第19話 メイメのお店
俺達はイレギュラーなボスを倒して、10層を進んでいた。途中から分かれ道に入った。
「ここは?」
「右だな」
俺は迷わず右を選ぶ。右に進んで行く俺と美琴に明莉がついて行く。
更に進んで行くと行き止まりだった。大きな壁が立っている。壁の少し前で止まった。
「行き止まりだね」
「いや、ここが正解だよ。美琴を頼む」
「う、うん」
「お兄さん、壁に近付いて何を?」
「まぁ見てろ」
俺は壁に近付く。見れば窪みがあった。【アイテムボックス】からメダルを取り出す。これはボスモンスターからドロップしたものだった。
ゲームでも同じ仕様らしい。俺は壁の窪みにメダルを埋め込む。少し離れると壁が揺れ出した。
「これって!?」
壁が崩壊する。
「隠し通路!?」
目の前に広がるのは隠し通路。俺は興奮した。男というのは隠し通路とかのロマンを見ると興奮せずにはいられないらしい。
目的地はこの先だ。俺は美琴を再び背負う。
「進むぞ」
俺達は隠し通路を進んで行く。ここで明莉が声を掛ける。
「ねえ、進まなかった左は何があるの?」
「階層に降りる階段がある。ただ、こっちには隠し部屋にもう1つあるんだ」
「それって何?」
「アレだよ」
目の前に1つの店があった。明莉と美琴は驚いているだろう。ダンジョンの入り口ならともかく、ダンジョンの奥地で店があるとは思ってもいない筈だ。
「誰がやってるんだろう」
「分かんない」
「一先ずあの店に入る、前に先にこっちだな」
「? お兄さん、何もないけど?」
やはり美琴にも見えていないか。もしかしたら明莉も見えないのか?
「明莉、見えるか?」
「うん、見えるよ」
明莉は一度経験しているからか見えているようだ。よし、入るか。
「美琴には見えてないけど、ここには、『転移部屋』があるんだ。今から入るぞ」
「う、うん」
俺は店の隣の壁にある転移部屋に入った。
「ほんとだ、部屋があったんだ」
「そうだよ。私も初めて入った時は驚いたよ」
明莉が同情するように喋る。
俺達はテレポートリングを入手した。それと10層まで転移出来るようになった。
すると明莉が質問する。
「リング2つに増えたけど、どうやって区別するの?」
「同じ形をしているが、手に取れば分かる。……感覚的に理解出来るように出来ているんだ」
「……ほんとだ。リングの区別が出来る」
明莉は理解する。感覚で分かるようにテレポートリングは出来ていた。
「あと、5層でも同じ部屋あったけど、この部屋はそもそも何なの?」
明莉の質問はもっともだ。俺は返答する。
「5層のあの部屋と10層のここは同じだ。俺は『転移部屋』って呼ぶことにした。ゲームで言うならポータル部屋とか、セーブポイントに近い」
「そうなんだ」
「ダンジョン内では転移部屋以外に転移することは不可能だ。帰りは別だけどな」
「分かった、覚えとくね」
「私も」
俺は明莉と美琴にテレポートリングと転移部屋について説明した。
俺達は部屋を出る。ここによることも目的の1つだが、本命はこの店である。
店に入る。扉から鈴の音が鳴り響いた。店の奥から足音が聞こえる。そして姿を現した。
「いらっしゃいませ!」
金髪のロングヘア。褐色肌に長い耳。白のシャツに黒のスカートを着ている。上から黒のエプロンを付けていた。何より……胸が大きい。
そう、ここにいる彼女はこの店の店主であり、お助けキャラである。彼女の名前は、
「メイメと申します! 種族はダークエルフ! ここまでよく来てくれました!」
メイメはそう自己紹介をする。彼女はダークエルフだ。
メイメは俺達をじっと見ている。好奇心旺盛な瞳で、俺達のことを少しでも知りたいみたいな感じであった。すると美琴の足に視線が行く。
「あっ、怪我していますね。ちょっと待って下さい……はい、これ飲んだら良くなるよ」
メイメはポーションを持って来てくれた。俺は美琴を降ろす。美琴はメイメからポーションを受け取り飲んだ。美琴の怪我が治った。
「ありがとうございます、メイメさん」
「良いんです。
「……俺の妹の怪我を治してくれてありがとうございます」
「私も、ありがとうございます」
「良いってばぁ。……でも、感謝されるのも悪くないわね」
感謝する俺達とそれを見て微笑むメイメ。
「それで、ここまで何をしに来たのでしょうか?」
「ジョブを習得しに来ました」
俺はメイメにここに来た目的を話す。この店でジョブを取れば、夜桜高校に知られることはない。
「ジョブですね。ジョブの習得は無料でやっています。こちらに来て下さい」
メイメは店の奥へと案内してくれた。店の奥は広く4人が入る。中心には机と椅子があり、机の上には丸い水晶がある。
メイメが椅子に座った。ここでジョブを習得する。俺が行く。座るとメイメは説明を始めた。
「それでは、水晶に触れて下さい。貴方が習得出来るジョブが浮かびます。そこから選択してジョブを習得して下さい」
「分かった」
俺は水晶に触れる。すると頭と水晶にジョブが浮かんできた。『ファイター』『メイジ』『シーフ』が習得出来るジョブであった。
そうだな。ここは、ファイターを習得した。
「よし、ジョブを習得したぞ」
「ファイターにしたんだね」
「そうだな。無難な選択だ。次は、どっちだ?」
「私から行くね」
俺は明莉と交代する。遠くから美琴と一緒に様子を見て、浮かび上がったジョブからファイターとシーフが消えた。明莉はメイジを習得した。
「次は私!」
明莉と美琴が交代する。美琴はファイターを選んだ。
ジョブを習得した後、俺は明莉と美琴に近付く。俺の表情を見て何処か不思議そうな顔をしていた。……よく、俺のわがままに付き合ってくれた。信じてくれた。これはほんの少ししたお礼。
俺は両手を明莉と美琴の頭に優しく乗せる。
「よく、頑張ったな」
両手を軽く揺らす。明莉と美琴の頬は赤くなっていた。……やり過ぎたかな。
2人は微笑んだ。そして俺を見つめる。
「ありがとう、和真」
「嬉しいよ、お兄さん」
その微笑みが、あまりにも天使過ぎて! 頭が熱くなった気がした。心が射抜かれそうである。
「ふふっ」
メイメは俺達を見て微笑んでいたと思う。
さて、ジョブを習得してこれからは『ジョブレベル』を上げてスキルを入手しないとな。……あっ。
「そういえばやってなかったわ。【スローアップ】を【鑑定】」
俺は【スローアップ】に対して【鑑定】を使った。
【スローアップ】
レベルアップに必要な経験値が50%up
全ステータスの上昇値50%up
なるほどな。やっぱりレベルが上がりにくかったのは初期スキルの所為だったか。このスキルは、レベルが上がりにくい代わりにステータスを伸ばすスキルだ。こんなのはレジダンにはなかった。
つまり、俺がプレイヤーとして得た
「和真君、何か分かったの?」
「お兄さん、どうかしたんですか?」
「嗚呼、初期スキル【スローアップ】についてようやく分かった」
「そうなんだ、良かったね」
明莉がそう言う。
確かにずっと気になっていたことだから、それを知ることが出来たのは良かったかもしれない。それに、レベルは上がりにくいかもしれないが、ステータスの伸びが良い。レジダンの時よりも強くなるかもしれない。
レベルを上げにくいのはデメリットですらない。ここは工夫と回数を重ねていけば何とかなる。
俺自身最大の秘密も理解出来た。後は買い物を済ませよう。
俺は買い物をした。買ったのは『HPポーション』と『MPポーション』をそれぞれ12本。これがあれば万が一にも対応が出来るだろう。そのうち2本は明莉に渡した。
会計は夜桜パッドで支払った。
ジョブを習得し買い物を済ませた俺達は店の外に出ていた。メイメも見送る為に出てきた。
「本日はご利用ありがとうございます」
メイメがお礼に軽く頭を下げた。俺には言っておくことがある。
「メイメさん。理由は明かせないんですが、ここに俺達が来たことを内緒にしてくれないでしょうか? どうしても知られたくないんです」
メイメの発言でここに俺達以外来ていないことは分かっている。だから相手に情報を得られない為に秘密にしておきたい。
メイメは不思議な顔をしたが、笑みを浮かべた。
「分かりました。ここに来たことは内緒に致します。……またここに来ますよね?」
「またここに来ます」
「それでは、心からお待ちしていますね」
「はい。それじゃあ帰るぞ」
俺は明莉と美琴の手を繋ぐ。手にはテレポートリングを付けていた。
「またここに来ますね!」
「怪我を治してくれてありがとうございます!」
「良いんですよ! いつでも来て下さい!」
俺達はテレポートリングを使う。周囲が光に包まれた。メイメは笑顔で手を振っていた。
俺達はテレポートリングで転移した。
その後、俺達は家に転移する。家に上がったら本気で父さんと母さんが心配した。そういえばヴィザムと戦闘した時のままだった。
家は大騒ぎ状態になり、俺は問い詰められることになったのだった。
ーーーーーーーー
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
よろしければフォロー登録と☆☆☆から評価をお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます