第15話 奏汰の戦い

 月曜日。今日は奏汰と秀明の対戦がある日であった。

 登校して教室に入れば、奏汰を中心にクラスメイトが集まっており、声援を送っていた。


「頑張れ奏汰!」

「あんな奴やっつけちゃえ!」

「期待しているぞ奏汰!」


 等々、奏汰を期待している声は多かった。期待するのは良いが、負けた時の反動が怖いな。

 俺も何か言うべきだろうか。でも変に言って場の雰囲気をぶち壊すも嫌だな。俺は席に座るか。

 俺は奏汰に視線を送るも、すぐに席に座った。


 俺が席に座るのと同時に明莉が近付いて来た。


「どう、奏汰君勝てるかな?」


 どうやら奏汰の勝率について聞きたいらしい。


「やってみなきゃ分からないな。ただレベル差があって勝つにはそれ相応の実力が必要になる。スキルがあるからと言って油断は出来ない」


 勝負には運も奇跡もついてくる。ただ、これらは可能性が低くて望むようなものじゃない。


「何処までいけるのやら……うーん」


「どうしたの?」


「……嫌な予感がする」


 俺の発言と同時に教室の扉が勢いよく開く。秀明率いるDクラスがやってきた。

 教室中のざわめきが一瞬で静かになる。秀明の前に奏汰が立った。後ろには奏汰の仲間であろう、柊翔、葵、心音の3人がいた。


「強くなったか?」


「嗚呼。必ずお前を倒して見せる」


 大きく出たな。そこまでの自信があるとは。

 秀明は笑っている。自分が勝つ自信があるのだろう。


「楽しみにしてるぜ、お前ら全員、必ず来い!」


 威圧を放ってくる秀明。レベル差があるのかクラスメイトは苦しい表情をする。

 俺らも威圧を感じ取るがそこまで苦しくはない。トレインレベリングの差、レベルを上げようと努力した差が出ているような気がした。


「逃げるんじゃねえぞ」


「当たり前だ。逃げも隠れもしない」


 奏汰の発言に口角を上げる秀明。完全に目を付けられてしまったようだ。

 秀明達は退散する。Dクラスの生徒達も笑っていた。違いを上げるなら、秀明は楽しみにしていた感じで、生徒達は馬鹿を見るような視線だった。


 秀明達が去った後、教室中は再び奏汰に声援を送るのであった。




 時間はあっという間に過ぎて放課後になった。

 俺達Eクラスは第二闘技場へ移動する。観客席には秀明を除くDクラスが全員揃っていた。


 俺達は対峙するように反対側へと座った。


「ここ良いかな?」


 俺の隣に明莉が聞いてくる。


「好きにしろ」


「うん」


 俺の隣に明莉が座った。それから後に彼らがやってきた。


「やぁ和真、明莉さん」


「竜君、比奈ちゃん」


「ここ良いですか?」


「好きにどうぞ」


「それじゃ、座ろうか」


 竜之介と比奈が来る。俺の隣には竜之介、その隣には比奈が座った。

 竜之介が小声で話し掛けてきた。まるで俺と明莉以外には聞いて欲しくないように。


「……和真、明莉さん。聞いて欲しいんだけど、今回の勝負――」


「言うな。結果は分からないぞ」


 俺はなんとなく竜之介の話を遮った。、と言いたいのだと考えた。だから止めた。言葉にするとフラグになるから。


「……そうだね。でも、覚悟だけはしといてくれ」


「それってどういうこと?」


「……明莉さん、竜の言葉を信じよう。俺は、覚悟するよ」


「和真君、分かったよ」


 俺は竜之介と視線を合わせて、その隣にいる比奈を見た。


「彼女には言ったのか?」


「言ったよ。覚悟をするって」


「……あまり言うなよ? フラグ立つから」


「ふふっ、和真は面白いこと言うね」


 そこまで俺がフラグを恐れるのが面白いか?


 俺達の小声での話も終わる。闘技場に奏汰と秀明が入場した。お互いに武器を持っている。奏汰が剣で、秀明は斧だった。

 舞台に立つと、2人は武器を構えた。審判はDクラスの先生である。両者を見る。


「はじめ!」


「やあああっ!」


 奏汰が接近した。剣を振り下ろす。だが秀明は斧で受け止めていた。秀明は奏汰を押し返す。地面を引き摺りながら奏汰は後退させられた。

 そのまま奏汰が攻めで秀明が守りの攻防が続いた。奏汰の攻撃を防いで押し返す秀明。周りのEクラスはそれを優勢だと判断したらしい。


「このまま攻め続けろ!」

「負けるな!」

「頑張れぇ!」


 だが、俺はそうは思えない。秀明に焦りの表情は無い。つまりここまでは予想通りなんだ。

 ゲームの秀明はここでの戦いを舐めた態度で挑んでいた。決してEクラスには負けないと油断していた。だから序盤の敵として現れた。そして負けるような存在だった。

 だが、今の秀明は違う。この戦い方に一切の油断なんてなかった。舐めていない。奏汰の実力を試しているんだ。


 奏汰が何度目かの押し返しを受けた。


「どうした? この程度じゃねえだろ」


 秀明は言葉にした後、左手で親指と人差し指と中指を動かして挑発した。

 奏汰はその挑発に乗った。


「これが俺の全てだ! 【マイティーアップ】!」


 奏汰の体が光り輝く。

 【マイティーアップ】を習得していたのか。このスキルは全ステータスを上昇させる効果があった。主人公だからこそ使えるスキルである。


「はあああっ!」


 攻める奏汰。動きも激しく素早いものになった。秀明も動揺の表情をした。

 攻めが守りを上回った。奏汰の剣が秀明を切る。やっと一撃を与えることが出来たのだ。それでも秀明は動じず、斧を振り下ろす。奏汰は避けて距離が開いた。


「はあ……はあ……どうだ!」


「正直舐めていた。Eクラスなんざに負けるとは思えなかった。お前のような者もいるんだとはっきり分かった。だがな、それでも勝つのは、俺だ」


 秀明が構える。


「今度はこっちから行くぞ!」


 秀明が攻めた。奏汰は剣で斧を防御する。だが、


「ぐっ!?」


 防御を上回り攻撃を通してきた。奏汰の制服が切り裂かれ肌が見える。赤い線がよく目立っていた。

 これは秀明の本気だ。奏汰の防御を力技で突破している。


「【スラッシュ】!」


 ファイターのスキル、【スラッシュ】を使った。これは奏汰がレベル5以上であり、ファイターのジョブについたことを意味していた。


「【パワースラッシュ】!」


「ぐああああああぁ!!」


 それを秀明の【パワースラッシュ】が打ち破る。【スラッシュ】が切られ、【パワースラッシュ】が奏汰を切り裂いた。


 可笑しい。秀明はこんな序盤に力を示すキャラではない。本気を出さず、油断して負けた男だ。本気を出すのは2戦目。そんな男が、最初から本気だった。

 【マイティーアップ】を使った時もそうだった。動揺こそしたものの、すぐに冷静になり、対応してきた。最初に見るスキル、見たことのないスキルを前にして出来る行動なのだろうか。

 そして【パワースラッシュ】まで使って倒そうとした。この技は秀明の必殺技と言っても過言ではない。


「まさか」


 俺は誰にも聞こえないほど小さく呟いた。ある考えが過ったのだ。

 もし秀明が全てを、奏汰の動き、スキルを最初から知っていたら。それを教えられる存在がいたら。知る者は1つしかない。


 この戦いにはが関わっている。奏汰に対して悪意を持つプレイヤーがいる。

 それなら、辻褄が合う。秀明は最初から油断なんてしていない。本気だったんだ。


 そんな俺の思考とは別に、クラスメイトは絶望の淵に立たされる。――奏汰が敗北した。





ーーーーーーーー


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければフォロー登録と☆☆☆から評価をお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る