第18話 絶剣

 ――ここは、何処だ? 俺は確かヴィザムに胸を貫かれて、気絶したんだ。

 真っ白な空間だった。全方面が白で塗りつぶされている場所。そこに俺は立っていた。

 俺と対峙するように1本のが台座に突き刺さっていた。それを俺は知っている。


絶剣ぜっけんアロンブレイカー」


 〈絶剣アロンブレイカー〉。全体が黒の魔剣。剣身も柄も黒かった。

 アロンブレイカーはストーリーの攻略後に手に入れた俺だけの魔剣。ドロップ率が低くて、俺以外に手に入れた者はいない。アロンブレイカーを手に入れられたのは奇跡だった。

 俺は二度と会えないと思っていたが、こうして奇跡は起きていた。


「……」


 俺はアロンブレイカーに近付いていく。どういう理屈で俺の目の前に現れたのかは分からない。俺のピンチに駆け付けたとかだと嬉しい。

 アロンブレイカーの柄を握る。


「俺は最強になりたい」


 俺はレベルを上げて最強になる。変わらない俺の目標。


「大切なものを守りたい」


 かけがえのない家族。父さん、母さん、美琴。友達である、明莉。俺は大切なものを守りたい。

 柄に入れる力が強くなる。


「俺にはお前が必要なんだ。応えてくれ、アロンブレイカー」


 俺はアロンブレイカーに語り掛ける。もしアロンブレイカーに意思があるのなら応えて欲しかった。……しかし返答は無い。俺の覚悟が足りないんだ。


「欲張りな魔剣だ」


 さて、俺が覚悟を決めるにはどうすれば良いか。……分かっている。

 俺はメインストーリーだけは変えないようにしてきた。夜桜高校では最弱で悪役モブの『遠野和真』を演じてきた、つもりだ。明莉に関わってから出来ていたか知らないけど。もしかしたら最初から出来ていないかもしれない。


 だけど、それも今日で終わりにしようと思う。最強の『遠野和真』になると決めたんだ。いずれはメインストーリーというに立ち向かうことになる。

 だから、俺が覚悟することが後一つ。


「俺は運命に立ち向かう。良い未来とか運命を変えるつもりはないけど、嫌な未来と運命は変えたい。

運命と戦う為に、力を貸せ! アロンブレイカー!!」


 アロンブレイカーは黒く光り輝いた。俺はようやくアロンブレイカーに認められたんだ。

 俺はアロンブレイカーを台座から引き抜いた。瞬間、優しい黒で景色が塗り潰された。




 俺の意識が浮上する。目を覚ますと俺は地面に背中がついていた。3秒以内に立ち上がる。所謂3秒ルールに則った。


「和真君!!」


「お兄さん!!」


 明莉と美琴から歓喜の声が上がった。ヴィザムは俺ではなく明莉と美琴に標的を変えていたようだが、俺が起き上がったのに気付いて振り返った。

 俺のHPはかなり削られている。危険な状況だ。ただ、俺は言った。


「胸を貫かれた程度で死ぬと思うなら大間違いだぞ」


 こうは言ったがただのかっこつけである。ヴィザムは俺に歩みを進んでくる。今度は確実に俺の心臓でも貫くつもりだろう。

 俺は左腰に右手を置いて【アイテムボックス】を展開。柄が出てきて、俺を掴んだ。引き抜くと俺の魔剣が姿を現した。


「それって!?」


「なに!?」


「絶剣アロンブレイカー」


 全体が黒い魔剣。剣身も柄も黒一色。それが絶剣アロンブレイカー。

 驚いている所悪いが、明莉には俺を強化してほしい。


「明莉!」


「! 【ホープアップ】!」


 【ホープアップ】を授かった俺はヴィザムに近付く。ヴィザムも俺に近付いていた。リベンジさせて貰おう。


「続きをやろうか。長くは掛からないだろ」


「!」


 ヴィザムが接近する。真紅の槍が今度こそ俺の心臓を貫こうとしていた。ただ、分かっているんだよ。

 俺はヴィザムによる刺突を避けた。アロンブレイカーを振り下ろす。


「!?」


「先程とは比べものにならないだろ。絶剣アロンブレイカーは魔剣だ。だから、物理と魔法の両方を攻撃として与えることが出来る」


 魔剣の特性はSTRとINTの攻撃を与えられることにある。さっきの普通の剣よりも倍の攻撃を与えられただろう。【ホープアップ】もあるから大ダメージは確定だ。

 それでも耐えるとは、俺のレベル不足だな。ただ、ヴィザムは後退した。


「そろそろ決めるか」


 俺はMPを1まで消費する。MPを消費することでSTRとINTを強化する。消費した分だけ増加することが出来る。

 アロンブレイカーの剣身が黒く光り輝いた。


 俺とヴィザムはお互いに接近した。ヴィザムは今までよりも早い突きを出した。狙いは心臓、ではなく頭。もう狙えないと判断したんだろう。

 俺は、アロンブレイカーを振り上げて槍を弾き飛ばした。


「ふんっ!!」


 アロンブレイカーを振り下ろす。ヴィザムの体に深く刻み込まれる。骨を砕く音がした。地面に黒い光が走り、亀裂が入った。アロンブレイカーを引き抜く。まだヴィザムは意識はあるようだが、HPは0。膝から崩れ落ちる。

 俺は冥途に土産に名乗りを上げる。


「俺の名は遠野和真。またの名を、『ダークナイト』」


 ヴィザムの瞳から光が消える。そのまま消滅した。地面に魔石は無く、メダルが落ちていた。

 結界が壊れる。




 気が付けば元いた部屋に戻っていた。風景も数分前にいた場所だった。

 俺はヴィザムを倒してレベルが上がった。明莉と美琴もレベルが上がっているだろう。

 地面に落ちているメダルを回収する。このメダルは後に必要になってくるものだからだ。さてと、明莉と美琴の元に行くか。


「まさか、倒したのか! その剣はいったいなんだ!?」


 驚いたような声が聞こえて前を向くと秀明がいた。俺達がヴィザムを倒したことに驚いている。両手は赤く、手にはポーションを持っていた。

 明莉は美琴を守るように前に立った。俺は秀明に近付く。


「協力して倒したんだよ。お前は何しにやってきた」


 少なくとも争うようなことは無い筈。遺体の回収だろうか。それで1人は可笑しいがな。

 近付いてきた俺に、秀明はポーションを投げ渡してきた。手荒な人だ。ポーションを受け取った。


「すまなかった。とても許されることじゃないことは分かっている。だが、どうしても謝りたかった」


 頭を下げる秀明。謝罪かぁ。俺の答えは決まっている。


「許すつもりはない」


 明莉と美琴を犠牲しようとした奴らは許さない。どれだけ謝罪しようがそれだけは揺るがないと思う。……ただ秀明の拳が返り血で赤いから粛清されてそうなんだよな。


「私も貴方達がやったことは許しません」


 明莉が口を開いた。


「だけど、ポーションを渡してくれてありがとうございます」


 明莉は感謝の言葉を呟く。その後、視線を遺体の方へ向けた。


「彼らはどうするんですか?」


「あいつらの遺体は後で俺達が回収する」


「……よろしくお願いします」


 相変わらず明莉はお人好しだな。遺体の方へ目を向ける。……少しだけ黙祷した。

 俺は明莉と美琴に近付く。そしてポーションを美琴に渡そうとするが、


「お兄さんが飲んで! 飲まないと心配で泣きそうになる!」


 その声は震えていた。涙目になっている。相当心配を掛けたらしい。……足は後で行く場所で治すか。

 俺はポーションを飲んだ。胸の傷が癒えていく。傷は完全とはいえないだろうが治った。明日、明後日には完治するだろう。


 俺はアロンブレイカーを【アイテムボックス】に仕舞う。姿勢を低くする。


「えっ?」


「背負ってやるから乗れ。こんな機会は滅多にないぞ」


「ありがとう」


 俺は美琴を背負う。……成長したな。俺と明莉は立ち上がる。


「それじゃあ、俺達は進むから後は勝手にしろ。もう二度と顔を合わせたくないもんだ」


「私達はここで失礼します。彼らのことをよろしくお願いします」


 俺達は先に進んで行った。





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