい」と。その声は徐々に上がっていく。
「なら俺達の目標は、Dクラスに勝つ! 俺達の力で、必ずDクラスより上になるぞ!!」
「「おおおおぉ!!!!」」
俺達は叫んだ。クラスメイト全員の目標が『Dクラスに勝つ』ことになった。
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